不動産投資のリスクを、実際に現場で起きている問題から学ぶ!

事故物件
(画像=PIXTA)

不動産投資のトラブルは、ミクロで見るとさまざまな事情や状況で多岐にわたりますが、法的な結論はシンプルで、いくつかのポイントを抑えておけば、トラブル回避は充分に可能です。そこで、私たち弁護士が実際に相談を受けた案件から、よくあるトラブルをご紹介。なぜ問題が生じたのか、そしてどのように解決したのかをわかりやすく解説します。

マンションの屋上から飛び降り自殺があった…借主に告知しないとダメ?

ヴェリタス・インベストメント
(画像=ヴェリタス・インベストメント)

栃木県在住、加藤さん、64歳、男性

会社を早期退職して、退職後は退職金などでマンション投資をして賃貸業を営んでいます。

1年半ほど前のことですが、所有している投資物件のマンション(12階建て)の屋上から飛び降り自殺がありました。私の所有物件は5階部分の南側の1部屋です。

ちょうど1週間前、この物件の賃借人から「転勤のため1か月半後に引っ越す。」と言われました。そこで、これから新たな借主を募集しなければならない状態です。ただ、飛び降り自殺があったというと誰も入居したがらないのではないかと思い、借主の募集に当たっては、飛び降り自殺があったことを言いたくありません。他方、飛び降り自殺があったことを隠して、それがわかった場合に借主から損害賠償などを請求され、面倒なことになるのも嫌です。

そこで、新しい借主の募集に際して、飛び降り自殺があったことを言わないといけないのでしょうか。

よくあるトラブル㉒「心理的瑕疵って?」

これで解決!

一般的に、人の死は嫌悪され、部屋を借りるときに人が死んだ物件に住みたくないと思う人は多いと思います。この問題は、建物自体の問題(物理的瑕疵)ではなく、借主の心理に関する問題(心理的瑕疵)です。

そのため、人の死が借主において重要な情報となり、その情報を借主に事前に告知する義務(告知義務)が貸主に生じる場合があります。他方、賃貸物件の内部やその周辺で人が死ぬことは回避できません。そのため、人の死の全てについて告知義務が生じるとするのは不合理です。

そこで、人の死について、どの範囲で告知義務が生じるかが問題となります。

まず、病死の場合には原則として告知義務はありません。ただ、いわゆる孤独死で、死体発見までに相当の時間が経過した場合などの特殊なケースでは、例外的に告知義務が生じる場合があります。

また、事故死の場合にも原則として告知義務はありませんが、例えば、たくさんの人が火災で亡くなった場合などは例外的に告知義務が生じる場合があります。

さらに、ご質問の事案と同じ自殺の場合には、原則として告知義務が生じます。ただ、自殺の場合にも、室内での自殺か、共用部分での自殺かなど、自殺した場所によって告知義務の程度に影響します。

もっとも、告知義務が生じても、永久に告知する義務があるわけではありません。過去の裁判例を踏まえると、室内での自殺の場合には、2年間は告知義務があるとされている事例が多いです。ただ、ご質問のように、貸室内での自殺でなく、飛び降り自殺の場合、1年半の時点で告知義務はないとされた裁判例があります(東京地方裁判所平成18年4月7日判決)。

この点、告知義務があるにもかかわらず、貸主が告知しなかった場合、借主からの契約の解除や損害賠償請求をされるリスクがありますので、具体的なケースで告知義務があるのか、専門家の意見も踏まえた慎重な判断が必要です。