(本記事は、宇都出雅巳氏の著書『図解 仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』=クロスメディア・パブリッシング、2019年4月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

脳には2種類の思考回路が存在する

図解 仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方
(画像=図解 仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方※クリックするとAmazonに飛びます)

仕事ではさまざまな局面で意思決定を迫られます。中には、真剣に考えたはずなのに、あとで振り返ってみると「なぜあんな判断をしたんだろう……」と思わざるを得ないミスもあるのではないでしょうか?

ただ、この「ジャッジメントミス」も、脳の仕組みそのものに原因があり、「しっかり判断しよう」と気合を入れただけでは防げません。まずは脳が判断を下すときの仕組みを理解しておきましょう。

私たちが何かを判断するときに使う思考回路は2種類あります。

ノーベル賞学者で認知科学・行動経済学の権威、ダニエル・カーネマン博士は、その著書『ファスト&スロー』の中で、人の思考には「速い思考」と「遅い思考」の2つがあると説いています。

「速い思考」とは瞬間的に行われる思考で、意識的な努力は不要、もしくはほとんどいりません。簡単な計算を素早く行ったり、初めて会った人を直感で「この人は信頼できそう」などと判断したりします。

「速い思考」は動物としてのサバイバルに必要不可欠です。地震を感じたら即座に安全な場所に走るといった選択は、「速い思考」がなせる技です。これは普段は優秀な自動プログラムであり、実際にわれわれは日常生活の大半を「速い思考」に依存しています。ただ、「速い思考」が頼りにするのは記憶(経験値や知識など)なので、記憶自体に偏りや誤りがあったり、情報が不足していたりすれば、間違った答えを出してしまうのです。

一方、「速い思考」に対して、じっくりと判断を下すのが「遅い思考」です。直感的に考える「速い思考」と異なり、ワーキングメモリを精いっぱいに使って、意識的かつ論理的に判断を下すときに使われます。

そのため、もし注意が散漫でワーキングメモリが満杯状態であれば、「遅い思考」でも間違った判断を下すことは十分考えられます。

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「速い思考」がジャッジメントミスをもたらす

ジャッジメントミスをなくしたいなら「速い思考」が下す判断を、逐一「遅い思考」で検証するというプロセスが必要になります。身近な例でいえば次のようなケースです。

ランチタイムに何を食べようかと考えたら、即座にラーメンが食べたくなり、決めた。昨夜テレビでラーメン特集を見たことの影響かもしれません。これが「速い思考」による判断です。

しかし、ここであなたは今週に入って塩分を摂りすぎている事実を思い出しました。気持ちとしてはラーメンを食べたいのですが、体のメンテナンスのことを考えれば、それは最善の選択ではないと結論づけ、有機野菜の美味しい店に行くことにしました。これが「遅い思考」の効果です。「速い思考」を論理的に抑え込むことができます。

「なぜあんな判断を……」と後悔するときは、たいてい「速い思考」の仕業です。この「速い思考」に振り回されるのが人間であり、より自分を客観視できる人、または自分を律することができる人が、こうした「速い思考」が下す、時に誤った判断を疑えるのです。

そもそも自動的に動き出す「速い思考」と違って、「遅い思考」は意識しないと回路が動きません。よって「速い思考」が下す判断に従うことになんの疑問も抱いていない人は、「遅い思考」で検証する必要性すら感じないのです。

あなたはすでに「速い思考」と「遅い思考」の2つの思考があることを知りました。これからは、「あ、『速い思考』が走り始めた……」「ヤバいヤバい、『遅い思考』も走らせないと…」というように、2つの思考を使いこなせるようになってきます。

その頻度を増やすためにも、「今は『速い思考』?『遅い思考』?」と自分に問いかけるようにしていきましょう。

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評価基準の違いがジャッジメントミスを招く

たとえ「遅い思考」を働かせたとしても、潜在記憶の影響から完全に逃れることはできません。なぜなら「遅い思考」で物事を考える際も、記憶から呼び出されたデータに基づいて判断をするからです。とくによくあるのが「評価基準」のズレからくるジャッジメントミスです。

たとえば先輩から「この機械、倉庫に戻しておいて」と言われたとしましょう。ただ戻すだけでなく、時間をかけて倉庫の中もキチンと整理しながらしまうこともできるでしょうし、逆にスピード重視で倉庫の入り口付近にポンと置いておわりにすることもできるでしょう。

こうした行動の差は、当人の評価基準、つまり「何を大事にしているのか」によって変わります。これが相手の評価基準と一致していれば問題ないですが、違っていればジャッジメントミスとなってしまいます。先ほどの例で前者の行動を取った場合、先輩の評価基準によって「キチンと整理してくれて助かるよ」とほめられるかもしれませんし、逆に「何をグズグズしているんだ」と叱られるかもしれません。

日常で自分の評価基準がどのようなものなのか、またはその基準が本当に正しいものなのか、あまり意識を向けることはありません。さらに厄介なのは、どこかでほかの人も自分と同じ評価基準を持っていると思い込んでしまっている点です。

たとえば、「一生の愛を誓って」結婚した夫婦の例です。その離婚の一番の原因は男女とも「性格の不一致」。これは評価基準の不一致とも言えます。結婚するときは、どこかで相手も同じ、近いと思っているけれども、一緒に生活していると、細かいところであれこれ違いが見えてくるのです。

これまで育ってきた環境が違えば、評価基準が違うのも当たり前です。「自分と相手の評価基準は違うかもしれない」という前提のもと、行動することが、家庭でも仕事でもうまくいく秘訣といえます。

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ジャッジメントミスの特効薬も「意識の矢印」

自分と相手の評価基準が異なるという前提に立てれば、上司やお客様の評価基準が何なのか?自分とはどう違うのか、知りたくなるでしょう。つまり、「意識の矢印」が相手に向くわけです。

相手の評価基準を知るためには、たとえば上司から仕事を与えられたときに「これを行うにあたって重視すべき点は何ですか?」「この企画書で絶対に外してはダメというポイントは何ですか?」というような質問が欠かせません。

ただ、「評価基準」という「事柄」に焦点を当てるだけでは、相手の本当の評価基準はつかめません。「ユークエスチョン」も使いながら、相手という「人」に焦点を当てることが重要です。

また、上司から「〇〇したほうがいい」と指示を受けたり、「□□のほうがいい」と要望された際にも、何をもって「いい」と判断しているのかに意識の矢印を向けて聞きましょう。

「なぜ、〇〇したほうがいいと思われたんですか?」と深掘りしてもいいですし、「〇〇をする目的は何ですか?」と相手が思い描いている将来を尋ねてもいいでしょう。いずれのケースでも、相手が大切にしていることが明らかになってきます。

こういったかかわりは、質問された上司やお客様自身が自分の評価基準を改めて考え直すきっかけにもなります。通常はこれまでの経験に基づく「速い思考」で評価判断は起きていますから、あなたから質問されることで「遅い思考」が働き、評価基準自体を考え直すきっかけになるのです。それは本人にとって「気づき」であり、質問されたことに感謝されることも起こるでしょう。

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宇都出雅巳(うつで・まさみ)
トレスペクト教育研究所代表。1967年生まれ。東京大学経済学部卒。出版社、コンサルティング会社勤務後、ニューヨーク大学留学(MBA)。外資系銀行を経て、2002年に独立。30年にわたり、心理学や記憶術、速読を実践研究し、脳科学、認知科学の知見も積極的に取り入れた独自のコミュニケーション法・学習法を確立。企業研修やビジネスマン向けの講座・個別指導を行う。専門家サイト・オールアバウト「記憶術」ガイド。

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