複業は「毎日が夏休みの最終日」

――ハピキラFACTORYには、他にも社員がいますよね。

正能 はい。大学の先輩(山本峰華副社長)と、ずっと2人でやっています。一緒に何かやるようになって今年で10年かな。

――その方はハピキラFACTORYの仕事だけ

正能 いえ、会社員もしています。

――すると、ハピキラFACTORYの営業時間は?

正能 平日の朝や夜だったり、地方への出張は土日だったり。今朝も8~9時に近くのカフェでテレビ会議をしていました。

――2人とも全国あちらこちらに出張するわけですね。

正能 そうですね。でも、2人でのやりとりはLINEですればいいし、地域のクライアントさんとのやり取りもZoomでやったり。「紙の触り心地、どっちがいい?」とリアルで会う必要があるときくらいしか、会う必要はないですね。それも、紙を送ってもらえば、できてしまいます。

――ほとんどテレワークなんですね

正能 はい。効率化できるところを効率化することによって、もっと大事にしたいところに時間を割いています。例えば、今、なると金時というサツマイモを使ったお菓子をプロデュースしているんですが、先月は、その生産農家さんに会いに徳島まで行ったりしています。どんな場所で、どんな想いでつくられているのかを知りたくて。これはLINEでやっても意味がないので、リアルにいくようにしています。

――生産者には会うようにしているんですね。

正能 はい、絶対に会います。お会いしなかったら、何をどう伝えていいのかわかりませんから。例えば、なると金時を自分で植えさせていただいたり、植えている様子を見させていただいたりしてこそ、大切に育てられていることを知ることができたり、その想いを理解できたりします。

皆さんのサツマイモのイメージがどういうものかわかりませんが、私はまず、苗となる茎を植えたらサツマイモができるということに驚きました(笑)。

なると金時には、収穫をしたあと、キュアリングという工程があります。ある温度の倉庫に一定時間入れておくことで、傷が自然治癒していくんです。その倉庫にも入れていただきました。すごく暑くて、スマホの画面も一瞬で曇る場所でした。

素人考えでは、サツマイモって獲ったら出荷するものだと思ってしまいますが、収穫から出荷までの間がすごく大変なんですよ。そういう経験をすると、もっともっと大切に売りたくなります。

そうしたことをきちんと自分の身で感じるために、効率化できるところはしたいなと思うわけです。

――今、複業が流行していますが、複業をしたいという人へのアドバイスはありますか?

正能 うーん、私が日々感じているのは、複数のお仕事をしていると「毎日が夏休みの最終日」みたいな人生になるということです。仕事が多いということは、それだけ締切りが多いということですから。

――タスク管理が大変ですね。

正能 正直、管理じゃないです。管理というのは余裕がある人の考え方。「これはいつまでにやろう」「あれはいつまでにやろう」なんて考えていられなくて、「今日中に」「今日中に」「今日中に」の連続。だから、「夏休みの最終日」なんです(苦笑)。

私はそれも楽しいのですが、「ああ、こんなにやることがある……」と思うタイプの人は、複業に向いていないと思います。

――起業家というと、会社を大きくしていきたいと思っているイメージがありますが、正能社長はそうではない?

正能 あまり興味がないですね。大きいことが幸せなのかなって思います。

例えば飲み物も、「同じ値段ならLサイズがいい」という人が多いかもしれませんが、私は、Sサイズで2種類飲みたいタイプです。

――自分として満足できる大きさであればいい?

正能 かといって、小さくていいとも思っていないんです。

私は「誇り高き小ささ」と呼んでいるのですが、小さいけれども、ちっぽけではない。そんなポジションを目指していきたいと思っています。

――規模は追わないということですが、時間的にはどうでしょう。ずっと会社を続けようと考えていますか?

正能 それはわかりません。ビュッフェで「今日はオムレツを食べましたが、10年後もオムレツを食べますか?」と聞かれているような感じがしちゃいます。(笑)

でも、今はオムレツが好きだから、3カ月後もオムレツを食べているだろうな、という感じです。だから、今のところは、経営者と会社員と特任助教の3つのお仕事を続けていけたらなと思っています!

正能茉優(しょうのう・まゆ)
〔株〕ハピキラFACTORY代表取締役
1991年生まれ。東京都出身。2010年、慶應義塾大学総合政策学部入学。12年、小布施若者会議を創設。その後、〔株〕ハピキラFACTORY創業。卒業後は大手広告代理店に就職。現在は大手電機メーカーに転職し、ハピキラFACTORYの社長も務める「パラレルキャリア女子」。その経験を活かし、2016年度、経済産業省「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会」最年少委員に。慶應義塾大学大学院特任助教。2019年より、内閣官房「まち・ひと・しごと創生会議」最年少有識者委員にも。《写真撮影:まるやゆういち》(『THE21オンライン』2019年06月20日 公開)

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