2019年の今、不動産投資をスタートするなら何を基準に行動すべきなのだろうか。例えば資産が3000万円あったならプロはどんな提案をするのか。本特集では、そんな疑問を不動産投資のプロに答えてもらった。
お話しいただいたのは、富裕層を対象とした資産配分・運用設計の最適化などに詳しいウェルス・パートナー代表取締役・世古口俊介さんと、ファイナンシャルアドバイザーである八木エミリーさんのお二人。
例えば自身も30歳にして6棟・70室を所有する投資家である八木さんは、2018年と2019年では、銀行融資の状況が180度変化したと語る。世古口さんはその上で、提携ローンによる借り入れも視野に入れるべきとする。
そのほかにも、一棟なのか区分なのか、新築なのか中古なのか、都内なのか地方なのか……。不動産投資の今を語り尽くしてもらった本特集は、自分にとってベストな答えを導き出す手助けになるはずだ。(聞き手・大岡雅弘 / 写真・森口新太郎)
1982年10月生まれ。大学卒業後、2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイス銀行(クレディ・スイス証券)プライベート・バンキング本部の立ち上げに参画。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。保有資産数百億円以上の富裕層、未上場・上場企業の創業家の資産保全・管理、相続・事業承継対策、資本政策・M&Aなどの企業価値向上対策、ファミリーオフィスサービス提供に従事。
1989年生まれ、愛知県西尾市出身。東京都在住。野村證券株式会社入社後、史上最年少で社外向けセミナー講師に抜擢。顧客向けセミナーを定期的に行う。2014年より個人で不動産投資の勉強を始め、翌年に初めて不動産購入。現在、6棟・70室を所有。投資総額6億強。家賃収入5000万強。「日本には金融を学ぶ場がなく、何も知らないまま大人になってしまう。日本のファイナンシャルリテラシーを高めたい!」という思いから、2018年1月より株や不動産を含む、お金や投資全般が学べるオンラインサロン「em会」を立ち上げ、主に20~30代の若者を対象としたセミナーを開催。絶大な支持を得ている。
不動産投資は「純資産×3~4倍規模」が基本
――資産3000万円クラスの人に不動産投資について相談されたら、どんな提案が考えられるのでしょうか。非常にざっくりとした設定ですが、自己資金3000万円クラスの人に、この質問からお伺いしたいと思います。
世古口: 確かにざっくりしてますね(笑)。ほかに欲しい条件は年齢と収入ですね。それによって取れるリスクの範囲が変わってきます。
仮に保有資産3000万円、年齢は比較的若い30代で年収1000万円だとしましょう。投資目的はひとまず借入(レバレッジ)を活用して資産を長期的に拡大することでしょうか。一般的に純資産×3~4倍規模の収益物件への投資が妥当だと思いますから、9000万円~1億2000万円程度の投資を勧めますね。
――その条件なら銀行からの融資も受けられるということですか?
世古口: 銀行にもよりますが、年収1000万円あれば10倍程度の借り入れが期待できます。ただし銀行の個別審査によるローン(プロパーローン)の場合は頭金が必要ですよ。また銀行と不動産会社の提携ローンだとフルローンも可能ですが、毎月の返済額が大きくなり、キャッシュフローがキツくなる可能性があります。
八木: 私も不動産を買う前提なら、それくらいの額の投資がいいと思います。問題はその方がどれくらいのキャッシュフローを欲するのかということです。今30代だとして、何歳までにいくらくらいの資産を作りたいのかですね。ゴールを決めてからの逆算が絶対に必要です。
目標に合わせて、「じゃあこれくらいの利回りで」と買うべき不動産も決まってきます。30代で年収1000万円という方だったらお仕事もお忙しくされていて、そこまで利回りを追えないかもしれませんね。でも利回りが出なさすぎても良くない。……といったような条件次第で、どんな物件を選ぶかという具体的な基準が生まれるんじゃないでしょうか。
世古口: どんな種類の物件に投資するかもありますよね。八木さんは今、どんな物件に投資されていますか?
