要旨
- メイ首相が、与党・保守党の党首を辞任する方針を表明した。野党に譲歩を促すための「新たな提案」が、与党内で強い反発を招き、4度目の離脱案の採決という最後の挑戦は許されなかった。
- 英国のEU離脱混迷の根本の原因はキャメロン前首相がEU離脱の判断を国民投票に委ねたことにあるが、EUへの離脱意思通知のタイミングや解散総選挙という賭けなどメイ首相も判断ミスを繰り返した。「悪い協定を結ぶよりも協定を結ばない方がまし」というフレーズを繰り返し用いたこともその1つだ。
- 次期首相となる保守党の党首選の候補者でボリス・ジョンソン前外相は頭一つ抜きん出ている。賛否は分かれるものの、最強硬派で発信力のあるジョンソン前外相に「選挙に勝てる顔」としての期待が掛かりやすい。ポスト・メイのEU離脱は、強硬派の新首相が、合意なき離脱も辞さない構えで「いいとこどり」を求める瀬戸際戦術を試す局面となりそうだ。
- 強硬派の新首相の瀬戸際戦術は「合意なき離脱」の確率を高める。EUは合意なき離脱は望んでいないが、EUの原則を曲げる譲歩をしてまで阻止しようとは思っていない。EUへの影響を抑える一方的、時限的対応はすでに準備済みだ。「管理された合意なき離脱」に応じることもないだろう。
- 「合意なき離脱」が現実味を帯びてくれば、不信任案の可決ないし自主解散による総選挙が歯止めとなる可能性がある。欧州議会選挙では、党内の分裂で離脱戦略が曖昧な二大政党が得票率を下げ、「合意なき離脱」派と「離脱撤回・再国民投票」派に票が割れた。今後、保守党は「合意なき離脱」派寄り、労働党は「離脱撤回・再国民投票」派寄りに動きそうだ。
- 強硬派首相の瀬戸際戦略の次の局面では、「合意なき離脱」派と「離脱撤回・再国民投票」派のどちらが連携を実現できるかにEU離脱問題の進路が委ねられるのかもしれない。
- メイ首相が退場しても、EU離脱を巡る霧が晴れるまでには、なお時間が掛かりそうだ。