営業で提案するとき、メリット・デメリットをどのように伝えるかは悩みどころだ。メリットばかり強調しすぎると、信頼感を損ねないだろうか?デメリットを伝えることで、お客さまの気持ちが契約から離れてしまわないだろうか?今回は、メリット・デメリットの伝え方をお客さまの真意にフォーカスして解説していく。
営業ケーススタディ(14)――及川の失敗
人材コンサルティング会社でコンサルタントとして働く及川圭佑(37)は1週間前、部長から呼び出しを受けた。面談室で向かい合って座るなり、部長は口を開いた。
「お前に行ってもらいたいアポがある」
机の上に広げられた資料を見て、及川は目を丸くする。そこには、誰もが知る大企業の名前があった。
「社長の学生時代のつながりで、アポはすでに決まっている。現場から1人出してほしいと言われた。そこで、だ。うちのエースのお前に、ぜひ行ってもらいたいと思っている」
「……ありがとうございます……!」
うれしい、やってみたい、という気持ちはもちろんあった。自分の営業スキルがどこまで通じるか、腕試しをしたい。社長のお客さま対応を間近で見る機会というのも、これを逃せばまず訪れないだろう。
ただ、同時に迷いもあった。及川より役職が上の先輩はほかにもいる。社長案件なら目の前の部長が行っても不自然ではないぐらいだ。
不安な気持ちが表情に表われていたのか、部長が苦笑して言葉を紡ぐ。
「最近、俺の仕事は部署運営がメインだからな。現場にも長く行っていない。正直、毎日営業で飛び回っているお前のほうが現場感覚があると思っている」
部長にそこまで信頼されていたことがうれしくもあり、及川の胸は高鳴った。部長には了承の旨を伝え、翌日には部長の報告を受けた社長から当日の場所と時間について連絡をもらった。
そこからアポ当日まで、及川は他部署の協力も仰ぎながら懸命に提案書作成に取り組んだ。あっという間に迎えた当日、部長や後輩に見送られ会社を出た。
メリットだけを強調する?デメリットも平等に伝える?
「及川くん、今日は期待してるよ」
社長の言葉に、及川は緊張した面持ちでうなずいた。ドアをノックして室内に入ると、スタイリッシュな内装と大きな窓が目を引いた。都心の高層階のワンフロアを丸ごとオフィスにしているだけあって、眼下に広がる景色は圧巻だ。
名刺交換をすませ、及川は社長に続いて革張りの椅子に腰かける。誰もが知る有名企業の役員が目の前に座っていた。
この案件が決まれば部署の予算達成も実現する。何より隣に社長がいる。失敗は許されない。
目の前に座るお客さまは、たった今交換した名刺を見て穏やかな微笑みを浮かべている。
「及川くん。ベテランコンサルタントなんだって?」
及川は恐縮して頭を下げた。及川には、これまで培ってきた初回営業の戦略がある。大丈夫、やることはいつもと変わらない。きっとうまくいくはずだ……。
深呼吸して気持ちを落ち着け、アイスブレイクもそこそこに、及川は口火を切った。
「それでは、本題に移らせていただきます」
(1)提案内容のメリット・デメリットを平等に伝える。
(2)提案内容のメリットを強調して伝える。