M&Aが浸透しつつある近年では、友好的な企業買収が実施されるケースも多く見られる。ただし、企業買収は多方面に影響を及ぼすため、安易に実施するべきではない。今回は買収する側・される側の「株価」に着目して、どのような変化が生じるかを見ていこう。

企業買収の仕組みは?

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(写真=PIXTA)

企業買収とは、ある企業がほかの企業の経営権を獲得するために、発行済株式を買い取ることだ。M&Aの中では比較的ポピュラーな手法であり、買収される側の企業は原則として「子会社化」される。

実際に買い取られる株式数はケースによって異なるが、日常的な経営や事業のコントロールが目的である場合は、過半数の株式取得を目指すケースが多い。さらに発行済株式の3分の2以上を保有すると、定款変更や組織再編といった「特別決議による決定事項」も決められるようになるが、実際にそこまでの支配を目的にしているケースは国内ではやや少ない。

ちなみに「新設合併」や「吸収合併」もM&Aの1種であり、いずれも複数の企業が協力体制を築くための手法だ。そのため、企業買収と合併はやや混同されやすいが、厳密に言えば異なる手法であるため注意しておきたい。

M&Aの手法概要
・企業買収買い手が発行済株式を買い取り、売り手側の企業を子会社化させること。
・新設合併企業を解散させて、新しく設立した企業に権利義務を引き継ぐこと。
・吸収合併一方の企業が解散し、もう一方の企業が権利義務を引き継ぐこと。

つまり、企業買収は新設合併・吸収合併とは違い、買収される側の企業が消滅することはない。経営資源はもちろん、取引先や従業員もそのまま引き継ぐケースが多いため、経営者は会社を残した状態でリタイアできる。

この点は売り手にとって大きなメリットとなるため、ほかの手法との違いはしっかりと理解しておこう。

企業買収と株価の関係性とは?

結論から言えば、企業買収と株式の価格(株価)には強い関係性がある。ただし、買収によって株価が上下のどちらに動くのかについては、一概に言うことはできない。

その点を解説するために、まずは「株価とは何なのか?」から理解していこう。端的に言えば、株価はその会社の価値を表す金額であり、株価が変動する要因は以下の2つに大きく分けられる。

株価が変動する要因概要
・業績の良し悪し業績が良いほど株価は上昇し、悪くなると下落していく。
・市場における需要需要が高いほど株価は上昇し、低くなると下落していく。

上記の「業績の良し悪し」に関しては、それほど仕組みは難しくない。株式会社は四半期ごとに決算書を公開するが、その内容(業績)によって株価が変動していく。

一方で「市場における需要」については、上記の業績に加えてさまざまな要素の影響を受けるため要注意だ。その要素がプラスであれば株価は上昇するし、マイナス要素があると株価は下落していく。

では、具体的にどのような要素によって需要が変化するか、以下で簡単に見てみよう。

〇株価の需要が変動する要素

・企業が保有している資産
・ブランドとしての価値
・その企業の将来性
・日本や世界の経済状況
・為替の動向
・政治の動向 など

仮に企業買収が発生すると、買収する側はさまざまな事業用資産を引き取る形になる。また、既存の事業と買い取った事業を融合させれば、ブランド性や将来性も変わってくるだろう。

つまり、買収する側も買収される側も会社の状況が大きく変わるため、企業買収は株価に大きな影響を及ぼす。その変化に対して、市場がポジティブなイメージを抱けば株価は上昇し、反対にネガティブに受け止めれば株価は下落していくのだ。

企業買収が株価に影響を与えた事例

もう少しイメージをつかむために、実際に企業買収が株価変動につながった事例を2つほど見ていこう。

〇企業買収が株価上昇につながった事例

フィットネスビジネスで有名になったRIZAPグループは、2017年に株式会社ジーンズメイトをはじめ、複数の企業買収に携わった。その結果、2017年3月31日には211円だった株価が、同年11月30日には約7倍に上昇。
その後は業績予想を下回ったことで株価が下落したものの、2019年10月時点でも株価は250円ほどであり、2017年3月時点での株価を上回っている。
〇企業買収が株価下落につながった事例

製薬大手の武田薬品工業は、2018年にアイルランドの大手製薬会社を買収する計画を発表した。事業規模拡大を狙ったものだったが、約7兆円という買収資金の高さもあり、多くの投資家は「リスクが高すぎる」と判断。
その結果、武田薬品工業の株価は2018年の1年間で、約6,700円から3,500円ほどまで下落。その後はやや株価が回復したものの、2019年10月時点でも株価は約3,700円だ。

このように、企業買収は必ずしも株価上昇につながるわけではない。世の中の投資家が抱く印象に大きく左右されるため、これまでの業績や買収の目的、規模などさまざまな要素によって結果は変わっていく。

買収後の株価に影響を与える「TOB」とは?

