7-9月は消費増税前でも減産

鉱工業生産
(画像=PIXTA)

経済産業省が10月31日に公表した鉱工業指数によると、19年9月の鉱工業生産指数は前月比1.4%(8月:同▲1.2%)と2ヵ月ぶりに上昇し、事前の市場予想(QUICK集計:前月比0.4%、当社予想は同1.0%)を上回る結果となった。出荷指数は前月比1.3%と2ヵ月ぶりの上昇、在庫指数は前月比▲1.6%と3ヵ月連続で低下した。

9月の生産を業種別に見ると、輸出の低迷を受けて自動車が前月比▲1.7%、このところ持ち直していた電子部品・デバイスが同▲1.8%の低下となったが、半導体製造装置などの生産用機械(前月比7.6%)、コンベヤ、運搬用クレーンなどの汎用・業務用機械(前月比9.4%)が大幅増産となったことが生産全体を押し上げた。

19年7-9月期の生産は前期比▲0.6%と2四半期ぶりに低下した(4-6月期は同0.6%)。業種別には、在庫調整の進捗を反映し、電子部品・デバイスが前期比3.4%(4-6月期:同▲2.3%)と3四半期ぶりの増産となったが、国内販売が好調な一方、輸出の低迷が続いていることから、自動車が前期比▲3.4%(4-6月期:同3.1%)と2四半期ぶりの減産となった。

鉱工業生産
(画像=ニッセイ基礎研究所)

鉱工業生産は前回の消費増税前の14年1-3月期には前期比2.0%の大幅増産となったが、19年7-9月期は消費増税前にもかかわらず減産となった。駆け込み需要は増税直前の9月には前回並みの大きさになったが、駆け込み需要を除いた最終需要の基調が弱く、在庫水準が高止まりしていたため、大幅増産なしでも対応が可能だったためと考えられる。

鉱工業生産
(画像=ニッセイ基礎研究所)

財別の出荷動向を見ると、設備投資のうち機械投資の一致指標である資本財出荷指数(除く輸送機械)は19年4-6月期の前期比2.5%の後、7-9月は同2.8%となった。一方、建設投資の一致指標である建設財出荷指数は19年4-6月期の前期比0.6%の後、7-9月期は同▲0.5%となった。

19年4-6月期のGDP統計の設備投資は前期比0.2%の低い伸びにとどまった。国内需要の底堅さを背景に非製造業は増加を続けているが、輸出の減少に伴う企業収益の悪化を受けて製造業は減少傾向が鮮明となっている。7-9月期の設備投資は一部で駆け込み需要が発生することもあり、前期比プラスとなることを予想しているが、設備投資の牽引力は徐々に弱まっている。

消費財出荷指数は19年4-6月期の前期比0.1%の後、7-9月期は同▲0.8%となった。非耐久消費財が前期比1.5%(4-6月期:同▲2.5%)の上昇となったが、耐久消費財は前期比▲3.9%(4-6月期:同4.7%)と大きく落ち込んだ。

鉱工業生産
(画像=ニッセイ基礎研究所)

19年7-9月期の消費関連指標を確認すると、7月は長梅雨、低温の影響などから弱いものが多かったが、8月は猛暑効果、消費増税直前の9月は駆け込み需要を主因として高い伸びとなった。

7-9月期の民間消費は前期比プラスを確保することが見込まれる。ただし、軽減税率の導入、キャッシュレス決済に対するポイント還元などによって駆け込み需要の規模が一定程度抑えられたことに加え、駆け込み需要を除いた消費の基調が弱いことから、前回増税前(14年1-3月期:前期比2.0%)を大きく下回る伸びにとどまるだろう。

10-12月期も減産の公算

製造工業生産予測指数は、19年10月が前月比0.6%、11月が同▲1.2%となった。生産計画の修正状況を示す実現率(9月)、予測修正率(10月)はそれぞれ▲2.3%、▲1.3%であった。

10月の予測指数は10/10時点で調査されており、10/12に上陸した台風19号による工場の操業停止などの影響は織り込まれていない。もともと実際の生産は計画(予測調査)を下回る傾向があるが、10月の生産は台風による供給制約の影響で下振れ幅が大きくなる可能性が高い。

鉱工業生産
(画像=ニッセイ基礎研究所)

7-9月期の生産が消費増税前にもかかわらず低調だったのは、駆け込み需要が小さかったことに加え、もともとの生産の基調が弱いためである。消費増税後は税率引き上げに伴う実質所得の低下によって個人消費が一定程度落ち込むことは避けられず、生産の基調はさらに弱まる可能性が高い。駆け込み需要の反動減は小さくなるため、前回の増税後のような大幅減産(14年4-6月期の前期比▲2.9%)は避けられるが、7-9月期に続き10-12月期も減産となる可能性が高いだろう。

鉱工業生産
(画像=ニッセイ基礎研究所)

数少ない明るい材料は、世界的なITサイクルの悪化を受けて在庫の積み上がりが続いていた電子部品・デバイスの出荷・在庫バランス(出荷・前年比-在庫・前年比)が改善していることである。電子部品・デバイスの7-9月期の出荷が前年比▲3.3%と4-6月期の同▲9.2%からマイナス幅が縮小する一方、在庫が前年比▲17.8%と4-6月期の同▲9.7%からマイナス幅が拡大したため、出荷・在庫バランスは4-6月期の+0.5%ポイントから+14.5%ポイントへと大きく改善した。輸出の持ち直しに伴い、電子部品・デバイスの在庫調整圧力は低下しており、世界的なIT需要の落ち込みに歯止めがかかれば、生産が大きく伸びる可能性があるだろう。

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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任

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