八木: 私は中古の一棟物で、RCか重量鉄骨です。場所は都内が半分、地元である愛知県が半分です。
年齢がまだ若くてこれから資産を形成していく段階であれば、中古の一棟マンションは狙い目の投資対象だと思いますよ。区分マンションなどに比べると大きいので、数億円の物件を一つ買って終わりという形にはなりますが。
世古口: なるほど。これも何を取るかですよね。流動性や売りやすさ、値上がりを考えるなら都内のできるだけ駅に近い物件がいいのですが、代わりに利回りが低くなりやすい。投資額に対して賃料が低いですから。ただ、キャッシュフローやインカムゲインを主な目的とするなら十分あり得る選択肢です。その方が何を目指しているかによって決めるべきなんですよね。これは基本ですが、意外と自分の投資の目的や目標と現在の資産構成が合致していない方というのは多いです。
不動産投資ローンを組めないという現状の問題
八木: 一方で今は銀行の融資が厳しくて物件も少なくなってきているので、その難しさはあると思います。不動産会社に言われるままに買うと失敗してしまうケースが多いです。
世古口: 簡単にローンが組めなくなっていますよね。先程頭金が必要だと言ったのはそのこともある。
八木: 私も今、新しく物件を買おうとしていますけど、苦労していますね。ある程度の金額を銀行に入れておくなどの工夫が必要です。
なので、これから銀行を開拓する方は大変だと思います。2018年のかぼちゃの馬車・スルガ銀行の投資トラブル以来、一気に銀行の融資が引き締まって物件が買えなくなってしまいました。状況がガラッと180度変わったんです。
私自身は、1年前と今では同じ労力をかけても同等の成果を出せないと判断して、その分株に力と時間を注ぐことにしました。
――となると、今、投資を始めるなら不動産より株のほうがいいのでしょうか?
八木: 私自身がそうだったのですが、最初は株や債券で資産を作り、そこから不動産にシフトすることをおすすめします。
例えば今、1億円の不動産物件を買おうと思ったら、頭金2割、初期費用8%として、ちょうど3000万円弱必要になる計算です。とはいえ資産3000万円の人が投資に全てを注ぎ込めばいいのかというと、手持ちのお金がなくなるのはやはりリスクが大きい。そうなると、もう少し資金を増やしてからというやり方のほうが手堅いと思います。
世古口: 同意しますが、僕はシフトしていくというより、金融と不動産は常にどちらも持っていたほうがいいという考えです。株も債券も、不動産もやる。不動産に関してはできるだけ手持ちの資金は使わず借り入れでやるほうがいいと思います。
八木: なるほど。私も金融と不動産の同時進行は賛成です。
世古口: 現状は銀行のプロパー融資を引き出すのが難しいとなると、銀行がフルローンで貸してくれる提携ローンも視野に入ってくると思います。提携ローンは不動産会社と銀行が提携して、パッケージ商品として提供するローンです。比較的早い審査で融資を受けられるので、人によっては利用してもいいでしょう。
ただし、その場合は区分マンションが投資対象になりますね。一棟は無理です。場所は都内が中心で、一部大阪などもあります。物件を一つひとつ見極める必要はありますが、これも資産3000万円クラスの人にはおすすめかもしれません。
八木: 節税が目的なら区分マンションの提携ローンも全然アリですよね。その場合、新築だとキャッシュフローが残りにくいので、やはり中古を買うのがいい。安く買ってキャッシュフローを回せるのなら、悪くない選択だと思います。
富裕層は相続税対策・相続争い対策が不可欠
八木: やはり大事なのは目的と、不動産投資で何を得ようとするのかという部分ですよね。
世古口: 30代、40代の資産形成層と呼ばれる方やこれから資産を増やしていこうという人と、資産レベルがもっと高い富裕層では事情も違う。分けて考える必要がありますね。
富裕層の方だと、投資で成功するということとはまた別の目的が出てきます。一番大きいのはやはり相続税対策です。資産1億円までならそこまででもないのですが、数億円以上になるとこの問題を避けて通るわけにはいきません。相続税の最高税率が6億円以上あると55%ですから、必然的に相続の際に税金を引き下げる目的で不動産投資を考える方が増えてきます。
――相続税対策としての不動産投資のポイントは?
世古口: 相続税は所有している不動産の時価でなく相続税評価額で計算されるので、時価と相続税評価額にできるだけギャップのある物件に投資することです。都内のマンションなら、時価で1億円、相続評価は2000~3000万円という物件があります。相続税対策はしっかりやれば税負担がゼロになる可能性もあるので、やらないともったいないレベルですね。
八木: 私の知り合いにも資産圧縮を目的に不動産を買う方がいらっしゃいますし、子供が3人いるから物件を3つ持つという方も多いですね。相続のときに分けやすく、コンパクトで手離れがいいからという理由であえて区分マンションや数百万円クラスの中古の戸建てをいくつも買って管理しているという方も増えています。
世古口: そうそう、相続争い対策も必要です。例えば数億円の不動産を一棟持っていて預金が5000万円あるとすると、一棟の不動産を共有する形で相続させるのは争いのもとになるので避けたいところです。八木さんもおっしゃったように売却して人数分で分けるのがセオリーです。
売却したくない場合は不動産を担保に借り入れをして、キャッシュを上乗せして分配するなどの形で公平性を保つ必要があります。僕の仕事ではそうした相続争いにならない資産承継の最適化をすることも多いですね。
(#2へ続く)