株価に影響を与えるもうひとつの要素として、「TOB」と呼ばれるものがある。TOB(Take Over Bid)は市場外で株式の買い付けを申し込むことであり、日本語では「株式公開買付」と呼ばれている。

TOBが利用されるのは、主に資本業務提携をはじめとした友好的買収をする場合だ。市場から株式を買い集めることもできるが、友好的買収では以下のような弊害を防ぐために、基本的にはTOBが活用されている。

・日々の売買成立数に制限があるため、市場ではスムーズに買収を進められない
・市場では株価のつり上げ行為など、第三者による妨害を受ける恐れがある
・いきなり株式を買い集めると、敵対的買収とみなされる恐れがある

例えば業務提携を目的としている場合、買収する側からすれば敵対的買収と認識されてしまうことは確実に防ぎたい。そのため、TOBでは買収する期間や目標株数、取得する株式の価格などを公開した上で、対象会社の株式を買い集めていく。

さらに株式を株主から直接購入することで、短期間に大量の株式を買い集められる点もTOBのメリットだ。つまり、TOBは友好的買収をよりスムーズに、より確実に進めるための手法と言えるだろう。

TOBがなぜ株価に影響を及ぼす?

上記で解説したTOBでは、既存の株価よりも高い取引価格で買収が行われる。つまり、将来的に株価が上昇する可能性が高いため、TOBが発表されたタイミングでは多くの買い注文が入るのだ。

その影響で、TOBでは発表した取引価格の前後まで株価が上昇していくケースが多い。ただし、TOBを実施した後に期待通りの成果が表れない場合は、株価が大きく下落することもある。

このように、企業買収における株価は投資家からの影響が予想以上に大きい。企業買収が2社間だけの問題に留まらず、多方面に影響を及ぼす点はしっかりと理解しておこう。

買収する側に生じる株価の変化

企業買収を発表した場合、市場からは事業規模の拡大や業績向上などが期待される。その影響で投資家から買い注文が入る可能性が高まるため、基本的には買収する側の株価は上昇するケースが多い。

しかし、たとえば以下のように市場がマイナスイメージを持っている場合には、逆に株価が下落する可能性もあるため要注意だ。

〇株価下落につながるマイナスイメージの例

・買収するメリットがある対象会社なのだろうか?
・買収資金の調達によって、負債が一気に増えるのではないだろうか?
・TOBの取引価格が高すぎるのではないだろうか?
・期待通りの効果が出ず、買収する側の業績が下がるのではないだろうか? など

上記のように企業買収に関して何かしらの懸念材料があると、マイナスイメージが一気に膨らんでしまい、株価の大幅な下落を引き起こす可能性がある。したがって、「企業買収は株価が上がる」と安易に考えるべきではない。

あくまでも上昇するケースが多いだけであって、実際には市場からのイメージに大きく左右される点は、しっかりと理解しておくことが重要だ。

買収される側に生じる株価の変化

基本的に企業買収は、買収する側が「企業価値に比べて、対象会社の株価が安い」と判断しなければ成立しない。逆に企業価値よりも株価のほうが高ければ、多額な資金に見合うリターンを期待できないためだ。

したがって、買収される側に関しても、基本的には株価は上昇する可能性が高い。ただし、「子会社化する場合」と「完全子会社化する場合」とでは、株価が上昇する要因やメカニズムに多少違いがある。

そこで以下では、2パターンに分けて買収される側に生じる株価の変化を見ていこう。

株式を50%以上売却して、子会社化される場合

必要な発行済株式が過半数(50%以上)であれば、市場から買い集めるハードルはそこまで高くないため、TOBが実施されないこともある。この場合は、市場から大量の株式を短期間で購入する影響で、必然的に買収される側の株価は急上昇していく。

また、残りの株式の行方にも注目しておきたい。残りの株式は一般投資家などが保有しており、その市場に出回っている株式で引き続き株取引が行われる。つまり、企業買収後の成果によっては、投資家の動向によって株価がさらに動く可能性があるのだ。

