2018年度(平成30年度)に改正が行われた事業承継税制は、中小企業経営者が事業承継を進めるための後押しとなるべく改正されましたが、注意したい点もあります。変更点とともに注意したい点を見てみましょう。

なぜ事業承継税制が改正されたのか?

2018年度,平成30年度,改正,事業承継税制
(写真=PIXTA)

大相続時代を迎える中、2018年度の事業承継税制の変更によって後継者の納税負担が大きく軽減されることとなりました。これまで事業承継をしたくても後継者不足や相続対策・納税対策に悩んだ中小企業経営者や、経営者の死をきっかけに事業承継したものの納税期限までに相続税を納められず資金繰りに奔走する後継者の事例が跡を絶ちませんでした。そのため、後継者を用立てきれずに優良な黒字企業が廃業するケースが見受けられたのです。

国としても後継者不足や税制負担の観点から優良企業が廃業し、GDPにも影響が出かねない事態を緊喫の課題としていました。日本は97%が中小企業であるにもかかわらず、2025年まで135万社が廃業するといわている中、事業承継を円滑に行い、中小企業が事業を永続的に進められるように今回の税制改正に踏み切ったのです。

2018年度(平成30年度)事業承継税制の改正点

2018年度(平成30年度)に改正が行われた事業承継税制の大きな変更点を確認しましょう。そもそもこの制度自体は、これまであった事業承継税制の一般措置と並べて10年間の特例措置として創設されました。

事業承継税制は、未上場の中小企業経営者から後継者が自社株を承継する時に相続税や贈与税が一部猶予されるという制度です。大前提として中小企業であり、資産管理会社や上場会社、風俗営業会社に該当していないことが重要です。会社の代表者であり、筆頭株主であった経営者と、会社の代表者になり、筆頭株主となる後継者という要件に当てはまっていなければなりません。

さらに、この特例措置では5年間の間後継者が自社株を守りながら会社の代表者として会社を経営すること、そして従業員の雇用を平均で80%を下回らないようにすることが求められています。

これまでは納税猶予となる株式数は発行済み議決権株式総数の2/3までが上限と決まっていましたが、今回の改正によって納税猶予の対象となる非上場株式の制限の撤廃や相続税の納税猶予割合が80%から100%までに引き上げが行われることとなりました。そして、事業承継税制を活用する場合、実質納税負担がなくなったのです。

事業承継税制、注意点もある

大きなメリットがあると考えられる事業承継税制ですが、納税優遇を受けるためには事業を存続することが重要です。

経営者が交代するすると、取引先との関係が解消されたり、マネジメントの経験不足から従業員の不満が出たり、別の企業へ離脱する可能性もあります。

さらには、リーマン・ショックのような不況が訪れれば自社の経営状況が悪化し、資金繰りが必要な場面が出てくる場合もあります。しかし、自社株を引き継いで事業を継続するなら自社株(同族会社株式)は売却や換金ができません。

また、先程もお伝えしたように、5年間は雇用の80%を継続しなければなりません。資金繰りが悪化すれば、当然自社株を売却したり、リストラを検討することもありえますが、それらをしてしまえば、納税猶予されていた相続税又は贈与税の納税が必要になるのです。

自社株を売却したいと思っても、自社株評価は相続又は贈与時点の評価になります。今の自社株評価額が下がっていたとしても、その時の評価にならないことには注意するほうがよいでしょう。

事業承継税制を活用するためには後継者の育成が急務

事業承継税制は中小企業経営者にとってメリットがあることを説明しました。しかし、その分注意点があることを忘れてはいけません。後継者が事業承継を行って数年の間に資金繰りが必要な状況に陥ると、会社・後継者個人の両方に大きな負担がのしかかります。

経営者が引退したり、万一のことがあったとしても、後継者が自らの経営手腕を発揮し、会社として成長していけるように、事業承継期間中に育成をすることが重要です。(提供:企業オーナーonline

【オススメ記事 企業オーナーonline】
事業承継時の「自社株評価」どのような算定方法があるのか?
不動産を活用し、事業承継をスムーズに進める方法とは?
法人税の節税対策をご存知ですか?
職場の「メンタルヘルス対策に関わる課題・悩みあり」が6割以上
経営者必見!「逓増定期保険」で節税する時のメリット・デメリット