今、不動産投資をスタートするなら何を基準にすべきなのか、不動産投資のプロに伺う本特集。第2回はありがちな失敗ケースとその対処法に迫る。物件の不具合や空室リスクを回避する方法について、専門家はどう考えているのだろうか。そこには「足で稼ぐ」と言っても過言ではない、不動産投資の実像があった。(聞き手・大岡雅弘 / 写真・森口新太郎)

世古口俊介さん
株式会社ウェルス・パートナー代表取締役
1982年10月生まれ。大学卒業後、2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイス銀行(クレディ・スイス証券)プライベート・バンキング本部の立ち上げに参画。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。保有資産数百億円以上の富裕層、未上場・上場企業の創業家の資産保全・管理、相続・事業承継対策、資本政策・M&Aなどの企業価値向上対策、ファミリーオフィスサービス提供に従事。

八木エミリーさん
個人投資家、ファイナンシャルアドバイザー
1989年生まれ、愛知県西尾市出身。東京都在住。野村證券株式会社入社後、史上最年少で社外向けセミナー講師に抜擢。顧客向けセミナーを定期的に行う。2014年より個人で不動産投資の勉強を始め、翌年に初めて不動産購入。現在、6棟・70室を所有。投資総額6億強。家賃収入5000万強。「日本には金融を学ぶ場がなく、何も知らないまま大人になってしまう。日本のファイナンシャルリテラシーを高めたい!」という思いから、2018年1月より株や不動産を含む、お金や投資全般が学べるオンラインサロン「em会」を立ち上げ、主に20~30代の若者を対象としたセミナーを開催。絶大な支持を得ている。

購入した物件に水道管が引かれていなかった!?

プロが語り合う不動産投資#2
(写真=森口新太郎、ZUU online編集部)

――八木さんは2015年から不動産投資をされてきて、「これはちょっと失敗した」と感じた経験はありますか?

八木: いくつもありますね。中でも思い浮かぶのは購入の失敗経験でしょうか。リカバリーはしたので本音としては失敗とは思っていないんですけど……(笑)。

世古口: あえてそれを言っていただくと?

八木: 都内で購入した、1階がテナントで2階以上が住居という物件があるのですが、テナントが外れた後初めて中をしっかりと見たら、水道管が引かれていないことに気がつきました。図面にはあるんですよ、水道管。でも実際にはなかったんです。

世古口: それは施工会社の責任になるんですか?

八木: そうなんですが、確認しなかったのは自分なのであまり人のせいにしてもダメだなと思って追及しませんでした(笑)。あと、テナントのブレーカーもなぜか2階の部屋にあったりしました。不動産にはそういう適当な部分もあるんだなと身を持って実感したケースです。

だから物件は自分の目で見てしっかりと確認しなければなりません。その上で初めて施工会社や不動産会社と交渉できるようになると思うんです。

――現場で物件を見るときは何をチェックしますか?

八木: 自分の中で条件を決めているので、それをクリアしているかどうかですね。でも完璧な物件はまず見つかりません。一長一短は必ずあるものなので、ここは譲れない、この点は目をつぶれるという優先順位も自分の中で設けて、最低限の条件をクリアすればOKという判断をしています。完璧な物件を探して時間を使ってしまうと、良い物件はすぐになくなってしまいますしね。

具体的には土地値が上がり続けているかどうか、積算価格が売値を上回っているかどうかといった数字面、街の人口増加率、駅からの距離などももちろん確認します。中古を買うという視点では修繕がされているのかも見ますね。さらに細かい部分では、エレベーターは不要だと考えます。一番重要視しているのは、自分自身のバランスシートの中で純資産を増やしていけるかどうかですかね。

――「自分が住むとしたら」という感覚での判断はしますか?

八木: 全く考えません。住むのは自分ではありませんから。ターゲットを設定して、その人が住むとしたらという観点で考えます。一方でエレベーターを不要とするのは、コストを考えてのことです。エレベーターは維持費もメンテンス費も、壊れたときの修理代もかかります。すると必然的に4階建て以下の物件という基準になります。

投資で「新築にこだわる」のはナンセンス

プロが語り合う不動産投資#2
(写真=森口新太郎)

――世古口さんは不動産投資をはじめとする資産運用そのものについて相談を受けることが多い立場ですが、投資家が陥りやすい失敗のポイントはどこですか?