例えば、企業買収後に業績が向上した場合には、投資家からの買い注文が増えることで株価が上昇する可能性が高い。その一方で、企業買収後に事業が軌道に乗れなかった場合は、売り注文が殺到して株価が暴落するリスクも考えられるだろう。

このように、過半数の株式を売却して子会社になるケースでは、企業買収後にも投資家からの影響を大きく受ける。

株式を100%売却して、完全子会社化される場合

発行済株式の全てを売却して完全子会社化される場合は、基本的にTOBが実施される。このケースでは、市場に出回っている全ての株式を買い集める必要があるため、買収する側は買付価格を高めに設定しなければならない。

この上乗せ分は「買付プレミアム」と呼ばれており、買付プレミアムの相場はもともとの株価の40%ほどだ。つまり、100円の株式をTOBで買い集める場合、買付価格は140円前後が相場となる。

TOBによる企業買収が実施されると、買収される側の株価はこの買付価格付近まで上昇するケースが多い。また、企業買収後に市場に株式が出回らない点も、しっかりと押さえておきたいポイントだ。

つまり、買収される側は上場廃止として扱われ、一般投資家からの影響を受けない状態となる。

企業買収によって、買収する側に生じるメリット

ここからは「なぜ企業買収をするのか?」という点を明らかにするために、買収する側に生じるメリットを解説する。企業買収と聞いて事業拡大をイメージするかもしれないが、実はそれ以外にもさまざまなメリットがある。

その中でも、特に押さえておきたい買収する側のメリットを以下で見ていこう。

1.経営資源をスピーディーに確保できる

設備や従業員、不動産などの経営資源は、簡単に構築できるものではない。事業の内容によっては、必要な経営資源をそろえるだけで数年単位の準備が必要になることもあるだろう。

その点、企業買収では対象会社の経営資源をスピーディーに手に入れられるため、企業の成長スピードが加速する。そのほか、狙っているエリアに手っ取り早く進出できる点なども、企業買収の大きな魅力と言えるだろう。

2.企業価値が向上する

前述でも触れた通り、株価はその企業の価値を表す指標だ。つまり、企業買収によって株価が上昇すれば、それに伴って企業価値も向上していく。

企業価値が高まると、買収する側のイメージや信用性も向上するため、さらにさまざまなメリットが発生するだろう。具体的には、金融機関との関係構築や業績の向上などにつながっていく。

3.調達できる資金が増える

株式会社は自社の新株を発行することで、一般投資家などから資金を集めることが可能だ。このときに調達できる金額は株価がベースとなるので、企業買収によって株価が上昇していると調達できる資金も増える。

企業にとって資金が増えることは、経営の選択肢を広げることにつながる。たとえば、別の魅力的な企業を買収する、事業の規模やエリアを拡大するなど、新たな取り組みによってさらに企業価値を高められる可能性があるだろう。

企業買収によって、買収する側に生じるデメリット

企業買収には魅力的なメリットがある一方で、軽視できないデメリットやリスクも存在する。多額の買収資金が必要になる点は言うまでもないが、それ以外にも注意しておきたい点がいくつかあるため、以下でひとつずつ確認していこう。

1.買収資金以外にも、さまざまなコストや時間がかかる

企業買収をする際に発生するコストは、株式の買取資金だけではない。一般的なケースでは、M&Aアドバイザーなどの専門家に相談をする必要があるため、アドバイザーコストも発生してしまうのだ。

また、企業買収を検討する段階から実施までに、数年単位の長い期間を要することもある。最適な買収先を見極めるには、慎重に情報収集や分析をする必要があるため、時間的なコストがかかる点もある程度は覚悟しなくてはならない。

2.コングロマリット・ディスカウントによる、株価の下落リスクがある

「コングロマリット・ディスカウント」とは、買収する側の企業が既存の事業に絞って経営をした場合と比べて、企業買収後の評価が下がってしまう現象だ。事業の多角化を進めると、会社の資源も分散させることになるため、場合によっては市場からの評価や期待度が下がってしまう。

そうなれば投資家は当然株式を売却するため、短期間で株価が暴落してしまう恐れがある。つまり、企業に買収する余力があるからと言って、必ずしも事業規模の拡大が良い結果をもたらすとは限らない。

