中国経済の概況
中国経済は昨年来の減速に歯止めが掛かった。19年1-3月期の成長率は実質で前年比6.4%増と前四半期(同6.4%増)と同率に留まり、1年ぶりに横ばいとなった(図表-1)。
18年に中国経済が減速した要因のひとつに債務圧縮(デレバレッジ)がある。中国政府がデレバレッジに舵を切ったのは、17年の党大会後に開催された中央経済工作会議でのことで、2020年までの中期的な目標とされている。中国の非金融企業が抱える債務残高はGDP比約150%とG20諸国で最大、このまま放置すれば将来に大きな禍根を残すと考えたからだ。債務が拡大した発端はリーマンショック後の4兆元の景気対策にあるが、15年に株価が急落した時の景気対策でも債務が上乗せされた。そして、中国政府がデレバレッジを推進した18年、インフラ投資は急減速し、15年10月に導入された小型車減税が17年末で期限切れとなったことも自動車販売の足かせとなった。しかし、19年に入ると、18年12月の中央経済工作会議で打ち出された景気対策が徐々に効果を発揮し始め、インフラ投資はボトムアウトすることとなった。
景気を悪化させたもうひとつの要因に米中対立がある。中国の将来を担う「中国製造2025」関連産業で不透明感が強まり、製造業の投資がピークアウトした。また、「産業のコメ」と言われる集積回路(IC)にも悪影響を及ぼし、データセンター建設ラッシュは沈静化、中国における仮想通貨バブル崩壊でマイニング需要の落ち込みや次世代通信規格(5G)への移行期に差し掛かったスマホの買い控えも重なり、ITサイクルはピークアウトした。19年に入り米中合意の期待が高まったため、一旦は企業マインドが改善した(図表-2)。但し、5月になると関税引き上げが再開、米商務省がファーウェイを「エンティティー・リスト」に加えるなど、再び先行き不透明感が強まってきた。
一方、19年1-5月期の消費者物価は前年比+2.2%、食品・エネルギーを除くコア部分では同+1.8%となり、抑制目標「3%前後」を下回っている。5月には家畜伝染病「アフリカ豚コレラ」の蔓延で、豚肉価格が前年比で18.2%上昇したが、食品以外は今のところ安定している(図表-3)。
景気10指標の点検
【供給面の3指標】
工業生産(実質付加価値ベース)の動きを確認すると、19年4-5月期は前年比5.3%増(推定(1))と、1-3月期の同6.5%増を1.2ポイント下回った(図表-4)。業種別に見ると、製造業が1-3月期の前年比7.2%増から4-5月期には同5.2%増(推定)へ鈍化している。鉄精錬加工やコンピュータ・通信・その他電子設備は伸びを高めたものの、自動車や紡績がマイナスに落ち込み、化学原料・化学製品、電気機械・器材、鉄道・船舶・航空宇宙・他運輸設備も減速した。なお、鉱業と電力エネルギー生産供給はやや伸びを高めている(図表-5)。
一方、PMIの動きを確認すると、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)は(図表-6)、3月には50.5%に回復したものの、その後は4月が50.1%、5月が49.4%と2ヵ月連続で低下し、5月には新規受注が50%割れとなり、予想指数も54.5%へ低下したため、製造業の先行きは楽観できない。他方、非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)は(図表-7)、5月も54.3%と拡張・収縮の境界線となる50%を大幅に上回る水準を維持しており、5月の予想指数も60.2%と高水準を維持したため、非製造業の堅調はしばらく続くと見られる。
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(1)中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
【需要面の3指標】
個人消費の代表指標である小売売上高の動きを確認すると、4-5月期は前年比7.8%増(推定)と1-3月期の同8.3%増を0.5ポイント下回った(図表-8)。一定規模以上の統計で内訳を見ると、化粧品は伸びを高めたものの、飲食、衣類、日用品、家電などの伸びが鈍化した。なお、1-5月期の電子商取引(EC、商品とサービス)は、前年比17.8%増とその勢いはやや鈍ってきたものの、BAT(百度、阿里巴巴、騰訊)などプラットフォーマーが新たな消費を生み出す流れを背景に、全体を上回る高い伸びを維持している。今後は、調査失業率の上昇や株価反落が足かせとなるため、多くは期待できないものの、消費者信頼感指数や住宅価格が堅調なため失速する恐れは小さい。
次に、投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを確認すると、4-5月期は前年比4.6%増(推定)と1-3月期の同6.3%増を1.7ポイント下回った(図表-9)。投資の3大セクター別に見ると(図表-10)、製造業の投資は前年比0.1%減(推定)と失速しており、米中対立の悪影響が顕在化してきている。他方で、不動産開発投資は同10.3%増(推定)と1-3月期に続き高い伸びを維持、インフラ投資も同3.4%増(推定)と債務圧縮(デレバレッジ)で前年割れとなった18年7-9月期をボトムに持ち直しつつある。今後も米中対立の悪影響が続くと見込まれるため、製造業の投資の先行きは楽観できないものの、1-3月期に地方政府債を増発した影響でインフラ投資が増えると見込まれるため、投資全体の底割れは回避できると見ている。
一方、もうひとつの経済の柱である輸出(ドルベース)の動きを確認すると(図表-11)、4-5月期は前年比0.8%減と1-3月期の同1.3%増からマイナスに転じた。先行指標となる新規輸出受注は12ヵ月連続で50%を割り込んでおり、輸出の先行きは引き続き楽観できない状況にある。