世古口: 日本人はなぜか新築が好きなんですよ。自分が住むのならまだわかりますが、投資でも新築にこだわる人が多いです。

八木: よくわかります(笑)。

世古口: そういう建て売りの業者が多いから、というのもあるとは思うんですが……。新築は建ってから最初の10年は価格がどんどん下がっていくので、合理的な投資対象とは言えません。

新築の区分マンションは利回りが低くて都内だと3%台ですが、これをフルローンで買ってしまうと恐らく5年、10年後にはマイナスキャッシュフローになってしまいます。このパターンに陥っている方はけっこういらっしゃいますよ。

八木: 多いですよね。私も投資対象は全て中古で、新築は対象外です。

世古口: ただ、中古の場合は修繕にまつわる失敗がありますね。とくに古い一棟マンションやアパートで多いのが、買った途端に建物や設備に不具合が出るケースです。翌年には数百万円から1000万円くらい修繕費がかかってしまう。対処法は「事前に調べる」なのですが、どれだけ調べても調べ尽くせないこともあります。

八木: 私はもう不具合は発生するものだと最初から想定して、修繕のために使えるお金をあらかじめ残しておくようにしています。例えば台風で被害を受けても保険会社さんに「経年劣化による損壊だ」と言われることもあるくらいですから。

世古口: 購入の際に資金を使いきってしまい、ギリギリの状態でやりくりしている人は要注意ですね。

八木: 一棟物だとちょっとした修繕費でも200万円くらいはかかりますしね。手元にお金を残しておくのは絶対に必要です。

空室リスクは「人間関係」でカバーできる

八木: あとは80%程度の入居率でキャッシュフローが回るのかどうかも事前に計算しておくべきですね。私は75%を基準に計算し、問題が無いと判断できたら買うようにしています。

世古口: 空室リスクは必ずあるので、空室を想定したストレスをかけたシミュレーションは必須ですね。

八木: ただ、空室リスクは人間関係で埋まっていくものだと思っているんですよ。

世古口: 人間関係とは?

八木: 入居者が現れるかどうかは、自分と客付け業者さん、管理会社さんがタッグを組んでどれだけ努力するかにかかっているということです。逆に言えばその連携さえできるのなら空席リスクはそこまで恐れることでもありません。

これも失敗談になるかもしれませんが、私の場合は26歳で最初に一棟物を買ったとき、めちゃくちゃナメられていたんです(笑)。

世古口: 管理会社にですか?

八木: そうです。「状況を報告してください」と言っても報告が上がってこないばかりか、仮に上がってきても嘘の内容だったなんてことがザラでした。

入居希望者の状況についても聞けば「案内しています」と答えるのですが、抜き打ちで現地に行ってみると全くやっていない。現地に行って部屋のドアを開けると湿気で籠もった空気がムワッとして、部屋が閉め切られた状態のままだったとわかるんですよ。案内なんかしてないじゃないか!って(笑)。ひどいときはベランダに上階の人の洗濯物が落ちている状態だったなんてこともあります。

世古口: それはひどい。どうやって改善していったんですか?

八木: 管理会社に何度もしつこく連絡しました。毎週必ず、何件問い合わせがあって何人案内したのか、案内して印象は良かったのか悪かったのか、ダメだったらなぜだったのか、といったことを全部ヒアリングしたんです。

当然、最初は嫌がられました。管理会社を変えるという手もあるにはあるのですが、あえて「絶対に変えませんから」と伝えて(笑)。なんとか努力してくださいとうるさく言い続けました。

入居率が上がれば管理会社さんの取り分も多くなるんですから、一緒に頑張りましょうと訴え続けて、少しずつ信頼関係を構築していったんです。

世古口: なるほど……。管理会社は確かに大事ですよね。そういえばうちのお客さんにも、部屋が満室になると管理報酬を多く支払うようにしている方がいました。インセンティブ方式です。珍しいケースですが、すごく賢いやり方だと思いましたね。

八木: 実は私もそうしています。

世古口: さすがです!(笑)このやり方は効果的ですよね。大家と管理会社が同じ方向を向いて努力できるわけですから

八木: そうなんです。「一緒に成功しよう」という気持ちになります。あとは事務所の近くに行く機会があればお菓子を持って必ず顔を出すといったこともしましたね。

不動産業界はまだまだアナログな部分が残っている業界なんです。だから、地道で泥臭い努力はすごく大事だと思いますよ。そもそも収益物件自体も人が住む場所なので、アナログ思考は必要ですね。

#3へ続く)