独自のシステムで、シェフが「努力するきっかけ」を作る

Mellow,森口拓也
(画像=THE21オンライン)

――御社は、ITの上場企業である〔株〕イグニスの取締役だった柏谷氏が創業した、同社の関連会社で、システムが強みの一つだと聞いています。

森口 『Kitchen』という基幹システムを内製していて、売上げの管理などをしています。

フードトラックによるランチ販売は、同じ場所で、曜日ごとに別の事業者が行なうのですが、Kitchenの特徴は、場所ごとに、販売数の平均と、最も多い事業者は何食売っているのか、最も少ない事業者は何食売っているのかを開示していることです。

Mellow,森口拓也
(画像=THE21オンライン)

これまでは、同じ場所で別の曜日に営業している事業者が何食販売しているのか、知ることができませんでしたから、売れ行きが芳しくないと思ったときに、それが場所によるものなのか、工夫次第で売れるようになるのか、判断できませんでした。

Kitchenによって、他の事業者は同じ場所でもっと売っているということがわかれば、接客やメニューなどを改善して、集客の努力をしようという気持ちになります。いわば、「努力するきっかけ」ができるわけです。

1店当たりのデイリーの売上げを2016年度と17年度で比較すると、144%に伸びました。これは、大手の外食チェーンや中食チェーンと比べても、高い成長率です。

――データは、各事業者がそれぞれ入力する?

森口 そうです。

データは、今年3月から始めた、4カ月に1回の「スケジュールの最適化」にも活用しています。

以前は、「月曜日はAさんの唐揚げの店、火曜日はBさんのローストビーフ丼の店」というような、営業スペースごとに決まっているスケジュールが変わることは、ほとんどありませんでした。普通の店舗なら、家賃が払えなくなったら撤退して、新しい店が入るという循環が起きるのですが、フードトラックは固定費がほとんどかからないからです。そのため、新しくフードトラックを始める方がどんどん増えているのに、その方たちが入り込むことができませんでした。

ランチを購入するお客様も、曜日ごとに店が変わるとはいえ、スケジュールが固定していると飽きてきます。

そこで我々は、データをもとにして、スケジュールの最適化を行なうことにしたのです。

――「最適化」というのは、具体的に言うと?

森口 まず、事業者の方のモチベーションが高まるよう、出店したい場所の希望を聞きます。そのうえで、曜日ごとのメニューの組み合わせや、事業者の方の拠点と営業スペースの位置関係、過去の実績など、様々なデータから、アルゴリズムを使って仮のスケジュールを組みます。そして、それをフードトラック事業のベテランが見て修正し、最終的に決めています。

――シェフの方々の反応はいかがでしょうか?

森口 2回やったところで、まだ慣れないという方も多いので、コミュニケーションを取りながら徐々に進めていければと思っています。

ただ、必要性は理解していただけていると思います。特に新しく始められた方には、人気の場所で営業できるチャンスがあるということで、大いに喜んでいただいています。新しい方が入ると、同じ場所で営業しているベテランの方も「うかうかしていられないな」という気持ちになるようですね。

――ちなみに、人気のメニューはあるのでしょうか?

森口 メニューは本当に様々で、何が人気というようなことはありません。

イベントのときだけ出店するのなら、目立てば売れるということがあると思いますが、ランチ販売をするフードトラックにとってはリピーターが重要です。人気のメニューは何かと言えば、こだわって作った、リピーターがつくくらい美味しい料理ということになるでしょうか。

東京は土地が狭いので、小さな敷地でも営業できるように中型~小型のフードトラックが多く、それに収めるためにはキッチンの広さも限られます。それでも美味しく作れるよう、各シェフが工夫をこらしています。

――新たにフードトラックを始める人が増えているということですが、その背景には何があるのでしょうか?

森口 東京都で営業許可を取得した調理可能な移動販売車の数は、この10年で約2倍になっています。

その一つの要因として、若い方を中心に、会社に属さず、自由に自分の人生を選択していくことが当たり前だと考えている方が増えているのかな、という気がしています。

会社に勤めていると、手取り20万~30万円の給料をもらうために、納得できなくても上司に従わなければならない。けれども、手取り20万~30万円なら、フードトラックを頑張って経営すれば手に入る。インターネットが普及したことで、そうした情報が簡単に手に入るようになったことも影響しているのではないでしょうか。

以前なら、飲食店を経営するためには、修業をして、1,000万円ほどの資金を作って、さらに500万円くらいの借入れもして、店を出すのが当たり前でした。そして、2年で半数が潰れてしまう。インターネットの普及によって、こうした道以外にもフードトラックという選択肢があるということを、多くの方が知ることにもなったのだと思います