アメリカ経済の実態は?
世界的な政治問題としてウクライナ危機や中東情勢危機などの地政学的なリスクを孕みながらも、米国経済は全般的に回復傾向が継続しています。一部経済指標については市場予想を下回る動きも見られますが、季節要因によるものと見られており、企業業況や雇用など一段と改善が見られており、労働市場も概ね改善の方向に動いていると言われています。今回はこうした回復基調にあると言われる米国経済について考察及び今後の展望について分析を行います。
経済指標と8月米雇用統計
米国の経済指標については、概ね改善が続いており、経済は拡大基調にあるといえるでしょう。第2四半期GDPは+4.0%とコンセンサスであった3.2%を軽々と上回る結果となっています。2011年まで遡って過去のGDPの訂正がなされ、2013年後半はGDPが+4%の成長となっていたことが明らかとなっており、過去10年で最高の数値です。
特に6月度の企業業況については製造業の企業業況を表す製造業ISM指数は6月に55.3と前月からほぼ横ばいで高い水準を維持しています。新規受注指数は上昇し、雇用指数、在庫指数ともに横ばいで推移しており、生産指数は前月から低下しましたが高い水準を維持しています。非製造ISM指数についても▲0.3ポイントと前月差で小幅の低下を見せていますが、引き続き高い水準を維持しているといえるでしょう。総じて製造業、非製造業ともに堅調な推移が続いていると考えられます。
労働市場も、6月の雇用統計では非農業部門雇用者数が前月差+20万人超えの水準を示しており、業種別にみても小売業、宿泊、食品サービス業、ヘルスケアなど幅広い分野において雇用の拡大が続いていると見られます。7月入り後の米失業保険新 規申請件数は平均すると30万人台で推移しており、雇用改善の継続を示唆しています。7月の雇用統計においても、非農業部門雇用者の6ヶ月連続で前月比増加幅が20万人を超える値となりましたが、民間セクターの賃金が横ばいとなり長期失業者の改善が見られないとやや期待外れの数値に落ち着いています。
8月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が14.2万人増、失業率が6.1%となりました。事前予想では、非農業部門の雇用者数は前月比で23万人の増加予想が見込まれておりましたので、事前予想を大幅に下回るネガティブサプライズとなりました。ただ、これまで雇用が急速に増えてきたことを考えると、増加幅が拡大しにくくなる点についてはある程度は仕方ないといえます。7月まで6カ月連続で20万人超えしてきており、今年に入ってからの月平均雇用増も21.5万人と20万人超えを維持して来ております。雇用拡大ペースは悪くなく、今回だけの結果をみて悲観的に捉える必要はないといえます。長期失業者の減少、わずかではあるは賃金が増えるなど、質的にも改善した面もあります。一時的要因を含めて考えるとそれほど悲観的な内容ではありませんが、雇用・所得環境の改善ペースは加速しているわけでもありません。金融政策の先行きを考えるにあたっては、慎重な判断が求めらます。 イエレンFRB議長が「雇用環境の改善は最終的に賃金に波及する」として挙げたことで、「質」の指標のなかでも賃金上昇率への注目度が高まっています。7月の時間当たり賃金伸び率(全雇用者ベース)は前年同期比で見て+2.0%(前月:+1.9%、市場予想:+2.2%)、前月比で見て+0.0%(前月:+0.2%、市場予想:+0.2%)と伸び率はほぼ横ばいにとどまり、市場予想を下回っています。管理者を除く生産者ベースで見ると、2012年の後半を底にして上昇基調にありましたが、2014年に入ってからは上昇ペースに以前ほどの勢いにブレーキがかかっております。少なくとも、イエレンFRB議長が適正水準とする3-4%とは乖離があります。
個人消費についても、寒波の影響を考慮し全米小売業協会(NRF)は小売売上高予想を前年比で+3.6%と下方修正していますが、2014年後半にかけて消費は堅調であるとの見方が強く、消費者マインドについても、概ね良好な水準を維持しています。個別消費についても新車自動車販売台数、コア小売についても堅調な伸びを示しており、寒波後の財消費が概ね順調に回復しているといえる形となっています。