2018年の合計特殊出生率1.42

少子化が止まらない。2018年の出生数は918,397人であり、過去最少を記録した(厚生労働省「平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)」)。2018年の合計特殊出生率も1.42であり、2015年に1.45まで回復して以来、低下傾向が続いている。

イクメン
(画像=PIXTA)

その背景の一つは、晩婚化に起因する晩産化が続いていることにある。2018年の平均初婚年齢は5年連続で夫31.1歳、妻29.4歳であり、第1子出生時の母の平均年齢も4年連続で30.7歳である。母の年齢別に合計特殊出生率をみても、20代では低下、30歳以上で上昇している(図表1)。結婚も出産も30代になってからという人が多く、第2子、第3子と複数の子どもを持つ夫婦が少なくなっている。

男性の育児休業義務化の動き
(画像=第一生命経済研究所)

結婚・出産を先延ばしするのは、多くの場合、結婚資金や結婚後の家計の不安などの経済的理由によるとされている。結婚・出産後も男女ともに働くことが当たり前となりつつある中で、自分あるいは結婚相手の仕事への向き合い方やキャリア形成を考慮して、結婚を決断したり出産のタイミングを判断したりすることの難しさを感じている人も多いためということもあるのではないか。平成時代を通じ、女性の活躍推進のため、育児と仕事との両立支援策などの取組は普及したが、夫婦が育児をしながらお互いのキャリア形成を考えて働くことにハードルを感じている若者が男女ともに少なくないと思われる。

男性の育児休業取得率6.16%

ここで、育児と仕事との両立支援策の活用状況に目を向けると、出産後、原則1年間休業を取得できる育児休業制度の取得率は、女性は8割以上で推移しているが、男性は上昇傾向ではあるものの6%程度である(図表2)。女性と同様に男性も育児休業を取得できることが育児・介護休業法で定められているが、男性の取得は進んでいない。

育児休業中は育児休業給付金が支給されるが、休業前賃金の67%(6か月経過後は50%)であるので減収となり家計に大きく響く。育児費用が必要となる中での減収は男性の育児休業の取得を阻む背景の一つになっていると思われる。これに加え、やはり男性が取得することへの抵抗感が社会的に根強く残っていることもあるだろう。

こうした中、男性の育児休業の取得義務化に向けて、育児・介護休業法の改正を検討する動きがある。

男性の育児休業義務化の動き
(画像=第一生命経済研究所)

小規模事業所の男性の育児休業取得率は高い

確かに、現状、家事や育児に費やす時間が女性に偏っている中で、男性の家事や育児をする時間を増やし、女性の負担軽減を図ることは、男女共同参画を推進する上で重要な取組である。男女ともに結婚・出産後も職業人としての成長も目指せるという見通しが立てば、結婚・出産のハードルが低くなり、結婚・出産の先延ばしも少なくなると思われる。

しかし、法律で育児休業の取得を男性のみに義務づけることは必要であろうか。現状でも、保育所の送り迎え、保育所や学校などの行事に参加している男性も増えている。また企業の中には、独自に男性社員の育児休業の取得促進に取り組んでいるところもある。しかも大規模事業所ばかりではない。事業所規模別に取得率をみても、5~29人の小規模事業所では、女性の育児休業取得率は低いほうであるが、男性の取得率は500人以上の大規模事業所に次いで高い(図表3)。小規模事業所の中には、女性の継続就業への理解が進んでいない事業所もある一方で、柔軟に働くことができる環境を整えることで、社員の能力を最大限に活用しようとしているところもあるようだ。

男性の育児休業義務化の動き
(画像=第一生命経済研究所)

多様な休暇制度で柔軟に働くことを可能に

少子高齢化による労働力人口の減少に向けて、企業は社員の能力を引き出し、それを生産性向上につなげることが求められている。そのためには、社員一人ひとりが自律的に意欲をもって働くことができるよう、働き方改革を通じて、男女ともワークライフバランスを重視し、社員の成長をサポートすることが重要である。

育児や仕事への向き合い方は人それぞれであり、また夫婦のあり方も異なる。男女に関わらず育児の時間を大切にしたいと思う人もいれば、仕事メインで頑張りたい人もいる。したがって、法律で一律に男性のみに育児休業の取得を義務づけて育児を強制するよりも、男女ともに社員の望むように働けるよう多様な働き方、休み方の選択肢を幅広く用意して、個人が柔軟に選択できるようにする方が、自律的な働き方を可能にし、社員の就労意欲を引き出せるのでないか。

例えば、2017年の改正育児・介護休業法により新設された「育児参加のための休暇制度」がある。これは、年次有給休暇や育児休業など法で定める休暇・休業制度以外に、男性の育児参加を促進するため、企業が独自に設置することを努力義務として定められたものである。「配偶者出産休暇」や「保育所や幼稚園などの行事に参加するための休暇」の他、失効年次有給休暇を積立てて育児目的で利用できる休暇制度などが該当する。現状では、「育児参加のための休暇制度」を設置している事業所は、規模が500人以上では4割を超えるものの、事業所全体では2割にも満たない(図表4)。こうした育児目的の休暇の導入を義務付けて休み方の選択肢を増やし、利用促進を図ることも一つの方法であろう。

2019年4月からは年次有給休暇の取得が全企業に義務づけられた。働き方改革とともに、休み方改革も進められている。人々が望むように家族を形成し、子どもを育て、生き生きと働けるために企業はどのような環境を整備したらよいのか、若者・子育て世代の意見も聞き入れながら改めて考える機会を持つことが必要ではないか。(提供:第一生命経済研究所

男性の育児休業義務化の動き
(画像=第一生命経済研究所)

主席研究員 ライフデザイン研究部
的場 康子(まとば やすこ)