「公的年金だけでは老後が心もとない」というのは多くの人が前々から心配していたことですし、mattoco Life編集部からも老後の資産形成の重要性については継続してお伝えしてきました。本記事では6月初めに金融庁が発表した報告書に関する概略と、老後の生活費を補填するために必要なことについて改めてまとめています。
平均的な高齢夫婦無職世帯の生活費は毎月5万円不足する試算
金融庁が発表した「高齢社会における資産形成・管理」報告書に記載された内容の概要は以下のようなものです。
・少子高齢化に伴って、年金の実質的な給付水準が下がる可能性がある ・今後は公的年金のみで満足のいく生活水準を維持するのが難しい可能性がある ・このため、就労の継続や支出の軽減、資産形成など個人の自助が必要
同報告書によると、収入が年金給付だけの夫65歳以上、妻60歳以上の平均的な高齢夫婦無職世帯の場合、実収入20万9,198円を実支出26万3,718円が上回り、毎月約5万円の赤字が発生するとしています。単純計算をすると、夫が65歳まで働き、90歳まで生きるとすれば25年。トータルで1,500万円の赤字になるということになります。金融庁が「自助が必要」と言っているのは、この赤字分に対してということです。老後資金として不足している金額は、実はおおむねこれまでの記事で試算してきたとおりの数字です。
参考記事:「老後の具体的な生活費を知りたい!実際にいくらかかるの?」
参考記事:「65歳から必要な老後資金、自分に必要なのはいくら?資産形成&運用方法を解説」
出所)金融庁 金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
老後も仕事を続けて働けるか?
国は「就労の継続」を自助の方法の一つとして挙げているわけですが、これは65歳以降の労働について言及していると考えるべきでしょう。
すでに年金の受給年齢は原則65歳からに引き上げられており、60歳で定年を迎えた場合、受給までに空白の5年間ができてしまいます。それを防ぐために2013年に改正されたのが高齢者雇用安定法です。高齢者雇用確保措置として、企業は
・65歳まで定年の引き上げ
・65歳までの継続雇用制度の導入
・定年の廃止
以上のいずれかを実施することが定められています。現在勤めている会社で定年(60歳)を迎え、再雇用制度や勤務延長制度を利用して年金がもらえる65歳まで働き続けるという方法は、「65歳までの継続雇用制度の導入」にあたります。関連子会社などへの再就職ケースもこれに含まれます。
出所)厚生労働省 高年齢者の雇用
問題は、65歳以降はどうしたらいいのかという点です。
もちろん充分な貯蓄があれば無理に働き続ける必要はないのですが、老後も働くという状況は、多くの人にとって検討すべき選択肢であると言えます。実際に、2016年時点の調査では65~69歳の男性の半数以上、女性でも3割ほどは就労しているデータが出ており、日本は「働けるうちは働く」という傾向が強いようです。
出所)金融庁 金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
65歳以降、同じ会社で働き続けることが難しくなれば、転職することになります。現在、全国240箇所のハローワークでは「生涯現役支援窓口」が設けられ、65歳以上の方の就職支援を行なっています。民間でもシニア向けの求職サイトやエージェントを通じた人材紹介サービスは登場しはじめており、充分な知識や技能を有している人材であれば、シニアであっても会社や知人の紹介で再就職することも可能でしょう。
出所)厚生労働省「生涯現役支援窓口」のご案内
その際は同業他社への転職の方が経験を活かせますし、業務内容に対しても抵抗なく新しい環境に馴染めます。老後も長期間就労することを考えるなら、30~40代のうちから知識や技術を活かせるキャリア形成を考えておくべきでしょう。一方で、興味のある全く違う分野の会社に再就職するのも決して悪くはないでしょう。新しい環境に身を置くことで刺激が生まれ、働くことへのモチベーションを維持できることもあるはずだからです。留意しておくべきなのは、いずれの場合でもこれまでより給与が下がる可能性が高いということです。高齢者の再雇用時の給与水準は65%ほどと言われます。毎月50万円の給与があった人なら、32万5,000円にまで下がるということです。
出所)金融庁 金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
ただ、いざというときのための貯蓄は温存し、当面の生活費を補填するという意味では、毎月最低5万円を稼ぐことができれば充分という見方もできます。夫婦それぞれが働くのであれば一人2万5,000円でいいのです。時給1,000円なら1日5時間、月10日の労働で良いということになります。
とはいえ、年金の受給額は人によって異なります。赤字5万円はあくまで例示された数字ですから、働き方は自分の実情に合わせた吟味が必要です。
生活費5万円に加えて必要な老後資金は?
