レガシー産業を誇れる仕事にしたい

クレストホールディングス,永井俊輔
(画像=THE21オンライン)

――レガシー産業を花形産業にするということは、家業を継いだときから考えていたのでしょうか?

永井 父の会社に入社してから2年間ほどは、そういう意識はありませんでした。多くの2代目経営者と同じで、「親がやっていたから、この選択は宿命である」という感じでした。

――意識が変わったきっかけは?

永井 「看板屋です」と言うと、なんだかカッコよくない気がして(笑)。IT企業や大手企業の友人と比べると、どうもこのレガシーな産業が恥ずかしいと思ってしまう。肥料屋を継いだ友人やリサイクル屋を継いだ先輩も、同じ悩みを持っていました。お金はちょっと持っていたとしても、なんだかカッコよくない。

それで、看板屋を世界一カッコいい仕事にしたいと思って、入社3年目に、「業界の価値を向上させよう」という企業理念を作りました。この業界で働いているすべての人たちがハッピーになって、誇りを持って仕事ができるようにしよう、ということです。

――「看板屋は格好良い仕事なんだ」と。

永井 そうです。だって、大手百貨店や、銀座や表参道で誰もが見るあのウィンドウディスプレイも作っているんですよ。

それから、業界の価値を向上させるために、まずはクレストが看板とウィンドウディスプレイを作る日本で一番大きな会社になろうと頑張って、仲間と本気で力を合わせて努力を続けてきました。その結果、すごい勢いで顧客が増えました。

――なぜ増えたのですか?

永井 繰り返しになりますが、経営の教科書的なことを本気でやったということと、強いビジョンです。

ビジョンの重要性は非常に実感しています。RPGと同じで、目的がないと人は動けないんです。「お金を儲けよう」という目的だけで動く人もいますが、それだけでは未来永劫続くような力が湧き出てきません。そして、お金のだけために働くとなると、チームワーク、品格、愛情、未来を信じることなどに対しての気持ちが湧かないのです。

日本のサイン&ディスプレイ業界でトップクラスになると、他のレガシーな産業も自分の手で変えていきたいと思うようになりました。他のレガシー産業とは、生産性と市場の成長性が低い産業です。

――まずは生産性を上げてから、次に、その利益で技術に投資するというセオリーは、クレストでの経験を通じてできた?

永井 そうです。初めからあったわけではありません。

――サイン&ディスプレイ事業で投資した技術が、先にも触れたesasyですが、改めて、どういうものか教えてください。

永井 看板やウィンドウディスプレイなど、リアル世界にある広告が購買にどう結びついているかを計測するものです。リアル世界のGoogle Analyticsだと思っていただければ結構です。

――もともと御社が持っていなかった技術が使われているわけですよね。どうやって開発したのですか?

永井 この市場を変えていきたいという、たくさんのベンチャー企業と手を組みました。自分たちもすごく勉強して、僕も画像解析やAIについて詳しくなりました。

――自分たちで外から業界を変えていこうと思っているベンチャー企業と一緒になり、まとめていくのは、難しくないですか?

永井 当社はサイン&ディスプレイ業界でトップクラスの数千社の顧客を持っていますから、ベンチャー企業にとっては、彼らの技術を当社が顧客に販売してくれるメリットが大きいのです。特定の業界でプレゼンスが大きくなると、こうした話もしやすくなります。

――esasyは、従来からの顧客から導入が進んだのでしょうか?

永井 その前に、まずは自分たちが持っているインナチュラルの店舗に導入して、本当に売上げを上げることにつながるのか、実験をしました。

esasyのテストをするためにインナチュラルを経営しているのではありません。既存のアセットの中で考えた結果です。世の中の経営者には「ないからできない」と言う人が多いですが、ある中でできることを考えるべきなのです。

何年もかけて、esasyで集めたデータを分析してフィードバックし、店舗の売上げを上げられるようになるまで、改良を重ねました。

――フィードバックというのは、具体的には?

永井 例えば、チェーン店が店舗に出す広告のデザインは、会議室で決められるのが一般的でしょう。ところがesasyを使えば、広告の前を何人が通って、そのうち何人が目を留め、さらにそのうちの何人が入店した、ということがわかりますから、一部の店舗にA案のデザインを、別の一部の店舗にB案のデザインを掲示してみて、より広告効果が高かったほうを全店舗に展開する、ということができます。

――まさにWEBの広告と同じ発想ですね。

永井 そうです。

カメラの画像から性別や年齢もAIが判断しますから、「40代向けの洋服を売っているのに、ウィンドウディスプレイに目を留めているのは20代が多い」というようなこともわかります。その場合は、40代が目に留めるウィンドウディスプレイに変えるか、商品のほうを20代向けに変えるかの、どちらかでしょう。

――どんな施策を取ればいいのかがわかるようになるわけですね。

永井 esasyのカメラを商品棚の前に設置すれば、商品棚を見ている時間と売上げが連動するかどうかもわかります。連動していれば、もっと商品棚を見てくれるような陳列をすることで、売上げが上がるはずです。

――そうした分析は、御社がする?

永井 必要があればコンサルティングもします。店舗のスタッフがデータを見て判断できるようになれば、顧客にお任せしています。

――導入していている店舗には、どういうところが多いのでしょうか?

永井 小売り、もっと言うなら、リアル店舗を持っているならばどこでも、ですね。

――実際に、導入した店舗の売上げは上がっている?

永井 上がるところも出てきました。