不動産投資のリスクを、実際に現場で起きている問題から学ぶ!
不動産投資のトラブルは、ミクロで見るとさまざまな事情や状況で多岐にわたりますが、法的な結論はシンプルで、いくつかのポイントを抑えておけば、トラブル回避は充分に可能です。そこで、私たち弁護士が実際に相談を受けた案件から、よくあるトラブルをご紹介。なぜ問題が生じたのか、そしてどのように解決したのかをわかりやすく解説します。
相場より安かった家賃の値上げに賃借人が納得してくれない
長野県在住 佐々木さん(71歳、女性)からのご相談
都内にマンション1部屋を賃貸に出しています。この物件は去年、独身で子供もいなかった弟が亡くなり相続したものです。弟のときから不動産会社に管理を任せています。ちょうど先月が、2年毎の更新時期でした。
私は、この物件の家賃が相場よりも安くなっているので、更新を機に家賃を上げるべきだと管理会社からアドバイスを受けたので、それを了承し、管理会社からは更新前に賃借人に対し更新のご案内を郵送してもらいました。ところが、賃借人は家賃の値上げが納得できなかったようで、更新の契約書にはサインしないと言い、その後連絡がとれなくなってしまいました。結局、賃借人とは連絡がとれないまま更新日が過ぎてしまいました。
ただ、賃借人は今も住んでいますし、家賃の振込も更新日以降も滞りなくあります。こういう場合、どうなるのでしょうか?
よくあるトラブル⓳「法定更新」
これで解決!
原則からお話すると、期間が定められた契約であれば、その期間が終わる前に改めて当事者双方が合意して、先の期間についての契約を結ばないと、いわゆる更新はできません(合意更新)。もちろん、契約によっては自動的に更新するという規定がある場合もありますが、賃貸借契約については、自動更新の特約が付いている場合は多くないと思います(以下、自動更新の特約がないことを前提に説明します)。
以上の原則を押さえつつ、土地や建物の賃貸借については、例外として、借地借家法に「法定更新」という制度があります。法定更新とは文字どおり、法律で定められた更新で、当事者双方で合意に至らなくても、法律の定めにより、賃借人がそのまま住んでいるだけで更新したことになってしまうという制度です。
つまり、相談者さんの場合は、更新の契約書がつくれなくても法定更新となり、賃借人は住む権利と家賃を払う義務がありますし、大家さんは貸す義務と家賃を受け取る権利があります(なお、賃料の増額は合意か判決によらなければできないので、法定更新後の家賃は従前の家賃のままです)。
ここでよく問題になるのが更新料です。相談者さんも、お手元の契約書には「更新の場合には、新賃料の2か月分の更新料を支払う」などという記載はあると思います。そうすると、連絡も満足にとれなくなってしまった賃借人では、更新料を支払わせるのも一苦労だと思いますが、今回の更新において、その更新が合意更新でも法定更新でも、相談者さんが更新料を受け取る権利はあります。しかし、今回が法定更新になってしまうと、その後の契約は期限の定めがない契約になってしまうので、その後は、更新料を払わせる法的根拠がなくなってしまいます。
以上を踏まえ、更新の話でもめて、更新の契約書がつくれなくても、原則として賃借人を追い出すことはできず法定更新になり、更新料の点などで賃貸人に不利になることがあるので、家賃の値上げも重要ですが、うまく更新の交渉を行い必ず更新の契約書は作成すべきです。