さて、老後も働けるうちは働くことで老後は安心かといえば、やはりそうではありません。
赤字が毎月5万円という数字はあくまで家計調査を基に算出された平均値に過ぎず、ここに介護費用やリフォーム費用といった、大きな支出は含まれていません。まずは住まいについて考えてみましょう。
<住まいにかかる費用> ・リフォーム費用 もし35歳で住宅を購入し住み続けた場合、60歳時点で築25年になっています。中古住宅の購入なら築50年、60年の状態になることもあり、老朽化は免れません。メンテナンスや改修は必ず必要になります。リフォーム資金の平均は全体では231万円とされていますが、住宅の状況やバリアフリー設備を高めたいなどの要望によってはそれ以上のまとまった資金が必要となります。
出所)国土交通省 住宅局「平成29年度 住宅市場動向調査 報告書」
・住み替え費用 老後は子どもの独立や定年退職を迎えることで、家族構成やライフスタイルに変化が生じます。広すぎる上に老朽化の進んだ一戸建てをリフォームして住み続けるよりも、夫婦二人暮らしに合った広さのマンションへの住み替えをと考える人も少なくありません。元の家を売却した分で住み替え費用を賄えるかどうかがポイントになります。
・家賃 住まいにかかる費用において金融庁が提示しているのは持ち家の場合で、住居費として1万3,656円かかる計算になっています。これが賃貸ならその分は上乗せしなければなりません。
出所)金融庁 金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
<介護費用> 介護に必要な期間を平均すると4年7ヶ月で、毎月7万8,000円かかるとされています。介護ベッドの購入など一時的な費用としては平均69万円という結果が出てきます。仮に5年間介護が必要になり月8万円かかるとして試算すると、480万円。一時的な費用を70万円とすると550万円です。
出所)公益財団法人 生命保険文化センター 平成30年度「生命保険に関する全国実態調査」
<葬儀費用> 平均で約195万円とされていますが、最近は定額制で数十万規模の格安葬儀会社も登場しています。家族葬など小規模の葬儀を選ぶこともできるため、葬儀費用として準備しておくべき金額は個人や家族の考えに寄る部分が大きいでしょう。
出所)金融庁 金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
預貯金以外で老後資金を形成する方法
上記のような状況を踏まえると、毎日の生活以外に必要な支出はさらに大きな金額になります。そもそも毎日の生活も人によって水準は異なりますから、年金だけで生活費を賄える人もいれば、5万円以上の赤字になる人もいるはずです。趣味や旅行にお金をかけたいこともあるでしょう。老後に働くという方法を本記事では詳しくご紹介しましたが、高齢になるとそれだけ健康リスクも高まります。やはり前もって資産形成をして、老後に備えておくのが安心への近道です。ここでは預貯金以外の方法を簡単にご紹介します。
・退職金 退職金は企業が独自に定めている制度なので、法律上支払い義務があるものではありません。自分の会社に退職金制度があるかどうかは必ず確認しておきましょう。
・つみたてNISA 国による少額投資の支援制度がつみたてNISAです。年40万円投資枠が設定されており、この範囲内であれば分配金や譲渡益が非課税になるメリットがあります。
参考記事:「つみたてNISAとは?一般NISAやジュニアNISAとの違いは?」
・iDeCo(個人型確定拠出年金) 会社で確定拠出年金に加入している方は聞いたことのある制度かもしれません。iDeCoは個人向けの確定拠出年金のことを指します。掛け金で金融商品を運用するのが公的年金との最も大きな違いで、運用が上手くいけばその分もらえる給付金額も大きくなります。
参考記事:「豊かな老後生活を送るためにイデコ(iDeCo)で資産運用」
・個人年金保険 公的年金とは別に私的に加入する年金が個人年金保険です。主に受給期間が決まっている確定年金と一生涯にわたって年金を受け取れる終身年金の2種類がありますが、いずれも老後にもらえる年金額を上乗せできます。
・低解約返戻金型終身保険 貯蓄性の高い保険も資産形成のために利用することができます。低解約返戻金型終身保険の場合、途中解約すると返戻金が安いのですが、その分保険料が安く、払い込みが終了すると、返戻金は通常の終身保険と同程度になるのが特徴です。
参考記事:「ズボラ向け?「保険で老後資金を積み立てる」という考え方」
まとめ
今後、年金受給開始年齢はさらに引き上げされる可能性があります。そうなれば、その都度老後の資金計画も見直さなければなりません。少子高齢化に伴う年金制度の限界に対して国の打開策も望まれる一方で、自ら老後資金の形成に積極的に乗り出すことがますます重要となるでしょう。
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- 三菱UFJ国際投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第404号/一般社団法人投資信託協会会員/一般社団法人日本投資顧問業協会会員
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