(4) ホテル
観光庁によると、2019年3月の外国人の延べ宿泊者数は、+26%と大きく増加した(図表-20)。STR社によると、ホテルの平均客室単価(ADR)は東京を中心に上昇しているが、一部のエリアでは下落圧力も見られる。2019年3月の大阪のADRは前年同月比▲10.6%下落した(図表-21)。昨年の自然災害によって下落した客室稼働率はADRの引き下げにより早期に回復したが、その後もADRは下落傾向が続いており現在も戻っていない。大阪市内で宿泊特化型ホテルの建設が増加しており、単価の安い簡易宿所や民泊との競合も厳しくなっていると思われる
(5) 物流施設
CBREによると、大型マルチテナント型物流施設の空室率(2019年第1四半期)は、首都圏が4.9%(前期比+0.1%)、近畿圏が9.1%(▲3.9%)となった(図表-22)。引き続きeコマース市場が拡大し、交通アクセスに優れた大型物流施設への需要は旺盛であるほか、物流コスト削減などを目的に、これまで空室率の高かった圏央道エリアでも空室の解消が進んでいる。また、一五不動産情報サービスによると、2019年1月の東京圏の募集賃料は4,180円/坪(前期比▲40円)とやや下落、関西圏は3,460円/坪(±0)は横ばいとなった。
J-REIT(不動産投信)・不動産投資市場
(1) J-REIT(不動産投信)
2019年3月末の東証REIT指数(配当除き)は、2018年12月末比7.5%上昇しTOPIX(+6.5%)をアウトパフォームした。セクター別では、オフィスが9.0%、住宅が8.0%、商業・物流等が5.3%の上昇となった(図表-23)。3月末時点のバリュエーションは、純資産9.8兆円に保有物件の含み益3.1兆円を加えた12.9兆円に対して時価総額は約14.1兆円でNAV倍率は1.1倍、分配金利回りは3.9%で10年国債利回り(▲0.09%)とのスプレッドは4.0%である。
需給面では、引き続き海外投資家による積極的な買いが目立つほか、リテール向けJリート投信からの資金流出に歯止めがかかり買い越しに転じたことが価格上昇に寄与した。また、2019年第1四半期の新規上場は2社で銘柄数が63社に増加する一方で、J-REITによる物件取得額は4,429億円(前年同期比▲37%)に留まり大きく鈍化した(図表-24)。
2018年度の東証REIT指数は13%上昇し3年ぶりのプラスとなった。株式市場が下落に転じるなか急ピッチの上昇に対する警戒感も指摘されるが、直近4年間の上昇率は2%に過ぎず概ねレンジ内での動きとなっている。
この4年間の騰落率について、(1)分配金成長、(2)10年金利、(3)REIT市場に対するリスクプレミアム(分配金利回り-10年金利)の3つの要因に分けて寄与度を確認すると、(1)分配金は毎年増加し累計27%のプラス寄与、(2)10年金利は16年度を除いて低下し累計14%のプラス寄与となった(図表-25)。 これに対して、(3)リスクプレミアムは15年度から17年度にかけて大きく上昇し累計39%のマイナス寄与となっている。つまり、この間、分配金が増加し10年金利が低下したにもかかわらず、リスクプレミアムの上昇(2.7%→4.0%)がこれらの効果を打ち消した結果、REIT市場の値動きはほぼ横ばいであった。
これまでのリスクプレミアム上昇は、不動産市況のピークアウトや金利上昇への懸念、Jリート投信からの資金流出などが理由に挙げられる。しかし、18年度はこれらの懸念材料を消化し投資家心理が改善したことでリスクプレミアムは縮小に転じ、分配金増加・10年金利低下・リスクプレミアム縮小がバランスよく市場の上昇に寄与した。
(2) 不動産投資市場
日経不動産マーケット情報(2019年5月号)によると、2019年第1四半期の不動産売買額は、9,642億円(前年同期比▲26%)に留まり、2013年以降で最低の水準となった。今期は大半の取引事例が100億円台であったが、投資に適した大規模優良物件の不足が売買額減少の要因の一つとして指摘されている。
RCAによると、海外投資家による直近12ヶ月間の国内不動産売買金額(2019年第1四半期、速報ベース)は売り買いともに減少し、ネットでは売り越しとなっている(図表-26)。
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渡邊布味子 (わたなべ ふみこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員
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