3.シナジー効果が表れず、業績が悪化することも

「シナジー効果」とは、複数の企業・事業を組み合わせることで、単体よりも良い効果が生じる現象だ。たとえば、B社の事業と組み合わせたことでA社の顧客が倍増するなど、企業買収による相乗効果と考えればイメージがわきやすいだろう。

企業買収ではこのシナジー効果を得るために、多額の資金を用意して買収を実施するケースが多い。しかし、実際に生じる変化を確実に予測することは難しいため、期待通りのシナジー効果が表れないケースも存在する。

期待通りの効果が表れなければ、買収する側は無駄なコストをかけてしまったことになるので、自然と業績は悪化してしまうだろう。さらに投資家からの評価・期待度も下がっていき、売り注文が入ることで株価も下落していく。

買収する側のメリット買収する側のデメリット
・経営資源をスピーディーに確保できる
・企業価値が向上する
・調達できる資金が増える
・買収資金以外にも、さまざまなコストや時間がかかる
・コングロマリット・ディスカウントによる、株価の下落リスクがある
・シナジー効果が表れず、業績が悪化することも

企業買収には他にもさまざまなメリットがあるものの、必ずしもそのメリットを得られるわけではない。投資家や市場からのイメージが悪ければ、逆に企業価値を落としてしまう行為にもなり得る。

そのため、実際の企業買収ではデューデリジェンス(対象会社の調査)を実施するなど、慎重に計画が進められている。対象会社の経営状況や資産状況はもちろん、発生するシナジー効果や市場への影響も分析した上で、実施の可否やタイミングなどが決められているのだ。

企業買収では単に株価が変動するだけではなく、多方面にさまざまな影響が生じることはしっかりと理解しておきたい。

企業買収によって、買収される側に生じるメリット

企業買収において買収される側は、最終的に会社や事業を手放す形になるため、「金銭的なメリット以外はない」と考える経営者もいるだろう。しかし、実は買収される側にもさまざまなメリットが発生するため、状況によっては効果的な経営戦略となり得る。

では、具体的にどのようなメリットが生じるのかについて、以下で詳しく解説をしていこう。

1.廃業コストがかからない

清算業務や解散登記にかかる費用など、さまざまな廃業コストが発生しなくなる点は売却側の大きなメリットだ。清算や解散とは違い、企業買収ではその後も会社の経営が続いていくので、廃業に向けた身辺整理などをする必要もない。

廃業に関する業務を専門家に依頼すると、一般的には30万円~40万円ほどの費用がかかると言われている。仮にすべての業務を自分で取り組む場合であっても、廃業にかかるコストは約7万円~10万円と決して安くはない。

特に「少しでも手元にお金を残したい」と考えている経営者にとって、これらのコストを節約できる点は軽視できないポイントだろう。

2.後継者不足を解決できる

後継者不足をスムーズに解決できる点も、買収される側に発生するメリットのひとつ。企業買収後の後継者は、買収する側が用意するケースが主流であるため、身内に後継者が見つからなくても問題なく会社を売却できる。

近年では、後継者不足の影響で黒字倒産に追い込まれる企業が珍しくない。経営者はそのまま引退できるが、従業員や取引先には大きな迷惑をかけてしまう恐れがあるため、急な倒産はできれば避けたいだろう。

特に人材が限られている地方企業や中小企業は、いつ後継者不足に悩まされるのかわからない。そのため、効果的な後継者対策のひとつとして、企業買収は強く意識しておきたいところだ。

3.経営状況の改善や、事業規模の拡大につながる

自社よりはるかに大きい会社から買収された場合、買収される側の経営状況は大きく改善する可能性がある。買収する側の安定した経営基盤や、潤沢な資金の恩恵を受けられるためだ。
また、買収する側が経営資源を獲得できるように、買収される側も相手企業の経営資源を活用できる。この変化によって、これまで資金や設備の問題で諦めていた事業に取り組めるかもしれない。

つまり、買収される側にとって企業買収は、事業規模拡大のチャンスになり得るのだ。自身の利益だけではなく、「会社の成長」「従業員の活躍」を重視している経営者にとって、これらのメリットは非常に大きいものだろう。

4.引退後の生活資金を獲得できる

ほかにも細かいメリットはいくつかあるものの、経営者にとってやはり金銭面でのメリットは大きい。買収される側の経営者は、会社・事業の売却益を自分の手元に残せるため、スムーズに引退後の生活資金を確保できる。

