(本記事は、齋藤健太氏の著書『新装版 問題解決のためのデータ分析』=クロスメディア・パブリッシング、2019年2月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

前回、大きな傾向から順番に分析していくことで、徐々にデータ分析の目的を達成するための課題が見えてくることを見てきました。

今回は、前記事のケーススタディの例を用いてさらに分析を進めていきましょう。

仮説をより確かなものにしていく

データ分析
(画像=Song_about_summer/Shutterstock.com)

課題は、「なぜ新規顧客が減少しているか」ということでした。この課題を解決しない限り、売上減少を食い止め、再び増加させていくことは困難です。

そのため、課題を見極めて精度の高い解決方法の仮説を構築するにあたっては、データ分析をした上で、担当部署および担当者といった関係者に問い合わせることも重要になります。

たとえば、データ分析によって導き出された次の3つの仮説も、関係者に確認することで、きちんと真偽を確かめることができます。

・店長の力量や立地条件によって売上減少している店舗があるわけではない
・競合店舗が出店してきたことによる売上減少ではない
・特定商品が支持されなくなったことによる売上減少ではない

目的を達成するためには、より多くの仮説を確かなものにしていくことは必須といえます。

店舗別の売上推移や商品別の売上推移を分析していない状態で各担当者にヒアリングをしても、なかなか前に進みません。データ分析をした上で担当者に聞くことが大切です。

仮に、店舗別の売上推移のデータ分析をせずに、売上減少の要因は店舗ごとに差があるのではないかという仮説を立てた場合、あなたは担当者に、次のように聞くでしょう。

「この3年間、売上が減少しているのですが、店舗ごとに売上が減少している店やそうでない店はありますか?あるいは、店舗によっては競合店舗が近くに出店したことや、店長の力量によっても売上が変わってくるんではないですかね?」

こう尋ねた場合、担当者はどのように思うでしょうか?忙しいのに、要領の得ない話を聞かされてうんざりしてしまいますよね。これでは、何も解決に近づきません。

しかし、データ分析を行った上でヒアリングをした場合、次のように理路整然と話を進めることができます。

「この3年間で売上が減少しているのですが、店舗別に見ると店舗ごとに大きな差は見られません。近くに競合店舗が出店したことによる売上減少や、店長の力量の差による売上減少ではないと思うのですが、いかがでしょう?」

この場合、担当者は「Yes」か「No」と答えるだけで済みます。

このように、データ分析は、社内のコミュニケーションをよくする上でも重要な役割を担います。

担当者にも確認を取った上で仮説が正しければ、店舗別での分析はそれで完了となります。

先入観なく客観的な立場で判断できる

データ分析をした上で担当者にヒアリングをするもうひとつのメリットは、「客観的な立場で判断できること」です。

データ分析をする前に担当者にヒアリングをしても、要領を得ない回答しか期待できないでしょう。また、自分よりも専門知識を持った人であるがゆえ、その意見に引っ張られてしまう可能性があります。

その状態でデータ分析をしてしまうと、担当者の意見を証明するような結果を導き出すことに視点が向かってしまう危険性があります。また、データ分析結果とヒアリング内容に矛盾が生じたとしても、気がつかないかもしれません。

したがって、担当者にヒアリングをする前の、先入観なく客観的な立場でデータ分析をすることをおすすめします。

さらに分析した上で関係者にもヒアリング

引き続き、先ほどの例を用いて説明していきます。

売上減少の要因として、「新規顧客が会社全体として獲得できなくなっていること」が課題であることが導き出せました。新規顧客の獲得にダイレクトに結びつく施策は、広告・広報活動ですので、そこが原因ではないかという仮説が立ちます。

次のステップでは、その仮説に伴い、深掘りしていきます。まず、図表33に示したこの会社のP/Lを見てみましょう。

3-1
(画像=新装版 問題解決のためのデータ分析より)

