65歳定年制が増えてきているにも関わらず、60歳以上でも働き続けた場合、年金が減額されることがあります。在職老齢年金と呼ばれるこの制度は、働く意欲を低下させてしまうような一面があるため、リスクとしてぜひ知っておきたいところです。本稿では、在職老齢年金制度や仕組みなどについて説明します。
企業における定年の推移
1980年代前後まで国内企業の多くは、定年の年齢が55歳までだったといわれています。しかし、1986年、高年齢者雇用安定法が施行されるとともに定年が60歳に広まるようになったのです。さらに、少子高齢化による国内労働人口の減少などに伴い、雇用延長が義務化されました。2019年5月には、公務員の定年を段階的に65歳まで延長する方針が検討されています。
在職老齢年金とは
今後は、より一層「定年65歳」が社会へ浸透していく可能性が高いため、65歳以降も働くことに生きがいを見出したり、収入の確保のために働いたりする人も増えていくでしょう。しかし、労働によって収入が増えた場合、今度は受け取れるはずだった老齢年金が減らされる可能性があるのです。この制度を「在職老齢年金」と呼びます。
在職老齢年金は、厚生年金の制度の一種です。そのため、国民年金に含まれる老齢基礎年金の支給には影響しません。在職老齢年金は、厚生年金に加入していた場合、厚生年金と給与の金額に応じて厚生年金の額が調整されます。在職老齢年金は、年金受給中に働くと年金が停止する場合があるため、一見すると働いている人に不公平な制度に感じる人もいるでしょう。
これを説明するには、在職老齢年金の本来の役割について理解する必要があります。年金は、原則的に退職者のための福祉制度です。賃金が一定以上の額となる人の場合は、年金の補助がなくても生活が成り立ちます。しかし、多くの人は高齢になるにつれて賃金は低くなる傾向にあるため、賃金単体では生活が成り立たない人が続出しました。
そのため、低い賃金を補うために年金を受給できるようにしたのが在職老齢年金制度の本来の役割なのです。
在職老齢年金の仕組み
在職老齢年金は65歳未満か、65歳以上かで計算方法が変わります。
60歳以上65歳未満の場合
基本月額(厚生年金の額)と、総報酬月額相当額によって決定します。なお、総報酬月額相当額の計算は「当該月の標準報酬月額+当該月以前1年間の標準賞与額÷12」です。全額支給は、基本月額と総報酬月額相当額の合計が28万円を超えると、金額に応じて在職老齢年金の調整が開始されます。
65歳以上の場合
65歳以上の場合、基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円を超えると、金額に応じて在職老齢年金の調整が開始されます。
年金のために働かない方が得?
年金の調整が行われるのは、65歳未満であれば基本月額+総報酬月額相当額が28万円、65歳以上であれば47万円です。「この金額を超えるのであれば働く価値はなくなるのでは?」と懸念される人もいるかもしれません。結論からいえば、働く価値はあります。なぜなら、先の28万円もしくは47万円を超えて年金が減額されたとしても、その対象は基準を超えた金額のさらに半分であるためです。
本来もらえるはずだった年金が減らされるのは確かに残念に感じるかもしれません。しかし、働いた分、70歳以降の厚生老齢年金額が増額されるため、将来へのさらなるリスクヘッジと思っておくのが得策だといえるでしょう。
働くと損とは一概に言えない
在職老齢年金は、働いたことで基準額を超えてしまうと、受給額の一部が減らされてしまう可能性があります。働かなければ、もらえたお金が受給できないため、「働き損」と感じてしまう人もいるかもしれません。しかし、賃金などを適正に定めることで年金額の減額を避けることも可能です。また、年金が停止や一部停止するということだけでなく、70歳以降の厚生老齢年金が増額されることも押さえておきましょう。
目先の年金額が一部停止されたとしても、心身ともに元気なうちは懸命に働き続け、「70代以降はその分多めの年金を受給する」という考え方も選択肢の一つといえます。(提供:Dear Reicious Online)
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