不動産投資のリスクを、実際に現場で起きている問題から学ぶ!

不動産
(画像=PIXTA)

不動産投資のトラブルは、ミクロで見るとさまざまな事情や状況で多岐にわたりますが、法的な結論はシンプルで、いくつかのポイントを抑えておけば、トラブル回避は充分に可能です。そこで、私たち弁護士が実際に相談を受けた案件から、よくあるトラブルをご紹介。なぜ問題が生じたのか、そしてどのように解決したのかをわかりやすく解説します。

ヴェリタスインベストメント
(画像=ヴェリタスインベストメント)

知らないうちに借主の法人が全員変わっていた。これって無断転貸じゃないの?

長野県在住、大田さん(53歳、男性)からのご相談

10年ほど前、学生のときに仲の良かった友人が飲食店用の店舗を探していると言うので、たまたま空いていた物件を貸すことにしました。貸した当時は友人の個人事業だったので、友人個人と契約しましたが、貸してから3年ほどして友人から「株式会社にしたので賃貸借契約も株式会社を借主にしてほしい」と言われ、私は、友人を信頼して株式会社との契約に切り替えました。

しかし、先月の家賃が振り込まれていなかったので友人に連絡したところ、友人は、去年その株式会社を売って、もうその居酒屋の経営には関わっていないと言うのです。その株式会社の現在の役員も株主も全員、私の知らない人でした。

会社の中身が全く変わってしまったのでは、無断転貸と同じだと思います。契約を解除して出て行ってもらうことはできますか?

よくあるトラブル ㉕「法人の賃借名義と役員・株主の変更」

これで解決!

民法612条1項は、無断転貸(貸主に無断で借主が借りている物件を第三者に貸すこと)を禁じ、同条2項は、無断転貸があった場合、貸主は契約を解除できると規定しています(多くの賃貸借契約書には、民法612条と同じ内容が明記されています)。無断転貸を禁じ、無断転貸が解除原因にもなる理由は、貸主が借主を「信頼」して貸すからです。貸主の知らない第三者に自由に又貸しできるようでは、貸主は安心して貸すことができなくなってしまいます。

この点、株式会社などの法人との賃貸借契約については、あくまで借主は法人の代表者個人ではなく、法人そのものです。ただ、ご相談と同じような事例で、法人の中身が変わって裁判になったことがあります。その裁判において最高裁判所は、平成8年10月14日、借主が法人の場合、法人の実態が全くないようなときを除いて、法人の構成員に変動が生じても法人格の同一性は失われないから、賃借権の譲渡には当たらない(つまり契約解除はできない)と判断しました。

そうすると、ご相談者さんの場合には、契約解除はできないということになります(もちろん、このまま家賃が支払われなければ、賃料未払を理由に解除できる場合があります)。ご相談者さんがあくまでも友人個人の信頼を重視する場合、たとえば、株式会社との契約に切り替えるときに、契約書の中に友人が経営から退く場合には契約を解除できると明記することも1つの方法です。ただ、このように明記したとしても、借主の居住権や営業権が保護されているので、裁判所が解除を当然に認めるわけではなく、たとえば経営者の死亡などやむを得ない理由がある場合以外には、契約解除は認められない可能性が高いでしょう。そこでお勧めなのは、前回ご紹介した定期借家契約を活用することです。合意でないと契約更新ができない状態にしておけば、経営者が変わって、信用できない経営者と判断したら契約を更新しなければ済むので、リスクを低減することができます。