(本記事は、井上裕之の著書『会話が苦手な人のためのすごい伝え方』きずな出版の中から一部を抜粋・編集しています)
「否定してはいけない」
誰かと会話をしていると、相手と自分の意見が食い違うこともよくあります。
同じレストランで同じものを食べても、「美味しい」と感じる人もいれば、「ちょっと味が濃いかな」と感じる人もいる。人の感情は千差万別です。
食べ物に対しての感想なら、正直に自分の意見を言うことができるかもしれませんが、仕事や恋愛など人間関係に関することとなれば、相手の状況や立場などを考えてしまい、なんと答えていいか迷うこともあります。
しかし、相手と自分の意見が食い違い、心がザワザワしても、まずは相手を全否定するような言葉を口にしてはいけません。
たとえ親友であろうと、気心の知れた仕事仲間であろうと、「そうじゃなくて」や「でもさ」などと切り出してしまうと、相手は自分の意見を否定されたと思いカチンとくるはずです。すると、そのあとあなたがどんなに相手に賛同しても、意見を聞き入れてもらうことができにくくなります。
とある大会社の社長が「部下と折り合いが悪い」と悩んでいました。
そこで私は「折り合いをつける前に、まずは相手を認めてあげてはいかがですか」と言うと、「それができないんだよ」と答えました。
たしかに、大会社の社長ともなれば確固とした自分軸が確立されています。
その揺るぎない自分軸に従い行動したからこそ、いまの地位を入れることができた。
それは素晴らしいことだと思います。
しかし、社長という地位にあぐらをかき、会社のために一生懸命働いてくれている部下の気持ちを認めてあげることすらできないなら、それは一流の経営者とは言えません。
自分がどんな立場であれ、まずは相手の意見を静かに傾聴してあげましょう。
そして、相手と自分の意見が相反するものであっても、「そうだね、たしかに私があなたの立場だったらそう思ったかもしれない」と答えましょう。
この「私もそうしたかもしれない」という言葉は、相手を否定することもなく、かといって賛同するわけでもない、ちょうどいいニュアンスを伝えるのに最適で便利な言葉です。
相手に安心感を与えるという意味でも非常に便利です。安心すると人の気持ちは穏やかになるので、そのあとあなたがどんなに相反する意見を伝えても、なぜか素直に受け入れてくれます。
以前、私のところにこんな女性が相談に見えました。
「兄弟たちは、親の介護を私に任せきりで何ひとつ手伝ってくれない」と、納得いかない実情を涙ながらに話されました。
もしあなたなら、この女性になんと声をかけるか想像してみてください。
きっと、「介護施設に預けることを検討してみたら?」とか「一度、兄弟ときちんと話し合ってみたら?」というアドバイスをする方も多いかもしれません。
しかし、私はこのように答えました。
「あなたの気持ちはよくわかります。しかし両親は自分を看てくれる人に感謝し、看てくれない子どもに対しては不安をもつでしょう。あなたは自分の親に不安をもたせる状況をつくっていない。つまり、あなたは親を幸せにしています。両親を大切にすべきときにできない人は、きっとあとで後悔すると思います。あなたはいまできることを精一杯、ご両親にしてあげてください」
そう言うと彼女は、「私は親に幸せを与えている幸せな存在なんだ」という事実に気付きます。いままでは自分を「かわいそうな人間」としか見ていなかったけれど、このひと言で「私は幸せ」とインプットされました。
こうなると、「幸せな自分」が潜在意識のなかに上書きされ、幸せになるように作動し始めます。そうなると、新しい気持ちでご両親、兄弟と向き合うことができるのです。
つまり、どんな相手であれ、相手の気持ちを認めたうえで、さらに相手の気持ちがプラスに作用する言葉を添えてあげる。それが相手を満たす会話につながるのです。
すごい伝え方のコツ
否定されない会話が、相手を満たすことを知る
「勝ってはいけない」
世の中には理不尽な出来事がたくさんありますが、私はどんなに理不尽なことがあろうと怒りません。なぜなら、潜在意識レベルで「怒らない」と決めてしまっているからです。
もちろん、私のまわりに火種がないわけではありません。自分のことならまだしも、家族やスタッフなどに対して起こる理不尽な出来事に関しては、心穏やかでいられなくなるときもあります。
以前、私の歯科医院のスタッフが、ある患者さんに「診療の予約したはずなのに、なぜこんなにも待たされるのか」とクレームを言われたと報告を受けました。
担当したスタッフに確認すると「その日の予約ではなく、翌日の同じ時間に予約を受けている」とのこと。
明らかに患者さんの思い込みで文句を言っているとわかりましたが、そんなとき、「本日のご予約は承っておりません。あなたの思い込みです」と事実を伝えたところで、相手は納得しないでしょう。
このように、相手が怒っている場合は、どう伝えたらいいでしょうか?
その答えは、「こういうときこそ、相手に寄り添うこと」です。
怒りは第二の感情と言われており、怒る感情にはかならずその下に何かしらの理由があります。
クレームを言う人は明らかに「感情型タイプ」が多いです。
よって、私は患者さんのメンタルに寄り添うことを意識しつつ、具体的な代替日時を提案しながらていねい謝罪をしました。
すると、患者さんも冷静さを取り戻したようで、「悪かったね。勘違いしちゃって」と謝罪しながら納得して笑顔で帰られました。
自分の勘違いでクレームをつけるなんて、なんとも理不尽な人だと思いがちですが、接客とはそういうリスクがついてまわるものです。
想定内のことと認識すべきですが、接客だけでなく、ビジネスシーンや友だち、恋愛においても、理不尽なことや見過ごすことができないと思うことは多々あります。
そして、相手をその場で打ち負かすことに必死になっている人も少なくありません。
しかし、世の中に完璧な人などいません。あなたからすると明らかに相手が間違っていると感じても、あなたが100%正しいとは言い切れません。
怒りの多くは価値観の相違から生まれます。いったん火がついてしまうとすさまじいエネルギーを発し、いままで積み上げたキャリアや信頼関係を一瞬で破壊する力をもっています。
つまり、自分が100%正しいと言えないにも関わらず、怒りの感情を相手にさらすことはあなたにとってマイナスにしかなりません。
だからこそ、ケンカは負けるが勝ち。
長いスパンで考えると、相手に勝たせて相手をスッキリさせてあげるほうがいい。その場で相手を打ち負かし恨みを買うようなことは、結局は自分にとって損をすることにつながります。
したがって、いくら理不尽なことがあっても、一度冷静になってその問題を客観的に見つめてみましょう。「自分の意見が正しいとは限らない」とわかっていれば、「相手が間違っている」という思い込みを手離すことができ、自分がいままでもち得なかった新しい思考が見えてくるかもしれません。
新しい思考に気付く。それこそがあなたにとって、成長の証です。
そして、それは潜在意識のなかに新しい情報として貯蔵されます。
つまり、あなたに文句を言う人、怒ってくる人は、あなたが成長するきっかけを与えてくれる人。つまり、あなたにとって必要な人なのです。
すごい伝え方のコツ
あえて負けて、最後に勝つ
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