古典には、ビジネスのヒントがすべて書かれている!

SBI証券,北尾吉孝
(画像=THE21オンライン)

ネット証券で圧倒的なシェアを持つSBI証券や、預金残高でネット専業銀行首位の住信SBIネット銀行を中核とした巨大な金融グループをわずか20年弱で築き上げた、SBIホールディングス社長の北尾吉孝氏。その経営手腕の源となっているのは、中国古典をはじめとした書物だ。どのように本を読み、経営に生かしているのだろうか。(取材・構成=杉山直隆、写真撮影=まるやゆういち)

本当に大切なのは「精神の糧となる読書」

北尾氏の読書には、大きく分けて、2つのタイプがある。知識を吸収するための読書と、精神の糧となる読書だ。

「『知識を吸収するための読書』とは、何か明確に知りたいことがあったときにする読書です。例えば、金融や医学について学びたいと思ったときに、それぞれの専門書を読むというようなことです。ただし、目的を遂げれば繰り返し読むことはあまりありません。

一方、『精神の糧となる読書』とは、『人生はいかに生きるべきか』『人間としてどうあるべきか』といった、一生のテーマを考えるための読書で、何度も読み返しています」

特に重視しているのは、後者の「精神の糧となる読書」である。

「具体的には『論語』『孟子』といった中国古典や、『修身教授録』(森信三著、致知出版社)『日本精神の研究』(安岡正篤著、致知出版社)といった人間学、歴史小説などを読むのですが、こうした古典を通じて接する深い知恵は、精神の糧になるのはもちろんのこと、経営に関するヒントもたくさん詰まっています」

古典にはビジネス成功のヒントが詰まっている

例えば、SBI証券がネット証券で圧倒的なシェアを獲得できた要因には、ドイツの哲学者・ヘーゲルの影響があるという。

「2000年前後に、規制緩和によって、ネット証券がたくさん生まれました。その激しい競争のなかで、どんな戦略を取れば勝ち抜けるのか――。ヒントを得たのが、ヘーゲルの本にあった『量質転化の法則』でした。量が質を決め、質が良くなれば、量も増える。このことに関しては、毛沢東も『矛盾論』の中で、『量の蓄積は質を規定する』と似たようなことを述べています」

この『量質転化の法則』をネット証券会社に当てはめ、実行したのが、売買にかかる手数料を圧倒的に安くすることだった。「これでは利益が出ない」というところまで手数料を下げたという。

「その結果、多くのお客様を獲得でき、それによってサービスの質も良くなって、ますますお客様が増えるという好循環を作り出せたのです。 この『量質転化の法則』は私の事業戦略の一つの基本観であり、その後のSBIグループの経営にも影響を与えています。2018年6月より開始した仮想通貨の現物取引サービスに関しても、業界最狭水準のスプレッド(※売値と買値の差のこと)で提供しています。 古典には、永い時を経て読み継がれてきた『不変の原則』が詰まっているのです」

どうすれば会社は伸びるのか、あるいは潰れるのか。どんな人材を登用すべきか。こうした話もまた、古典にヒントがある、と北尾氏は言う。

「たとえば、中国古典を読めば、中国の王朝の歴史を通じて、どうやったら国が栄え、国が潰れるかを学べます。このような組織を運営する要諦は、今も昔も変わりありません。ビジネスパーソンなら古典に触れておかなければ損ですよ」