〔株〕ハピキラFACTORY代表取締役 正能茉優
「『かわいい』を入口に、地域を元気にしていく会社」、〔株〕ハピキラFACTORYを慶應義塾大学在学中に起業した正能茉優氏。現在は、同社の代表取締役を務めながら、大手電機メーカーに勤務し、さらに慶應義塾大学大学院特任助教でもあるという、パラレルキャリアを実践している。「地域」も「パラレルキャリア」も、近年、注目を集めているキーワードだが、具体的にはどんな活動をしているのか。
地域の人だけが知っている美味しいお菓子を、ギフトにして広く届ける
――ハピキラFACTORYがどんな事業を手がけているのか、最近の事例を教えてください。
正能 今(取材時)は5月末なので、そろそろお中元の予約が始まる時期ですね。この夏は、宮崎県産のマンゴーを使った、宮崎のお菓子屋さんのマンゴープリンを詰め合わせたギフトセットをつくりました。私もお世話になっている方に贈りたいので、考えた商品の販売が始まる時期は、ワクワクします。
また、今年の冬のお歳暮に向けての企画も、早くも始まりました。これから夏が始まるこの時期に、冬のことを考えることに、最初はすごく違和感があったのですが、最近やっと慣れてきました(笑)。
今年のお歳暮は、いくつか商品を出したいなと思っているのですが、昨年に引き続き、「小城羊羹(おぎようかん)」のギフトも企画しています。実は佐賀県って、羊羹の年間消費量が日本一の都道府県なんです。小城羊羹は佐賀の特産物の羊羹なのですが、小城市にある本店でしか買えない商品も多く、県外にはあまり流通していません。そこで、佐賀にあるお店でしか買えない羊羹を集めて、「幻の羊羹」というコンセプトで、嬉野茶の和紅茶とセットにして売っています。
――それらの企画は、宮崎のお菓子屋さんや小城の羊羹屋さんから話が来て始まったのですか?
正能 いえ。お話をいただくことも多いのですが、最近は、自分たちがやりたいなと思うものを、お話を持って行っていくことが多いですね。
とはいえ、ある日、突然、「御社の商品をプロデュースさせてください」と訪ねて行っても怪しい人になっちゃうので、例えば都道府県の流通課や産品課を通して、ご紹介いただくこともあります。
――自分たちで企画するということは、常に全国各地の名産品をリサーチしている?
正能 そうですね。別の出張でお邪魔した地域で食べた商品や、地元の方に教えていただいた商品を入り口にリサーチしています。とはいっても、むやみやたらに探しているわけではなく、別のお仕事でできたご縁をつなげていくことが多いです。
ありがたいことに、都道府県や市町村でのイベントに講師として呼んでいただく機会も多いので、そこに来てくださった事業者の方と仲良くなってプロジェクトが始まることもあります。
――都道府県のイベントでは、どういう話をしているのですか?
正能 今の私の場合、「地域のモノをどう売れるようにしていくのか」というお話か、「働き方・生き方」のお話が多いですね。前者の場合、モノは作るだけで売れるわけではなくて、「作る」ことと「広める」ことと「売る」ことをセットで考えて初めて売れる、というお話をさせていただいています。販路の獲得がいかに大切か、そして、その販路から逆算してモノをつくることについてのお話ですね。
私たちハピキラの活動の特徴の一つでもあるのですが、なにかを「作る」だけではなく、その先にある「広める」ことと「売る」こともセットで実行していくことで、確実に売れるモノづくりにチャレンジしています。
「広める」というのは、作ったモノを欲しいと思うターゲットにきちんと知らせるために、SNSやメディアなどで発信することです。そして「売る」というのは、ターゲットに合った販路を獲得することです。例えば、20代向けのモノを作っているのに、50代、60代の多く集まる高級百貨店で売っても売れないので、販路との相性はすごく気にかけています。
――作ったモノを売りたいけれども、どうしたらいいのかわからない事業者が、話を聞きに来るわけですね。そうした事業者の商品が数ある中で、企画にするかどうかは、どのように判断しているのですか?
