(本記事は、井上裕之の著書『会話が苦手な人のためのすごい伝え方』きずな出版の中から一部を抜粋・編集しています)

まずは、相手の話を聞く

マネジメント,人間関係,リーダーシップ
(画像=Antonio Guillem/Shutterstock.com)

誰かと会話をするときや相談を持ち掛けられたとき、自分の思いを伝えたり、言葉をかけたりする前にかならず必要なこと。

それは、まずは相手の話を最後まで聞くことです。

そう言うと「え、聞くだけでいいの?」と思う方もいるかもしれませんが、じつはこれ、意外とできていない人が多いです。

人は誰でも自分の話を聞いてほしい生き物です。

だからこそ、相手の話を聞いているつもりでも、相手が話し終わる前に自分の意見を主張してしまうという場合が多い。

それに、もしかしたら相手も会話に苦手意識を抱いている可能性もあります。であれば、どんな相手であれ、相手の話を途中で遮ってしまうことはやめましょう。

加えて、たとえば仲のいい友だちに「相談に乗ってほしい」と言われたとき、ほとんどの方はあなたに「解決するための提案」を求めているのではなく、ただ「自分の話を聞いてほしい」と考えています。

しかし、「相談に乗ってほしい」と言われたら、相手を傷つけないよう、普段より大げさに同調するような態度を取っていませんか?その真面目さが、かえってあなたを疲れさせ、回答力をダウンさせている原因になっているのです。

相手の話を聞くときの姿勢は、大きく分けて3つのパターンに分かれます。

(1)受け流す
相手の話を「聞き流す」という意味。相手の話に聞く耳をもたないこと。

(2)受け止める
相手の話に同意はしませんが、事実として、その話を聞いてあげること。

(3)受け入れる
相手の話に同意し、その話を認めてあげるということ。

あなたが会話に苦手意識を抱いている理由は、この(2)「受け止める」と、(3)「受け入れる」の意味を混同しているせいかもしれません。

話を聞いてあげる(受け止める)だけで相手は満足するのに、なぜかあなたは相手に共感しなくてはいけない(受け入れる)と思い込んでいます。

すべての意見が一致する人などいません。

いくら仲がいい友だちでも、相手の考えと自分の意見がすべて一致するなんてことは絶対にありません。相手の話をうなずきながら聞いていても、心のなかでは、

「私だったらそうは思わない」
「この子はいつも同じところでつまづいている」
「それって、ただのわがままじゃない?」

そんなふうに思うこともあるでしょう。

しかし、あなたはそれを決して口にしません。とにかく共感してあげなければと思い込んでいます。

もともと、人は自分の思いに反することを口にすることに抵抗があります。

たとえば、甘いものを食べたとき、あえて「酸っぱい」と言ってみてください。なんとなくモヤモヤしますよね。

同じように、あまり口に合わないと思った料理でも「美味しい」と言わざるを得ない状況では、思わず顔が引きつってしまったりします。

つまり、本心と言葉に矛盾が生じるとき、人は違和感を抱くのです。そして、その違和感がやがて「疲れ」となって表れます。

あなたが会話に苦手意識を抱いているのは、この疲れが原因なのかもしれません。 であれば、自分が何をどう伝えるかではなく、まずは相手の話を聞くことだけに徹しましょう。

相手の目を見ながらゆっくりとうなずき、落ち着いて話を聞く。聞いているだけなら、よほど長時間ではない限り、疲れることはありません。

相手にとっても、自分の話を最後まで聞いてくれたという事実だけでうれしいですし、また話をすることで悩みが整理され、「気づいたら解決していた」なんていうこともあるのです。

すごい伝え方のコツ
本心にないことを伝えるのではなく、まずは「聞くだけ」に徹する

相手の思考に寄り添う

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(画像=Antonio Guillem/Shutterstock.com)

いまの自分は、過去の自分がつくり出したそのままの姿です。だとすると、相手の思考もその人の過去の体験からでしか表れません。

私はいままで6万人を超える人たちの相談に乗ってきましたが、そのなかで感じることがあります。それは、相手の過去に基づいた思考で考えると、相手の気持ちが非常に理解できるということです。