手に入れた売却益は老後資金になるだけではなく、新たな事業にチャレンジする際の起業資金としても活用できるだろう。

企業買収によって、買収される側に生じるデメリット

企業買収によって会社を手放すと、買収される側の経営者の生活は大きく変わってくる。多額の売却益を獲得できる可能性はあるものの、人によっては会社を手放すことが深刻なデメリットになる恐れもあるので、会社・事業の売却は安易に決めるべきではない。

企業買収を検討している経営者は、売却するかどうかを決める前に以下のデメリットにも目を通しておこう。

1.経営権を失う

これは当然のデメリットとも言えるが、経営者は会社を売却すると経営権を失う。その後の経営は買収する側に任せることになるため、買収されてから会社・事業に口を出すことは基本的にできない。

相手が信用できる企業であれば問題ないが、もし事前の協議とは違う形で経営や事業を進められた場合、前経営者はどのように感じるだろうか。強い信念や理念を持った前経営者であれば、当初の予定とは異なる結果に落胆してしまうこともあるだろう。

もちろん、買収後に発生する利益も受け取れなくなるが、経営権を失うリスクは金銭的な部分だけではない。特に会社・事業に対して思い入れがある場合は、今後の方向性に関する内容を契約に含めるなど、工夫をしながら協議・交渉を進める必要がある。

2.従業員の離職につながる恐れがある

企業買収は慎重に進めないと、従業員の離職につながってしまう恐れがある。たとえば、買収後に業務の負担が増えたり待遇が下がったりすると、多くの従業員は仕事に対して不安・不満を抱えるだろう。

また、異なる経営理念や企業文化の統合も、従業員のストレスになる可能性がある。別々の会社を統合する形になるので、その点に強い抵抗を示す従業員もいるかもしれない。
したがって、買収される側は従業員のケアを強く意識し、慎重に契約を結ぶことが重要だ。買収後の従業員の立場を明確にする、待遇面での契約を事前に決めておくなど、従業員にも配慮した契約書を作成しなくてはならない。

会社や従業員を守りたいのであれば、不利な立場にならないように時間をかけて交渉し、譲れない条件は妥協しないことを意識しよう。

3.相手企業を見つけること自体が難しい

これは買収前のデメリットだが、企業買収ではそもそも相手企業がスムーズに見つかるとは限らない。「後継者問題をすぐにでも解決したい」「早いうちにリタイアしたい」のように考えていても、希望条件に合致する買い手が現れるとは限らないのだ。

だからと言っていくつかの条件を妥協すると、買収後にほかの問題が生じる恐れがある。また、仮に興味を示す買い手が見つかったとしても、交渉や契約の段階で破談する可能性もあるので、成約までにある程度の時間がかかることは覚悟しなければならない。

買収される側のメリット買収される側のデメリット
・廃業コストがかからない
・後継者不足を解決できる
・経営状況の改善や、事業規模の拡大につながる
・引退後の生活資金を獲得できる
・経営権を失う
・従業員の離職につながる恐れがある
・相手企業を見つけること自体が難しい

上記でまとめた通り、企業買収では買収される側にもいくつかのメリット・デメリットがある。会社・事業を売却することはさまざまな経営課題の解決につながるが、上記で解説したデメリットは決して軽視できないものだろう。

希望条件に合致する相手を見つけて、かつ条件面で妥協しないように協議・交渉を進めるには、早めに準備にとりかかる必要がある。行動を始めてから数年単位の時間がかかるケースも珍しくないので、買収される側の企業は余裕をもってスケジュールを組んでおくことが重要だ。

完璧な予測が難しいからこそ、正しい知識が必要になる

今回は企業買収による変化を細かく解説したが、実際のケースでは他にもさまざまな要素の影響を受ける。買収する側・される側の経営状態はもちろん、経済情勢や投資家の姿勢によっても状況は変わってくるので、企業買収後の変化を具体的に予測することは難しい。

しかし、だからこそ慎重に計画を立てるべきであり、そのためには正しい知識を身につけておかなくてはならない。本記事でも解説したように、「なぜ株価が変動するのか?」や「なぜ投資家がこのようなイメージを抱くのか?」など、変化が生じるメカニズムもしっかりと理解しておくことが重要だ。

M&Aが浸透しつつある日本では、今後さらに企業買収が増えていく可能性があるため、他人事とは考えずにきちんと正しい知識を身につけておこう。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部