(本記事は、宇都出雅巳氏の著書『図解 仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』=クロスメディア・パブリッシング、2019年4月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
「質問は短ければ短いほどいい」科学的理由
相手の記憶に深く切り込むには、「質問の仕方」にも工夫が必要です。
たとえば、悩みを抱えている人は、当然ながら悩みのすべてを言葉に出すわけではありませんから、表面的な言葉をただすくうだけでは相手のことは理解できません。どんな質問の仕方が効果的なのでしょう?
質問のプロと言えば、インタビュアーやカウンセラーなどが思い浮かぶでしょう。彼らに共通するのは、優秀な人ほどシンプルな質問を心がけていること。たとえば下の図のような感じです。
短くてシンプルな質問ばかりですが、質問される側は、それに答えているうちに思考の整理がつきます。
逆に、複雑な質問とは、たとえば「最近の新人って、はっきりものを言わない人が多いと思うのですが、このあたりどうお考えですか?」といった前置きが長い質問。その前置きの正体は「自分の記憶」です。
意識の矢印が完全に自分に向いていて、質問をする前から相手の答えをわかったつもりになっている状態です。こういう質問をいくらしても、相手の記憶の深いところには到達できません。
質問という行為は他人への働きかけですから、なんとなく意識の矢印も相手に向いていると勘違いしやすいですが、実は自分に向いている場合もよくあるのです。
そして、こうした前置きの長い質問をする人の主だった動機は、実は「予想外の回答を避けたいため」でもあります。
もし答えが「はい」か「いいえ」しかないなら、会話の流れは予測できますが、回答の自由度が高いシンプルな質問では、相手からどんな回答が出てくるかわかりません。人はついつい自分が制御できない事態を避けようとしてしまいます。こうした一種の防衛本能も、コミュニケーションミスの一因でもあるのです。
仕事を覚えたころこそミスに注意!
意識の矢印は、知識や経験が増えれば増えるほど自分に向きやすくなります。
というのも、相手の言葉を聞くことによって活性化される記憶が、知識や経験がある人ほど多くなるからです。逆にストックの少ない新人は、キーワードが自分の記憶に結びつきにくいので、省略された部分を補完することができません。
たとえばあなたが後輩から仕事の相談を受けたとします。あなたの頭の中には、その相談に関連する知識や経験が豊富にあります。すると、関連する記憶が次々と活性化され、「ああ、あのことね」「後輩の悩み所はここだろう」といったように「わかったつもり」になってしまいます。
とくに多くの管理職は、部下から相談を受けたら的確なアドバイスをすぐに出さなければ……と思いがちですから、自分の記憶にすぐ意識の矢印が向き、相手に向かっていきません。意識の矢印が一切外を向かない、これが厄介なのです。だから、結論を急いではいけません。
相手の発する言葉を聞いて、活性化する自分の記憶に気づきつつも、そこに巻き込まれることなく、相手がなぜそう言っているのか、そして言葉の奥に潜む真意は何なのか、確実に、そして丁寧に意識を向けていくことが、コミュニケーションミスを減らすためには欠かせません。
こうした思い込みによるコミュニケーションミスは、とくに中途半端に経験を積んだ人が起こしやすい傾向があります。知識や経験が豊富にあれば、正しいことも多くなりますし、「わかったつもり」で痛い失敗をした経験も増えてきます。
なので、少し知識・経験が増えてきたころが危ないのです。運転に慣れ始めたドライバーが事故を起こしやすいのと同じで、ちょっと経験を積んで「よしできるぞ!」という段階で、ミスが起こりやすいのです。
コミュニケーションミスを絶対なくす方法
仕事でのコミュニケーションミスといって真っ先に思い浮かぶのは、情報の伝達ミスではないでしょうか。つまり、「相手に伝えたと思ったのに実は相手に正しく伝わっていなかった」というケースです。
簡単な仕事の指示やアポの日取りといった情報なら、情報をできるだけ省略せず、かつ相手が間違えそうな箇所を強調するなどして説明すれば、おおかた伝わります。
しかし複雑な仕事の手順など、相手がすでに持っている記憶を前提に、相手の理解力が問われる情報はいくら丁寧に説明しても完全に伝わるかどうかわかりません。
そこで効果的なのが、相手に復唱してもらうことです。
ベストセラー『ビリギャル』の著者で、学習塾の先生である坪田信貴氏は、その著書のなかで生徒に教えたことを復唱させることの重要性を説いています。
曖昧な理解・記憶だと説明もアヤフヤになります。復唱によって自分がどこまでを理解・記憶して、どこから理解・記憶していないのか、はっきり認識することができます。また、復唱したことによって記憶を定着させやすくする効果もあります。
仕事の現場でも後輩などに何かを指導して、それが伝わったかどうか確認したいのであれば、復唱してもらうことが最も確実です。
また、復唱は自分自身で行うこともできます。たとえば研修やセミナーで何かを学んだり、本を読んだりしたとき、本当に自分がそれを理解したかどうかをチェックするには、それをアウトプットしてみましょう。
誰かに口頭で説明してみてもいいですし、文字に書き出しても構いません。SNSで簡単な文章にまとめてみてもいいでしょう。
「で、あなたはどうしたい?」→ユークエスチョン
「人」に焦点を当てた会話、相手が主語になった会話に切り替えるのは簡単です。相手を主語にしたシンプルな質問をするだけです。
「課長は〇〇についてどう思いますか?」 「君はこの状況のなか、どうしたい?」
こうした質問のことを私は「ユークエスチョン」と名づけています。この質問をすることで、相手が主語になり、「人」に焦点を当てた会話に切り替わっていくのです。
なお、ユークエスチョンによって、「事柄」から「人」に焦点を当てたとき、相手がスムーズに回答できないこともあります。しかし、それでいいのです。
上辺の会話ではなく、相手の記憶の深層部に切り込んでいるわけですから、熟慮のための沈黙が生まれてもまったく不思議ではありません。
ユークエスチョンを使えば、その人の価値観、信念、固定観念、思い込み、トラウマ、タブー、弱点など、いわばその人が生まれてから経験してきた記憶の扉が開いていきます。
「仕事でそこまで深く入る必要はないのでは」と思う人もいるでしょう。たしかに仕事とプライベートを割り切っても、それなりの成果は出せます。しかし、人を動かす、または信頼関係を必要とする仕事であれば、やはり相手の懐に入るスキルが欠かせません。
「クライアントと打ち解けることが苦手」「同期たちと深い間柄になれずに寂しい思いをしている」、そういった基本的な人間関係を構築するにも、やはり「事柄」中心の会話だけでは厳しいものがあります。
「雑談の時間は割いているつもりなのに」と困惑している人は、今後は会話の時間や頻度よりも、深さを考慮してみてはいかがでしょうか。