企業をホールディングス化するメリットには、意思決定の迅速化やコーポレートガバナンス、リスク分散、就業形態や評価制度の独立性強化などがあります。言い換えれば、攻めやそのための体制は各会社に任せるかわり、必要な方針や守りの体制は全社的に磐石にするといったらいいでしょうか。だからこそ、事業の拡大などを視野に入れている場合、企業の売却を考えている事業主からの信用を得られやすいといったメリットも挙げられます。現在、政府のバックアップによって急増しつつある事業承継に、企業のホールディングス化はどのように貢献できるかについて説明します。
事業承継で過半数を超える「第三者引継ぎ」
経済産業省のバックアップもあって、事業承継の件数が大幅に増えています。中小機構の調査によると、事業引継ぎ支援センターにおける平成24年度(2012年)の事業承継件数は17件でしたが、平成29年度(2017年)には687件と40倍に増えています。
事業引継ぎ支援センターがサポートした事業承継のうち、実に67%が第三者への事業の引継ぎです。従業員への引継ぎは21%、親族内引継ぎは12%となっており、第三者引継ぎの割合が高いことが分かります。もちろんこれは中小機構のサポートを必要としたケースなので第三者引継ぎが多いという側面もあるでしょう。あまり接点のない第三者に企業を売却する第三者引継ぎよりは、親族内で経営者を交代する親族内引継ぎのほうがスムーズに進行しやすいことは想像するに難くありません。
一方、東京商工リサーチによる中小企業を対象とした調査によると、2015年時点の経営者交代数は、親族内での交代が1万6,131件であるのに対し、第三者交代が1万9,104件となっています。第三者への承継はここ数年横ばいまたは微減となっているものの、件数としては親族内引継ぎよりも多くなっており全体の過半数を超えるものとなっています。
売り手は第三者に何を望んでいるか
第三者引継ぎを行う際には、初めて会う相手に企業の未来を託さねばならないことも少なくありません。売り手となる経営者としても当然そこには不安が生じることでしょう。中小企業庁の調査(2013年)によると、売り手側が買い手となる第三者人材に望む条件として「経営に対する意欲が高いこと」が約40%となり、圧倒的多数に上ります。
また全体の約15%となる第二位は「自社の事業・業界に精通していること」です。これらを併せると、売り手となる経営者の多くからは「自社と従業員を大事にし、さらに事業を発展させて欲しい」という希望が見えてきます。これは言い換えれば、例えば同じ条件で企業を購入しようとした場合、売り手となる経営者は、単なる儲け一辺倒ではなく、買い手が自社や業界をよく知っており、かつ自社を大事にしてくれるほうを選ぶ可能性が高いと言えます。
個人と企業、信用が高いのは?
企業を譲渡するにあたり、売り手側もいろいろな思惑を働かせます。その際、大切になるものはやはり「信用」です。たとえ買い手が一社(一人)だけであったとしても、売り手からの信用が低い場合、「この人に売るのはちょっと……」とか「次の買い手が出てくるまで待つことにしよう」と思われてしまうおそれもあります。
第三者への事業承継は、買い手がただお金を出せばうまくいくというものでもありません。売り手と買い手双方に信用が得られ、お互いに納得のいく条件で折り合いがついてはじめて売買が成立するのです。だからこそ、買い手側も個人であるよりは、できれば企業であったほうが信用を得られます。中でも単なる企業ではなく、先に述べたように売り手側の事業をよく分かっており、従業員たちが活き活きと活躍できる企業グループを求めているといってもいいでしょう。
第三者引継ぎにおけるホールディングス化のススメ
第三者引継ぎの場合、売り手からの信用を獲得しつつ、しかも売却したいという経営者の思いをより強くするための方法に、買い手側企業のホールディングス(持株会社)化が挙げられます。ホールディングス化するということは、企業が多角的に、かつ組織的に経営を行っているのでは?という意味合いを含みます。
そうなると売り手側としても、個人事業主や小規模な一事業を行っている企業よりは安心感を得ることができるでしょう。加えて、グループ企業の一員として多角的な経営に参加するという価値を持つため、売却することそれ自体にポジティブな要素を多分に含むことができるのです。
魅力的な提案としてのホールディングス化
事業承継で自社を売却するということは、ときに売り手にとって断腸の思いになることもあるでしょう。しかし譲渡先の企業が成長戦略を描き、ホールディングス化などによる組織体制を強固なものにしている場合、事業承継を考えている事業主の不安は軽減されるでしょう。買い手となりうる企業のホールディングス化は、売却希望の企業経営者に対して安心と信用を与えるという意味で、魅力的な提案になり得るでしょう。(提供:みらい経営者 ONLINE)
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