インドネシアの2019年7-9月期の実質GDP成長率(1)は前年同期比(原系列)5.02%増(前期:同5.05%増)と若干低下し、市場予想(2)の同5.00%増とほぼ一致した。

インドネシアGDP
(画像=PIXTA)

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、内需の落ち込みが成長率低下に繋がった(図表1)。

民間消費(対家計民間非営利団体含む)は前年同期比5.06%増(前期:同5.38%増)と低下した。費目別に見ると、食料・飲料(同5.18%増)やホテル・レストラン(同5.74%増)、輸送・通信(同4.35%増)、住宅設備(同4.55%増)などが幅広く低下した。

政府消費は前年同期比0.98%増となり、前期の同8.25%増から大きく低下した。 総固定資本形成は前年同期比4.21%増と、前期の同5.01%増から低下した。建設投資(同5.03%増)と機械・設備(同7.79%増)、自動車(同6.34%減)がそれぞれ減速した。一方、在庫変動の成長率寄与度は▲0.37%ポイントとなり、前期の▲0.85%からマイナス幅が縮小した。

純輸出は成長率寄与度が+1.83%ポイントとなり、前期の+0.95%ポイントから拡大した。まず財・サービス輸出は前年同期比0.02%増(前期:同1.98%減)と上昇したものの、微増に止まった。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同3.84%減)が2期ぶりに減少したものの、財輸出(同0.53%増)が非石油・ガス輸出を中心に増加した。一方、財・サービス輸入は同8.61%減(前期:同6.78%減)となり、3四半期連続のマイナスとなった。

インドネシアGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給項目別に見ると、主に第一次産業と第三次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。

成長を牽引する第三次産業は前年同期比6.29%増(前期:同6.47%増)と若干低下した。内訳を見ると、構成割合の大きい卸売・小売が同4.75%増(前期:同4.63%増)、運輸・倉庫が同6.63%増(同5.78%増)、不動産が同5.99%増(前期:同5.74%増)、金融・保険が同6.15%増(前期:同4.55%増)、ビジネスサービスが同10.22%増(前期:同9.94%増)と上昇した一方、情報・通信が同9.15%増(前期:同9.60%増)、ホテル・レストランが同5.36%増(前期:同5.52%増)、行政・国防が同1.86%増(前期:同8.85%増)と低下するなど、明暗が分かれた。

また第一次産業は前年同期比3.08%増(前期:同5.41%増)と低下した。

一方、第二次産業は前年同期比4.10%増(前期:同3.22%増)と上昇した。内訳を見ると、建設業が同5.65%増(前期:同5.69%増)と低下したものの、構成割合の大きい製造業が同4.15%増(前期:同3.54%増)、鉱業が同1.94%増(前期:同0.71%減)などと上昇した。

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(1)11月5日、インドネシア統計局(BPS)が2019年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。
(2)Bloomberg調査

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

インドネシア経済は+5%成長を維持したものの、ごく緩やかな減速傾向が続いており、過去2年間で最も低い成長ペースにある。7-9月期の景気減速の主因は、これまで底堅さを保ってきた内需の鈍化だ。選挙関連支出による消費押し上げ効果の剥落に加え、世界経済の減速と米中貿易戦争の激化を背景とする輸出低迷の悪影響の波及、昨年の金融引締め策に伴う貸出金利の上昇などが内需の下振れに繋がったと見られる。なお、純輸出の成長率寄与度は前期に続いてプラスとなったが、これは内需の落ち込みを反映して輸入が大幅に減少したためであり、ポジティブなプラス寄与とは言えない結果であった。

消費は、民間消費(前年同期比5.06%増)と政府消費(同0.98%増)がそれぞれ減速した。今年4月の大統領選挙・総選挙関連の支出は年前半の消費を加速させていたが、この押上げ効果が7-9月期に剥落した影響が大きい。月次の消費関連の指標をみると、7-9月の小売売上高は僅かに増加したものの、年前半の伸び(+6.5%程度)と比較して落ち込んでいる(図表3)。こうした家計の購買力の弱さを反映して、消費者信頼感指数は直近3ヵ月が低下傾向にあり、またコアインフレ率は6月から緩やかな低下傾向にある。

国政選挙に伴う政策の先行き不透明感を背景に年前半に伸び悩んだ投資は、現職のジョコ大統領が勝利して政策の継続性が担保されたため、7-9月期に持ち直すと思われたが、4期連続で鈍化した。輸出停滞とコモディティ価格下落を背景とした企業の投資マインドの悪化や10月の第2期ジョコ政権発足まで企業が投資判断を見合わせたことが7-9月期の設備投資の鈍化に繋がったものとみられる。実際に設備投資関連の指標をみると、機械・輸送用機器の輸入量と商用車販売台数は4-6月期に続いて減少傾向で推移している(図表4)。他方の建設投資は政府の資本支出の停滞を受けて鈍化した。

インドネシアGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

インドネシア経済の先行きはどうなるだろうか。足元ではITサイクルが下げ止まりつつあり、米中貿易協議が「第1段階」の合意に向けて進みつつあるなど明るい材料が出てきている。米中合意は全ての制裁関税の撤廃までの道のりは不透明であるほか、一部の米経済指標では変調の兆しが見られるなど、まだ楽観視できる状況ではないが、輸出底入れの兆しは見えてきている。

一方、内需は自立的な持ち直しの動きがみられない。投資は国政選挙に伴い先送りされてきた投資案件の実行やインフラ投資の拡大などから来年にかけて徐々に回復するだろうが、足元では石炭やパーム油などインドネシアの主要輸出品の価格が低迷しており、企業は積極的に動きにくい状況にある。また10月の製造業PMIが47.7ポイントまで落ち込んでおり、10-12月期も投資の鈍化が続く恐れがある。他方、選挙関連支出による押上げが剥落した民間消費は10-12月期も鈍化して+5%割れする展開も予想される。8月の失業率は5.28%と低水準を維持しているが、生産活動の鈍化を背景に就業時間が短くなるなど雇用条件は悪化傾向にあるためだ。

内需の冴えない状況が続くと見込まれるなかでは、インドネシア銀行(中央銀行)のもう一段の金融緩和や政府の財政出動が求められる。中央銀行は今年7月から4ヵ月連続の利下げを実施して累積利下げ幅が1.0%に達したほか、9月には不動産融資や自動車融資などの規制緩和を実施した。しかし、昨年の累積利上げ幅の1.75%を解消してはおらず、昨年初と比べて金融引き締め的な状況にあることに変わりはない。通貨ルピアが年初から安定して推移するなか、ペリー・ワルジヨ総裁は更なる利下げの可能性を示唆しており、年内に1~2回の追加利下げの実施が予想される。 一方、インドネシアは財政再建の途上にあり、追加的な財政出動には期待できない。しかしながら、足元の景気減速を考慮して、インドネシア政府は税収の落ち込みに伴う歳出削減は行わず、結果として財政赤字の拡大を認めることになると予想される。もっとも金融緩和に伴う対米金利差の縮小や財政赤字の拡大は国外への資金流出を招く可能性もあるだけに、慎重な対応を取らざるを得ないだろう。

インドネシア政府は来年の成長目標を+5.3%としている。景気回復には輸出の底打ちとコモディティ価格の上昇、そして政府と中銀の政策対応が求められるが、それでも目標達成は難しそうだ。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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