たとえば「仕事を辞めたい」と相談された場合、まずは相手の思考の傾向を探るため、相手がいままでどんな経験をしてきたか知るための質問をしてみます。

たとえば、

①「学生時代はどんなことをしていたのですか?」
②「なぜ、いまの会社に入ったのですか?」
③「前職を辞めた理由は?」

という質問をします。

Aさんはこう答えました。

①「学生時代はサッカー部のキャプテンを務めました」
②「自分の夢につながるキャリアだと思って、この会社に入りました」
③「この会社で吸収できるものはすべて吸収できたと思ったから辞めました」

一方、Bさんにも同じ質問をすると、Bさんはこう答えました。

①「学生時代は熱中したものはありません」
②「なんとなくこの会社に入りました」
③「つまらないから前の会社を辞めました」

この会話から、私は彼らの思考をこのように推測することができます。

Aさんは意欲があり、自分を成長させたいという思いをもっている人。

向上心もあり、自分に自信もあるので少々強めに話をしても落ち込むタイプではないでしょう。であれば、Aさんにとって会社を辞めることは、自分を向上させるための前向きな決断になるはず。

このように、Aさんの回答から思考の傾向を推測し、Aさんがさらに飛躍できるようなアドバイスを伝えます。

一方、Bさんの場合は、あきらかに意欲のなさを感じます。

このタイプに「やる気を出せ」とか「もっとがんばろう」と言っても無駄です。

そこでBさんには、仕事に関する話からいったん離れ、「趣味はありますか?」「休みの日は何をしているの?」という質問をします。

すると、趣味に対しては熱い思いを抱いているタイプであることがわかりました。

であれば「趣味を活かした仕事を探してみては?」など、趣味を通してBさんの人生にプラスになるようなアドバイスをします。

私は、このように相手の思考の傾向を予測し、その思考に合わせた回答をするよう心がけています。

相手の思考を知ることは、相手に寄り添うことを意味します。

どんな相手であれ、その人の思考に寄り添うことができたら、おのずと相手がほしい言葉がつかめます。

また、多くの人と接すると、「このタイプにはこう接したほうが喜ばれる」とか「このタイプはこう伝えたらスムーズに進むだろう」という、自分の経験に基づいたカンをつかむことができるようになります。

接客業をしている方はなんとなくピンとくるはずですが、それもある意味、相手に寄り添うためのひとつの技術だと思います。

すごい伝え方のコツ
相手の思考に合った伝え方を心がける

会話が苦手な人のためのすごい伝え方
井上裕之(いのうえ・ひろゆき)
歯学博士、経営学博士、医療法人社団いのうえ歯科 医院理事長、東京医科歯科大学非常勤講師を含め国 内外5大学非常勤(客員)講師、世界初のジョセフ・マーフィー・トラスト公認グランドマスター。1963年北海道生まれ。東京歯科大学大学院修了後、「医師として世界レベルの医 療を提供したい」という思いのもと、ニューヨーク大学をはじめペンシルベニア大学、イエテボリ大学などで研鑽を積み、故郷の帯広で開業。その技術は国内外から高く評価されている。報道番組「未来世紀ジパング」にて、最新医療・スピード治療に全国から患者殺到ということで取 り上げられる。また本業の傍ら、世界中の自己啓発や、経営プログラム、能力開発を徹底的に学び、ジョセフ・マーフィー博士の「潜在意識」と、経営学の権威ピーター・ドラッカー博士の「ミッション」を統合させた成功哲学を提唱。「価値ある生き方」を伝える講演家として全国を 飛び回っている。著書は累計発行部数130万部を突破。実話から生まれたデビュー作『自分で奇跡を起こす方法』(フォレスト出版)は、テレビ番組「奇跡体験! アンビリバボー」で紹介され、大きな反響を呼ぶ。『なぜかすべてうまくいく1%の人だけが実行している45の習慣』(PHP研究所)、『「学び」を「お金」に変える技術』(かんき出版)、『がんばり屋さんのための、心の整理術』(サンクチュアリ出版)、『なぜ、あの人の仕事はいつも早く終わるのか?』『「変われない自分」を一瞬で変える本』(きずな出版)など、ベストセラー多数。

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