名経営者はどこで間違ったのか
ゴーン氏の衝撃の逮捕から1年。だが、いまだに混乱が続く日産。それは「ゴーン氏の負の遺産」だと指摘するのが、新著『「名経営者」はどこで間違ったのか ゴーンと日産、20年の光と影』を上梓した法木秀雄氏だ。
元日産自動車北米副社長。BMWジャパン、クライスラージャパンのトップ。そして早稲田大学ビジネススクール教授という経歴を持つ法木氏は、「ゴーン氏の日産改革には『光と影』がある」と主張する。その「影」の象徴ともいえるのが、この「人事」の問題だったという。
いったい、どういうことなのか。本書から抜粋・再編集してお伝えする。
「英語の壁」は意外なほどに大きい
欧米企業に勤めた経験を持ち、多くの企業、官庁、大学等とのやり取りを経てきたからこそ実感を込めて言えるのだが、グローバル企業で働く日本人にとって、「英語の壁」「文化の壁」は想像以上に大きい。
言葉の問題ももちろんだが、コミュニケーションのスタイルの問題もある。結論を先に述べ、その後に理由を説明する英語ネイティブからすると、まずは背景説明から入る日本人の説明は非常にまどろっこしく感じるものだ。そもそも日本人は実力があっても謙虚な人が多く、それが相手にとっては自信がないように取られてしまう。
データや実物で説明しやすい技術部門はまだいいが、営業部門や管理部門の社員には特に、このコミュニケーションギャップが大きく立ちはだかる。あくまでイメージだが、技術部門では1~2割、その他の部門では2~3割、日本人社員は実力を割り引いて評価されてしまう傾向があると言えるだろう。
欧米に「ごますり」がないと思ったら大間違い
一方、母国語が英語あるいは英語が堪能で、自己主張が明確で、プレゼン能力が長けた人は、実務能力が劣っていても評価される傾向が強い。明らかにトップにごまをすることで取り立てられているような人も少なくない。
日本人は「ごますり」をよしとせず、欧米人はごますりなどしないものと考えている人も多いが、筆者の印象は逆である。「ここまでやるか」というほどのごますり社員が、米国にもドイツにもフランスにもいた。
ドイツ系企業にいたときは、本社から会長が来ると聞くと、会長の好むワインを調べて用意するだけでなく、事前にすべての行程を綿密にチェックし、行く先々にて会長の好みのフレグランスを噴霧し、好みの花を準備するといった社員すらいた。むしろそういうことをしない日本人社員が「気が利かない」と評価されてしまうこともあったほどだ。
日本人には「黙って仕事をしていれば、それを誰かが見てくれている」という意識があるが、グローバル企業では必ずしも通用しないことを理解しておくべきだろう。