(本記事は、麻野 進氏の著書『イマドキ部下のトリセツ』=ぱる出版、2019年12月13日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
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管理者は口のきき方に注意!パワハラは誰もが当事者になる危険がある
部下を叱るという行為が難しくなってきました。
2019年5月29日、事業主にパワハラ対策を義務づけた改正法(改正労働施策総合推進法)が可決、成立しました。
これまで明確な定義がなかったパワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」などと明記されました。
これを受けて、大企業を中心にパワハラ教育が盛んに行われていますが、部下を持つ管理職には難しい対応が迫られています。厚労省からは、
・優越的な関係を背景とした
・業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
・就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)
という3要素をすべて満たすものとされています。部下指導・指示とパワハラの違いについて厚労省は10月21日に「指針」の素案を示しましたが、今後、職場での判断基準がより具体的に示されることになります。
ただ、セクハラのように「被害者が不快に思ったらアウト」というものではなく、指導なのかハラスメント(嫌がらせ)なのかの判定の難しさは残ります。
最近はパワハラ教育が行き届き過ぎて「パワハラを恐れて部下を指導できない」という管理職の悲鳴をよく聞くようになりました。
何回注意しても改まらないので、ちょっと強めの指導をしたら「それって、パワハラじゃないですか?」と反撃されるとどうしていいのかわからなくなるというのです。
「しっかりしてください。パワハラはセクハラのように本人が不快に思ったかどうかは関係ありません。本人がやりたくないと思っても、業務命令でやらせるのが管理職の役割です。もちろん説得、納得してもらうように努力することが大切ですが」という話をする機会が増えています。
前記の浅野課長の例だと「……いい加減な性格だからこんなことになるんですよ」と人格を否定するような言動はちょっとヤバいですが。
しくじらない効果的な部下の叱り方
叱り方には次のような7つの原則があります。
1.事実を指摘する
2.感情的にならない(感情的になったらそれは叱るではなく、怒る)
3.できるだけ事柄が発生した時点で
4.他のメンバーがいないところで
5.人格や性格を持ち出さない
6.うまくいかなかった原因を考えさせる
7.意見を言わせる。質問を投げて考えさえて答えさせる
上司が部下を叱る場合、上下関係を利用して、ただ相手をおとしめるのが目的ではありません。
相手に自分のミスをちゃんと認識させ、同じミスをくり返させないようにすることが目的なのです。
それによって彼は次のステップに向かっていくでしょう。
そういう意味では、浅野課長の叱り方はあまりいい叱り方ではなさそうです。ただ、ある程度叱ると、すぐスイッチして前向きの策を打ち出して、怒った相手にも救済の手を差しのべたのはよかったように思います。
あざといと思われないための上手な褒め方
逆に部下を褒める場合も次のような7つの原則があります。
1.可能であれば他の同僚がいるところで褒める
2.照れずにタイミング良く、さりげなく褒める
3.具体的に褒める
4.ポジティブな言葉で、明るく、笑顔で褒める
5.結果だけでなく、努力の姿勢や評価すべき行動も併せて褒める
6.うまくいった要因を再認識させる
7.できれば、他人をネタにして褒める
褒められれば誰しも気分はよくなるのですが、直接的に「よくやった」と褒めるのも効果的ですが、間接的に褒めるほうが効き目があります。
「お客様が君の丁寧なフォローに感謝してたよ」とか、「部長が君のプレゼンがなかなか良かったと褒めてたよ」などです。
極論すれば、部下のマネジメントは褒めるか叱るかしかないわけで(最近ではコーチングという概念が導入されてきました=第5章参照)、もちろん、その濃淡はありますが、それを上手に使い分けることができれば、イマドキの若い、ゆとり・さとり世代にもうまく対応できるでしょう。
若い人たちは叱られることになれていません。それを頭ごなしに怒鳴りつけるのでは、かえって反発を買うだけです。あっさり辞めちゃうことにもなりかねません。
叱る場合にもあくまでソフトに、論理立てて、なぜこれが悪かったのか、なぜ次のステップに進めなかったのかなど、理詰めで追い求めていく。そうすると、叱られている本人が、ああ、これがダメだったんだな、と気付くわけです。そして、次からはこう改善すればいいのか、と思えるようになればいいのです。
褒める場合にも直接べた褒めするのではなく、コツが必要でしょう。
いまどきのゆとり・さとり世代は、過剰に自分のことに触れられるのを嫌います。面と向かって褒められ、自分が悪目立ちするのを嫌がります。
かといって、無視されるのはもっといやがります。何も言わないけれど、ちゃんと見てくれていることがいうのが、彼らの求める上司と部下の関係のようです。
ですから、間接的に褒めるとか、いま気付いたんだけど、とさりげなく褒めるとか、指示を与えている中で、君ならできるはずだ、と暗にわからせるなど、いろいろと工夫が必要です。
褒め上手とか、叱り上手というのは、部下をマネジメントするのに強力な武器になるのです。
浅い褒め方は「見透かされる」だけで逆効果
イマドキのゆとり・さとり世代には付け焼き刃は通用しません、見透かされてしまいます。