「企業全体としての広告・広報活動に原因があるのではないか」というのが仮説ですが、その通り、2016年度から広告宣伝費を大きく縮小しています。会社全体として、広告・広報活動に使う予算を削っているようです。

それに伴って、営業利益率は増加していますが、売上高が減少することによって人件費比率が上がり、2018年度からはまた営業利益率が減少し始めています。

これこそが「新規顧客が獲得できていない理由」であり、近年、売上が減少している根本原因だと言っても間違いではないでしょう。

次に、その仮説で正しいのか、関係者に確認します。

すると、「自社の認知度も高くなり、ほとんどの人に知られるようになったため、テレビCMをやめた」とのこと。

データ分析から最終的に導き出される結果は、極めてシンプルなものがほとんどです。

上記はあくまで例ですが、同様のことが現実のビジネスの世界でもたくさん起こっています。しかし、データ分析をしたからこそ、明快に答えが出るのです。

戦略をデータ分析から導き出す

大きい傾向からデータ分析を行い、仮説を立てて少しずつ課題を明確にしていき、目的を達成させるための根本要因が把握できたら、あとはその原因を解決するための戦略や打ち手を構築していきます。

もしかしたら、本書をお読みいただく前は、数値データを分析し、「売上減少の要因は○○だということがわかりました」という考察を出すところまでがデータ分析だと思っていた人が多かったのではないでしょうか。

しかし、ここまでお読みいただいたみなさんは、企業の業績に結びつく戦略や打ち手をデータ分析で導き出したいと思い始めたはずです。

業績を上げるための戦略を構築する、あるいは何かしらの問題を解決する施策を構築するまでがデータ分析の役割であると、私は考えています。

先の例でいえば、データ分析をした結果、新規顧客が減少していることが原因で売上減少を招いていました。新規顧客が来なくなった理由(売上減少の根本原因)は、新規会員獲得のためのテレビCMをしなくなったことによると考えられます。

したがって、データ分析から考えられる今後の戦略、および打ち手としては、次のようなものが考えられます。

・戦略………新規顧客の来店数を増加させる
・打ち手……新規顧客獲得に向けた広告宣伝

もちろん以前と同様のテレビCMでもよいのですが、近隣エリアへのチラシやポスティング、フリーペーパーへの広告出稿など、予算に合わせて変えてみるのもよいと思います。

データ分析をもとに構築した戦略に関しては、一貫して進めていくべきです。ただ、具体的な打ち手に関しては、やってみないとわからない部分も多々出てきます。

先ほどの会社の場合、テレビCMは以前に実施していたことがあるので、大体の見通し(どの程度のコストをかければどの程度の売上が見込めるか)は立ちますが、実施したことのない施策に関しては、予算の範囲内でいろいろと試行錯誤してみて最も効果的な方法を見つけていくことが必要です。

打ち手を構築したら、あとは実行するのみ

せっかくデータ分析をして戦略や打ち手を構築したのに、結局は実行せずに終わってしまうケースが多々あります。それでは本末転倒です。

データ分析は、定量的に証明されている、という強い説得性を持つので、意思決定をする際にとても役立ちます。

データ分析によって自ら導き出した打ち手は、自信を持って実行に移してください。

『新装版 問題解決のためのデータ分析』
齋藤健太(さいとう・けんた)
株式会社クロスメディア・コンサルティング代表取締役社長。慶応義塾大学理工学部卒業。(株)船井総合研究所にて戦略コンサルティング部に属し、幅広い業種において、主に中期経営計画策定やマーケティング戦略の構築、M&Aにおけるビジネスデューデリジェンス等に携わる。その後、2012年1月に独立。独立後も製造業や小売業、サービス業など大小さまざまな企業の課題発見に従事し、成果を上げる。特に、データ分析においては、他のコンサルティングファームからも依頼がくる実績を持つ。2018年10月にクロスメディア・コンサルティングを設立、現在に至る。

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