不祥事が発覚した場合の対応において、謝罪会見はあくまでスタートラインにすぎない。過ちについて真摯に詫びたうえで、どのような対応を取るのかについて誠実に説明することから始まる。その際には、①徹底的な調査に基づく事実関係の公表と原因の特定、②責任の所在と該当者に対する処分、③再発防止・信頼回復のための対策という3点セットを明示することが鉄則だと唱える専門家は少なくない。だが、それはあくまで理想論にすぎず、現実にはすべてを押さえたうえで謝罪会見に臨めるケースは少ないようだ。
ほとんどの謝罪会見は、準備不足の状態で臨むしか術がない
大手企業のリスクマネジメントや広報対応についてアドバイスを行っている谷川コンサルタンツ事務所代表の谷川健司氏は、最初にこう述べる。
「そもそも多くの不祥事は、その企業の社内では常識となってきたことが世間では非常識であるというミスマッチがもたらしています」
世間と認識がズレていることがその背景にあるなら、社内だけで客観的な視点から調査を進めるのはなかなか困難だろう。第三者委員会による調査という手もあるが、それを遂行するには相応に時間を要するし、神戸製鋼所のようなパターンでは無意味で、むしろ企業イメージを悪化させかねない。
2018年に神戸製鋼所は製品データ改ざん問題が露見したのを受けて外部調査委員会を設置したものの、訴訟リスクがあるなどの理由から調査内容を公表しなかった。しかも、実は同社が自ら作成したもので第三者委員会による報告書ではないのが実態との批判が出ていた。
マスコミの取材が広報・IR以外に一般従業員などにも及ぶ恐れが出てくるので、できるだけ速やかに記者会見の場を設けたほうがいいと言われるが、そうすれば調査に費やせる時間と労力もおのずと限られてくる。マスコミが煽ることで世間は会見の開催を急くが、そうすれば3点セットの完備はいっそう困難となる。
解決に結びつけるための道筋を示すのが最初の会見の目的
「基本的に、まずほとんどの不祥事は全容を容易に解明できるものではないし、問題がすぐに収拾するものではありません。どの道を歩んでいけば解決に結びつくのかについて、自分たちの考えを明示することが最初の会見の最大の目的です」(谷川氏)
まずは、解決に向けたロードマップを描くことが重要だということだ。そして、それに沿ってどのような調査を実施し、いつまでにその結果を踏まえた対策について公表できるのかを会見の席で明言し、それぞれの課程において途中経過についてきちんと報告することを約束するわけだ。