先日の欧州中央銀行(ECB)理事会に対する投資家の反応から、投資家がどれほど敏感になっているかが窺える。ECBが2020年まで利上げを延期し、長期資金供給オペレーション(LTRO)を再開させることについて本当に驚くべき唯一のことは、そのタイミングである。
欧州のエコノミストは数ヶ月に渡って着実に経済の見通しを引き下げている。ECB理事会のちょうど前日、経済協力開発機構(OECD)はユーロ圏の経済成長率の予想を1.8%から1%へ下方修正した。新たな予想では、ECBが9月に利上げを再開する可能性はさらに引き下げられた。加えて、ECBはこれまで9月以前に利上げすることはないと述べてきている。
1月、ECBのマリオ・ドラギ総裁は、リスクはなお下方に傾いており、ECBはインフレターゲットを達成するために「あらゆる手段を調整する準備が出来ている」と述べた。貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)は銀行に対して流動性を提供するための手段として実施されるとアナリストは考えている。
つまり、ECBが経済成長率の予想を1.7%から1.1%へ引き下げたのは、一般的な予想に近づいただけなのである。唯一のサプライズは予想インフレ率が1.6%から引き下げられて1.2%と予想されていることである。これはECBの目標である2%を大きく下回っている。
つまり、ECBはアナリストの予想よりも早く引き金を引き、後のアクションのための根拠を準備する時間を作ったと考えられる。
ユーロはECB理事会に反応して下落した。ユーロ圏における利上げが延期されることを考慮に入れると米国債がより魅力的になるので、ユーロ債の利回りだけでなく米国債の利回りも下落した。同様に、米国株式市場も下落し、予想を大幅に下回った8日発表の雇用統計がさらに株価を下押した。
ドラギ総裁はECBの先制的なアクションは欧州経済の今後の行く末についての答えを示していない。実際、欧州での出来事はその疑問の答えにはならないだろう。中国の景気刺激策がどれほど成功するか、そして貿易摩擦が解決するかどうかにかかっている。
現段階で本当に懸念すべきことはECBが景気刺激策を使い果たしてしまったかどうかである。ブレグジットが悲惨な結末となった場合や中国の景気刺激策が欧州の経済を活性化させられなかった場合、LTROの再開を除いてECBができることはほとんどないだろう。マイナス金利下ではさらなる利下げは難しく、銀行に対する流動性の提供はすでに実施されているからである。
ブレグジットが英国経済をどれだけ傷つけるかについてはさんざん語られているが、EU諸国への影響にはほとんど注意が払われていない。EUと英国間の貿易は双方向で行われている。ドイツのエコノミストは最近、合意なき離脱がドイツにおいて10万人の雇用に影響を与えうるとの試算を発表し、EU諸国へ衝撃を与えた。
つまり、投資家が敏感になるだけの十分な理由があるのである。マーケットはECBのアクションに対して過剰反応しているが、誰がそのことを批判できるだろうのか。ドラギ総裁は様々な批判に対して十分に対応しており、10月のECB総裁としての職を退くことを望んでいないだろう。
その他の懸念としては、ECB総裁の後継者がいないことである。有力候補であったバイトマン独連邦銀行総裁はドイツ政府に再任され後8年の任期がある。
ドラギ総裁の支持をほとんど得ていないフランス銀行のフランソワ・ビルロワドガロー総裁しか目ぼしい候補はいないようだ。更に悪いことは、Benoît Cœuré氏はECB理事会のメンバーとしての任意が今年度末に終了するので、円滑にECB総裁となることはできず、フィンランドとの移行措置が必要となる点である。(提供:Investing.comより)
著者:Darrell Delamaide