矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

15日、日本経済新聞社は「主要企業の大卒内定者が9年ぶりに前年を割った」との調査結果を発表した。業種別にみると銀行、証券が二桁減、自動車・部品、機械、電機もマイナスに転じた。RPA、AI、IoTによる生産性革命の流れがある。銀行は低金利の長期化による収益悪化も一因であろう。製造業では米中貿易摩擦による世界経済の減速も指摘できる。ただ、新卒一括採用の抑制は決して特定業種に固有なものでも一時的なものでもないだろう。業種業態を越えた雇用システムの構造的な変化と理解すべきである。

背景には働き方改革がある。残業時間の罰則付き上限規制、有給休暇の取得義務、勤務時間インターバル制度の努力義務など、長時間労働の是正に関する施策がこの4月から先行適用された。しかし、本命は副業の容認に象徴される多様な働き方と同一労働同一賃金による正規、非正規間の格差是正であろう。
確かにこれらのメリットを享受できる層も一定数はいる。とは言え、副業の容認と同一労働同一賃金は働き手の個人事業主化を促進するということでもある。高度人材確保のためにソニーが導入した「新卒年収730万円」という給与体系も社員のプロ化の一形態といえる。正規と非正規の格差はなくなる。浮き彫りになるのは一定期間における利益創出力の絶対的な能力差であり、そこでは従来型の労働者保護の論理は無効となる。

日本型終身雇用は、国の社会保障制度を補完するセーフティネットとして機能するとともに分厚い中流層の形成に大きな役割を果たしてきた。今、グローバル競争下にある企業にそれを維持する余裕はない。それが働き方改革の一側面である。企業の生産性と高度人材の雇用機会は格段に向上するだろう。しかし、新卒採用の一斉放棄は若者の失業率を欧州並みに高めるとともに、長期的な人材育成を前提とした基礎研究部門の脆弱化を招くリスクがある。島津製作所の田中耕一シニアフェロー、旭化成の吉野彰名誉フェローに続く卓越した企業内研究者を輩出するためにも、採用、雇用、待遇において “横並び” であってはならない。報酬制度の在り方も含めて企業には多様な人材戦略を期待したい。

今週の“ひらめき”視点 10.13 – 10.17
代表取締役社長 水越 孝