【連載 経営トップに聞く】第24回 クレストホールディングス〔株〕代表取締役社長 永井俊輔

クレストホールディングス,永井俊輔
(画像=THE21オンライン)

旧態依然としているレガシー産業に変革を起こすため、ベンチャー企業を立ち上げて参入した――というのは、しばしば聞かれる起業ストーリーだが、レガシー産業の中にもともといる企業から変革を起こそうというのが、クレストホールディングス〔株〕だ。家業の看板工事会社を国内トップクラスに成長させ、さらに他のレガシー産業へと事業を拡大する同社社長・永井俊輔氏に話を聞いた。

「生産性を上げてから、技術に投資する」というセオリー

――御社はもともと看板工事会社だったということですね。

永井 私が父から受け継いだのが、〔株〕クレストという看板工事会社、つまりサイン&ディスプレイ事業の会社でした。

今年8月にホールディングス経営体制に移行し、現在は、クレストホールディングスの傘下にあるグループ会社3社(取材を行なった9月上旬時点)のうちの1社が、〔株〕クレストという、サイン&ディスプレイ事業の会社になっています。

他の2社は、〔株〕インナチュラルという、植物や洋服、雑貨などを店舗で販売している会社と、〔株〕東集という木材卸売会社です。

――インナチュラルと東集はM&A?

永井 インナチュラルは営業譲渡、東集は株式譲渡です。

――事業規模の比率は?

永井 クレストが5割、東集が3割、インナチュラルが2割ほどです。

――クレストの事業とあまり関係がない会社をグループ化しているようですが……

永井 クレストホールディングスは、生産性も市場の成長性も低い既存産業、いわゆるレガシー産業に自ら参入して、生産性も市場の成長性も高い花形産業に変える会社なんです。将来的にはあらゆるレガシー産業に参入するつもりなので、参入する順番を重視しているというよりは、ご縁とタイミングを大切にしています。

――レガシー産業を花形産業に変えることなんて、できるのですか?

永井 例えば、クレストが手がけているサイン&ディスプレイ事業もレガシー産業です。それを花形産業に変えるために、まず生産性を上げて、業界の中でトップクラスにまでシェアと認知度を高めました。それから、イノベーションを起こして市場の成長性を高めるために、既存事業で得た利益をイノベーションに投資して、「esasy(エサシー)」を開発しました。

esasyは、カメラを使って、看板やウィンドウディスプレイなどの前を何人が通り、そのうち何人が目を留めて、その人たちの性別や年齢層は何で……、といったことを測定する技術です。

今の一般的な看板は、今後、有機ELの普及が進んだり、空間に映像が投影できる新技術が登場したりしたら、なくなるかもしれません。しかし、人間が外を歩く限り、リアル世界に広告を出すことはなくなりません。ですから、esasyのように、リアル世界の広告の価値を測る技術は必要であり続けます。esasyによってサイン&ディスプレイ業界は、看板を取り付けるという業界から、リアル世界の広告物を計測するというように市場が変わり、よって、自らの市場の成長性が高まるわけです。

――まず生産性を上げたということですが、いったい、どうやって上げたのでしょう?

永井 業務をデジタル化したり、マーケティングを強化したり、強いビジョンでリーダーシップを発揮したりなどですね。MBAで学ぶような経営の教科書的なことをきちんと実行し、そこに最先端の経営テクノロジーを入れて改善すれば、どんな産業でもある程度は利益を出せるようになります。

――次の段階として、その利益を技術に投資したのですね。

永井 esasyのような、リアル世界の看板の効果測定の技術を開発しようと考えるベンチャー企業はあるでしょう。でも、ベンチャー企業の場合、投資に必要な資金は、借入れ(デットファイナンス)をするか、株式を発行して調達する(エクイティファイナンス)しかありません。普通、株式は会社の議決権であり、自分の会社の血液であります。それを社外に渡さなくてはならない。良き投資家を見つけ、雨の日も病める日も、一心同体で未来に進めればよいですが、すべての投資家がそうだとは限りませんから、うまくいかなかった場合は、資金調達が会社の重荷になったり、ピボットをせざるをえなかったりします。

また、そもそも創業してから10年後に生き残る会社は、わずか0.3%しかないと言われています。私の提唱するレガシーマーケットイノベーションのモデルであれば、ベンチャー企業を立ち上げるよりも、成功する確率が高いと考えています。

――業界の変革を、外からではなく、内からやろうということですね。

永井 そうです。外からやるベンチャー企業のほうが持てはやされますが、内からのほうが、成功確率が高い。既存の企業の利益が上がるようにすることはできますし、それを投資に回せば、やみくもに資金調達をすることなく、イノベーションを生み出すことができます。

――御社は、外部からの資金調達は?

永井 私たちのビジネスモデルでは既存事業の利益と既存のアセットがありますから、デットファイナンスを中心とした調達のほうが相性がいいので、それを行なっています。今後しないとは言い切れませんが、これまで、当グループにおいては、エクイティファイナンスはしたことがありません。

今後は我々も、さらにスピードを上げて、既存事業の成長、イノベーションの創出、そして新規事業への参入ということに注力していくステージに入ったと考えているため、シナジーを検討しながら、当社のビジネスモデルをご理解いただける方々からのエクイティファイナンスは、選択肢としてないわけではありません。