日本企業の明暗を分けたIT革命への立ち遅れ

激動の平成を象徴するエピソードは数あれど、一つ挙げるならばIT革命だと田原氏は答える。その波に乗り遅れたことが国際競争力の低下を招き、現在まで尾を引いているからだ。

「89年、日本企業は世界の時価総額ランキングでトップ20社のうち14社を占めていた。しかし2018年、トップ20社のうち日本企業はゼロ。その代わり、GAFAを代表としたIT企業が軒を連ねた。日本企業では、世界と戦えるIT人材が育っていない。代表的なのがAIだろう。AI研究の第一人者である松尾豊によれば、日本の人工知能研究はアメリカの3周は遅れているという」

原因はなんだったのか。

「規制が強すぎて、AIの研究者が育たなかったことだ。では、なぜ優秀な研究者を招しょう聘へいしないのか。それは、経営者がシャットアウトしているからだ。

今、日本では新しい製品やサービスを作り出すゼロイチに挑戦する経営者は少ない。減点主義で成功してきたサラリーマン経営者は、失敗に対するリスクが取れないのだ。3~4回失敗していない人は相手にされないシリコンバレーに比べると、日本は土壌が整っていない」

ただ、今ではその流れが少しずつ変わってきているという。

「ゼロイチをやらなければ、生き残れないことに日本企業が気づき始めた。その証拠に、トヨタ自動車やパナソニック、三井住友FGなど、日本を代表する大企業のメイン研究所は、シリコンバレーにある。パナソニックのシリコンバレー研究所で責任者を務める馬場渉は、『イノベーションの量産化』を掲げて頑張っている。

戦後の日本を振り返ってほしい。こんな『守りの経営』をする経営者は少なかったはずだ。盛田昭夫や本田宗一郎、松下幸之助、彼らは皆チャレンジャーだった。

特に、松下幸之助は印象的だった。僕が、取材で役員に抜擢したいのはどんな人物だと聞いたとき、彼はこう答えた。

『頭の良さ、関係ない。自分は中学までしか出ていない。では、健康か。違う。自分は半病人の経営者だ。では、何か。それは、難問にぶつかったときに、面白がれる人間だ』──。

マスコミは日本の未来は暗いという。けれど、頑張っている人がいるうちは、日本の未来は明るいと、僕は信じたい」