たとえば、イマドキの管理職研修では「若手は厳しく叱るより、褒めて伸ばしましょう」というのが定番に提示されます。
ある課長が、
「よし、わかった。研修後に早速部下を褒めよう」と思って、「山本君。最近、がんばっているよね」
という簡単な褒め言葉だけで済ませていませんか。褒められた部下のほうはあまりうれしくありませんよね。
彼はすぐLINEで部署は違うけれど同期の社員に送りました。
「課長は先週、管理職研修に出てたみたいなんだけど。研修で部下を褒めろとか言われたんだよ、きっと。なんか急に気持ち悪いよね。お前のところにも来ると思うよ。気をつけろ!」
何も気をつけることではないのですが、共有され、苦笑されるのがオチです。
慣れないことはするべきじゃない、という結論になりそうですが。そうではなく、褒めるスキル、叱るスキルを磨くというふうに前向きに考えるべきでしょう。
褒める・叱るがヘタな課長であっても、彼には最大の武器があります。
それは毎日、対象の部下を見続けているということです。
ゆとり・さとり世代が過剰な介入を嫌うといっても、毎日の仕草や仕事ぶりを見ていれば、彼がどんな性格で、どんな考え方を持ち、刺激に対してどんな反応をするか、というのはおおよそ掴めるものです。
そのうちに、「彼はほめて伸びるタイプだ」とか、「あいつはほめてばっかりだと調子に乗る」とか、「彼はきつく叱ったほうが、なにくそ、と反発して伸びる」とか、「彼は遅刻が多いけれど、やることはやってるから、黙っておこう」ということがわかるようになります。
言ったことが瞬時に拡散!SNS世代の部下の横のつながりには要注意
ロスジェネ世代から上の世代は、同期はお互い切磋琢磨する良い意味でのライバルでした。2013年の新語・流行語大賞年間大賞に輝いた「倍返し」の決め台詞が話題となったTBSのドラマ『半沢直樹』は、最終回の平均視聴率が42・2%だったそうです。窮地に陥った主人公を同期が助ける同志でした。と同時に出世を競い合うライバルでもありました。ドラマではありますが、新卒一括採用・終身雇用・年功序列という日本的雇用慣行が否定的に語られることが多くなりましたが、長期にモチベーションを維持できる良い面がありました。
「ありました」と過去形にしているのは、イマドキのゆとり・さとり世代は少し違うのです。仲が良いのはいいのですが、ライバル心があまり感じられません。ゆとりがあり、悟っているのでしょうか。同期で先に昇格したからといって慌てないし、追い越してやろうという気概も一部を除いて感じられません。
しかし管理職は、「そういう世代なのだ」と高を括っていてはいけません。企業は過酷な競争社会で勝ち残り、生き残りをかけて戦っています。その戦いの最前線にいて、5年後、10年後は会社を背負う中核人財になってほしいという会社の願いとは裏腹に、「僕たち仲良しこよしだよね~」といってLINEと繋がっている状態に、最前線の指揮官たる課長は危機感を覚える必要があると思うのです。
新人のときは研修も一緒でしたが、最初の配属が決まり、ばらばらになると、1年くらいで疎遠になります。部署が違い、出世のペースも違ってくると、研修などの機会がない限り、情報交換の場はほとんどなくなってしまいます。所属部門の組織人になっていくということでもあります。
ところが、いまのゆとり・さとり世代はSNSという便利なツールがあります。同期といつでもSNSでいつまでも新卒気分で情報共有しているのです。
たとえば、入社1年経って、初めての人事評価の結果をフィードバックするようなとき、同期の中で、一番乗りで上司のフィードバックを受けた山本君は、即座に、「うちの課長から1年間よく頑張ったって言ってもらえたけど、営業力がない、って駄目出しされたあぁぁぁー」などとSNSで、同期で共有されることになります。
「おまえのところの課長ってそんなこと言うんだ」「がっかり」などと思わぬ方向に拡散する可能性があるので、上司は不用意なフィードバックをする訳にいきません。まして、「君、かわいいよね。学生の頃はモテたんじゃない?」などと言おうものなら、「セクハラ発言だ」「〇〇課長はすけべ大王!」と、あっという間に拡散、社内炎上してしまいかねません。これがセクハラかどうかは別の問題ですが、下手をすれば、社外にも流れてしまう可能性もあります。
ちなみにセクハラはどんな罪のない軽口であっても、言われた相手が、これはセクハラです、と感じたらセクハラが成立してしまいます(セクハラと認定されるかどうかは別ですが)。
パワハラの場合は業務がらみのことが多いので、判断の余地があるのですが、セクハラの場合は問答無用です。
これを避けるためには、双方の間に信頼関係が醸成されていることが重要です。軽口をたたき合える程度の仲だということですが、それでも無機質なSNSなどに乗ってしまうと、勝手に暴走してしまいかねません。
いずれにせよ、上司は自分の発言に細心の注意を払い、責任を持たなければならない時代になりました。
麻野 進
組織・人事戦略コンサルタント。1963年大阪府生まれ。株式会社パルトネール代表取締役。あさの社会保険労務士事務所代表。大企業から中小・零細企業など企業規模、業種を問わず、組織・人材マネジメントに関するコンサルティングに従事。人事制度構築の実績は100社を超え、年間1,000人を超える管理職に対し、組織マネジメント、セルフマネジメントの方法論を指導。入社6年でスピード出世を果たし、取締役に就任するも、ほどなく退職に追い込まれた経験などから「出世」「リストラ」「管理職」「中高年」「労働時間マネジメント」「働き方改革」を主なテーマとした執筆・講演活動を行っている。
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