自分好みの香りを「集中スイッチ」に使おう
五感に入る情報をコントロールして、集中力が高まる環境を整えることも大切です。
まず、視覚については、目につく場所に動くものを置かないこと。視線が机の上に向いていたとしても、視界にはその周辺も入ります。
目につく場所に配置すべきは、植物です。植物を設置していなかったオフィスに植物を置く実験をしたところ、在籍者の集中力が8%アップしました。
ただし、植物が多すぎると逆効果になるので注意してください。実験の結果、最適な緑視率(視界に占める緑の割合)は10~15%であることがわかっています。
聴覚については、「リラックスできる音環境」であることが一番です。
私たちが提供しているワークスペース「Think Lab」では、鳥の声やせせらぎの音などの自然音を、人間の聴覚では聞き取れない高周波の音域まで含んだハイレゾ音源で流しています。皮膚感覚も含めて受け取る自然音に、深いリラックス効果があるからです。同じ自然音でも、可聴域だけを流すのでは効果がありません。
植物やハイレゾ音源よりも簡単に用意できるのは、香りでしょう。
昔、修行僧は瞑想の前に「塗香(ずこう)」という香料を手首に塗っていたそうです。それが「集中スイッチ」になっていたようです。
集中力を高める香りとして代表的なのはローズマリーやペパーミントですが、好みのものでかまいません。集中したいときに嗅ぐ香りを決めて、そのアロマオイルを常時携帯するといいでしょう。
勉強をする部屋の照明も、集中力に影響します。特に夕方以降は、白色ではなく、暖色の照明で勉強するのがベター。夜に照度の高い光を浴びると睡眠のリズムが狂い、翌日以降に響くからです。
その意味では、寝る直前のスマホは最大の悪習慣。画面から出るブルーライトが網膜を刺激し、睡眠導入ホルモンであるメラトニンの分泌を阻害します。暗い寝室では瞳孔が開くので、そこに近距離からブルーライトが差し込むとなると、睡眠の質が壊滅的に下がってしまいます。
「甘いもので糖分補給」は逆効果になるかも!?
デジタル関連で、もう1点、個人的な感覚も含めて言えるのは、デバイスを「仕事用」と「勉強用」に分けたほうがよい、ということです。同じデバイスを複数の用途に使うと、それぞれのタスクへの集中力が落ちる傾向があります。
スマホアプリで勉強をする人も多いようですが、同じデバイスで仕事もゲームもできるわけですから、自分の中でモードを切り替える必要が生じて、ストレスにつながります。
デバイスを分けるのと同様に、場所も分けるといいでしょう。自宅なり、カフェなり、「勉強専用の場所」を決めておくのです。
最後に、食事について。
勉強の前に「脳に糖分を補給する」と言って甘いものを食べる人がよくいますが、脳の専門家によると、その日に脳で使う糖分は、その日に摂る必要はないということです。すでに身体に蓄えられている糖分で十分賄える可能性が高いとも言われています。
心がけるべきは、むしろ、血糖値を急激に上げないこと。上昇が激しいと、そのぶん、下降も激しくなるからです。血糖値が下がると疲労を感じ、短時間で集中力が途切れます。
日頃から、血糖値が緩やかに上がる低GI食品を中心にすることが、安定して集中できる身体を長期間にわたって保つことにつながるでしょう。
《取材・構成:林 加愛》
《『THE21』2019年8月号より》
井上一鷹(いのうえ・かずたか)
〔株〕ジンズ JINS MEME事業部 事業統括リーダー
1983年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、アーサー・D・リトルにて大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事。2012年に〔株〕ジンズに入社。集中力を測定できるメガネ型デバイス「JINS MEME」の開発とそれを通した分析、ワークスペース「Think Lab」の運営など、人間の集中力に関する研究開発に取り組んでいる。著書に『集中力』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。(『THE21オンライン』2019年08月23日 公開)
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