「ビュッフェキャリア」を選んだ二つの理由

――正能社長は学生時代に起業しましたが、大学卒業後は就職しています。しかし、起業した会社の経営も続けています。その理由は?

正能 二つあって、まず直感的な理由からお話しすると、ラーメンライスを食べているような感じなんですよ。単純に、ラーメンもライスもどっちも食べたいな、だからどっちも食べてみようということです。

私は「ビュッフェキャリア」と呼んでいるんですが、幸せとか心地よさの基本って、好きなことを、好きなバランスで、好きなだけやることにある思います。働き方もそうだと思っていて、私の場合は、自分の仕事も会社員としての仕事も両方やりたかったので、両方やることにしました。

――かなり大変だと思いますが……。

正能 それは、ラーメンライスを食べている人に「お腹いっぱいで大変だね」と言っているのに近いです(笑)。「ちょっとお腹いっぱいだけど、食べたいから食べている」という感じですかね。

そもそも、ラーメンライスを食べている人に、そんなことあんまり聞かないじゃないですか。「この人は、いっぱい食べるんだな」くらいに捉えていただけるとありがたいです。

一方で、私自身、考えることが好きなのですが、「女の人って、どんなふうに働いて、どんなふうに生きると幸せになれるんだろうか?」と考えた結果でもあります。

私の母は専業主婦で、家族ごとを大事にする母で。いつも自宅で帰りを出迎えてくれて、習い事も色々とさせてくれたし、親の介護も母がしています。それを見て、「私も家族を大事にしたいから、こういう生き方はいいな」と思う半面、「家族がいなくなったら、何を生きがいにするんだろう」と、子供として申し訳ない気持ちにもなりました。

そう思うと、私は家族を大事にすることは絶対に諦めたくないし、でも社会の中で働く自分も諦めたくないんです。

でも、自分が女性であることを考えると、子供を産んだり、子育てをしたり、子育てが終わったら親の介護もしたり……と人生の中での色々な出来事を担う主体者になることが男性以上に多いかもしれない。もちろん、子育ても介護も、パートナーといっしょにやったり、お金を払ってプロにお願いするという選択肢もありますが、今のところ、私は自分でやりたいなと思うと思うんです。

すると、120%の力をかけて、社会の中で仕事をできるのって、実は子供を産むまで間だと思うんですよね。その中で「家族を大事にしながらも、社会から必要とされる」人になる方法を考えると、おのずとキャリアは短期決戦になる。社会で自分が指名で必要とされる人間となり、かつ、1時間当たりの価値を上げるためには、どうすればいいのかということを考えました。

1時間当たりの価値を高める方法としては、ナンバーワン、ファーストワン、オンリーワンのどれかになろうと思ったのですが、まずナンバーワンに関しては、私は学校のテストでも1番を取れなかった子なので、この世の中でナンバーワンを目指すのは向いていないと思いました。ファーストワンになることも、この世にないモノを文系の私が生み出すことはなかなか難しいかなと。

消去法で残ったのが、オンリーワンの存在になるという方法でした。女子大生社長でありながら、どうしたらオンリーワンの存在になれるかを考えた結果、「○○なのに社長」という存在になってみようと思ったんです。

――今、経営者としてと、会社員としてと、どのくらいのバランスで働いているのですか?

正能 半々くらいですかね。「人生配分表」というものをつくって、自分の人生の中で、何にどれくらい時間を使うのかバランスを考えています。

――時期にもよりますよね。

正能 はい。すべて同じくらい好きなことで、同じくらい大切なことなので、単純にその時々によって変わります。自分の会社の仕事も、会社員としての仕事も、大学の先生の仕事も楽しいので、その時々で一番緊急度が高い仕事を優先しているイメージです。

――大学の特任助教も務めているのは、どういう理由で?

正能 2016年は、働き方改革が始まって、経産省の「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会」の委員をさせていただいたことをきっかけに、年間100本、メディアやイベントで働き方のお話をさせていただいたんです。でも、世の中の働き方ってなかなか変わらなかった。「それはどうしてだろう? もっと本質的に価値のあることをしたい」と思うようになりました。

で、よくよく考えてみたんですが、すでに社会に出て働いている人に対して、「好きな仕事を始めてもいいよ」「好きなことも仕事にするという選択肢があるんだよ」という話をしても、やったことがないんだから、なかなか難しいですよね。現実的には取りにくい選択肢を押しつけていたんじゃないかなと気がつきました。

そう考えたときに、何かを伝えるべきは、社会に出る前の学生だと思ったんです。社会に出る前の、まだ何かを辞めなくても始められる段階で、「自分の手で仕事をつくる」経験をしてみて、それが個人の人生の選択肢に入ってくる。この選択肢づくりに取り組まない限り、どんなに社会の仕組みが変わっても、働き方や生き方は変わらない。そう思って、大学での仕事を始めました。

――学生たちが会社を作ったり、自分で仕事を始めたりすることを支援している?

正能 そうです。学生たちの好きなことや得意なことを、困っていることを抱えている場や環境に持ち込むと、それは価値になるので、その対価としてお金が発生して仕事になる。仕事って、そういう仕組みで生まれるものだと思うんです。だから、学生たちの好きなことや得意なことを地域の困りごととうまく組み合わせることができれば、仕事を作ることって、そう難しいわけじゃないはず。そういう機会を提供して、学生たちと一緒にプロジェクトを動かしています。

――学生たちは興味を持ちますか?

正能 うれしいことに、興味を持ってくれる学生も多いですね。自分たちでプロジェクトを事業化することはもちろん、移住する学生も出てきています!