正能 食べ物の場合、実際に食べてみて「美味しい!」と心から思えることが基本にありますが、この世に美味しいモノはたくさんあるので、それだけでは難しいですね。ですから、そのモノならではの強みがある商品を企画の基軸にしています。
――強みというのは、例えば、宮崎のマンゴープリンや小城の羊羹で言うと?
正能 美味しいマンゴープリンは世の中にたくさんありますが、国産のマンゴーや宮崎県産のマンゴーだけを使ってつくられているマンゴープリンって、実はあまりないんです。そういった原材料の本物感へのこだわりですね。
小城羊羹に関しては、実は、私自身が、もともと羊羹という食べ物が好きではなかったんです。お付き合いでいただくことも多かったんですが、いただいてもあまり嬉しくなくて、「どうして、シュークリームじゃないんだろう」とずっと思っていました(笑)。でも、小城羊羹に出会って、その味には本当に感動しました。
その上で、ですが、佐賀でしか買えないというのも決め手でした。佐賀県の小城市には、数十軒の羊羹専門店が並んだ「羊羹ロード」と呼ばれる通りがあります。東京では、羊羹は和菓子屋さんの1商品ですが、羊羹ロードには、羊羹しか売っていない「羊羹専門店」が立ち並ぶんです。ですから、ちょっとした糖度の違いや表面を覆うお砂糖の食感、フレーバーの種類などでお店の個性が見えてきます。羊羹専門店のこだわりの羊羹だからこそ、その中で、自分好みの羊羹を見つけるのが楽しいなと思いました。お肉なら、ヒレが好きだとか、ロースが好きだとか、人によってあると思いますが、それと同じです。
――販路も重要だということでしたが、これらの商品はどこで販売するのでしょうか?
正能 私たちの仕事は、ある程度数が読めることが重要なので、お中元やお歳暮として、カタログギフトで販売します。
お中元やお歳暮にするのは、安定的にお菓子が確実に売れるタイミングの一つだからです。お菓子が安定的にまとまった数売れるタイミングって、実は限られていて、年始から挙げていくと、お年賀、バレンタイン、母の日、こどもの日、父の日、お中元、敬老の日、そして、お歳暮。フルーツなど、季節ごとに出るものもありますが、そこまで多くはありません。
そして、カタログで販売するのは、「このカタログの、この誌面に載せたら、何個注文がある」という数が読めるから。数が読めれば在庫を抱えるリスクが少ないということもありますが、何より「売れすぎること」を防ぎたい気持ちがあります。地域の事業者さんには、短期間での大きなロットでの生産に対応できないところも多いので、「売れるけれど売れすぎない販路」というのは、すごく重要です。
――商品は御社が仕入れる形にしているのですか?
正能 在庫リスクは弊社が持っています。ただ、物理的に商品を管理して、梱包して、発送して、という作業は難しいので、商社さんにお願いをしています。
というのも、これまでお話ししたお中元やお歳暮は、『Japan Omotenashi Collection』というシリーズの商品で、「その地域の人しか知らない、おいしいお菓子」をテーマに、複数の事業者さんのお菓子を集めて、都道府県ごとにセットにした商品なんです。ですので、それらを梱包して発送する作業が発生します。
どうしてこのような商品を作ろうと思ったかというと、出張で色々な地域にお邪魔すると、お土産として売られているお菓子以上に、地元の方が教えてくださる「○○というお店の○○が美味しいよ」というお菓子が美味しくて。
この「世の中にお土産という形では流通していないけれども、地域ならではの美味しいお菓子」を、広く世の中の人に知ってもらえば、その地域のことをもっと好きになってもらえるかもしれない、と思って始めました。
――複数の事業者の商品をセットにするということに対して、事業者の反応はどうなんでしょうか?
正能 一般的にはあまりやられていないことなので、最初は「えっ?」という反応をいただくことも多いです。けれども、想いをお話しさせていただくと、「いいね!」と言ってくださる方たちもいます。あとは、現実的には、「掛け率を上げてくれるなら(いいですよ)」ということもありますね。
――想いというのは?
正能 「お菓子を入り口に、その地域のファンを増やしたい!」ということです。あとは、私自身がそのお菓子が好きだから皆に伝えたいということですね。