光や風を取り込むだけでなく、外を眺める楽しみももたらしてくれる「窓」は、われわれの生活に古くから深くかかわってきました。この窓に焦点を当て、絵画や写真だけでなく建築やインスタレーションなどジャンルを超えた作品が集結した「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」が2019年11月1日~2020年2月2日まで東京国立近代美術館で開催中です。
ここでは、総勢58人・115点にわたる国内外の厳選された窓にまつわる芸術と建築作品が、全14章にわたり見どころたっぷりに展開されます。
窓学から建築における窓と芸術としての窓の歴史を読み解く
展覧会の実現に際し、学術協力をした窓研究所の「窓学」は切っても切れない関係です。窓学とは建材メーカーYKK APが「窓は文明であり、文化である」という思想のもと実施してきた研究活動です。2013年には窓研究所を設立、建築だけでなく文化や美術で表現される窓を多面的に研究しています。窓の起源は、光を取り入れて換気する壁の穴だったといわれています。
古代都市ポンペイの遺跡の一つであるフォルム大浴場からは、世界で最も古い窓用のガラスが発見されました。日本では伊達政宗の孫、伊達綱宗が初めて窓ガラスを使ったといわれています。このように、窓は古代から建築物にとって欠かせない存在でした。窓学の総合監修も務める東北大学の五十嵐太郎氏の研究室が制作した、全長12メートルにわたる長い年表が会場で展示されています。
この年表では、時代ごとに変化を遂げてきた芸術としての窓と、技術の進歩とともに変化した建築における窓の歴史が記されているため、双方の関係性を時間軸でたどることができるでしょう。この展覧会の見どころの一つです。
芸術作品においてモチーフとしてだけでない窓の登場の役割とは
これまで多くの窓が芸術作品のモチーフとされてきました。20世紀の巨匠による窓が登場する絵画作品も展覧会での見どころです。欧州では「絵画は窓と親戚関係にある」と約600年前からいわれています。「四角く切り取られた枠の中で新たな世界を見せる」という点で共通していることから、窓に発想を受けた絵画が数多く生まれているのです。
絵画作品においては、窓をモチーフの一つとして使用することはもちろん、窓の向こうの景色を背景に描き込むことで、キャンバス上に奥行きを表現することもありました。またキャンバス上に向けられる視線を室内から外に誘導したり、逆に外から内に誘ったりといった役割が窓にはあります。室内にいる女性を窓からのぞき込む男性という構図はよく登場し、「窓辺にたたずんで外を眺める女性像」といった定番の主題となって現在まで続いているのです。
これも窓をめぐる文化史の一つといえるでしょう。会場で展示されているアンリ・マティスの『待つ』は、ニースのアパートで制作されました。窓辺に立つ女性という一見古典的な構図ですが、窓越しに見える建物やヤシの木と海が、遠近感 なくフラットに描かれています。外の風景も、レースのカーテンや壁紙の柄と同じ模様の一つに過ぎないとでもいうように、遠近法の概念などをまったく無視して表現されていることがこの作品の面白みです。これはマティスの新しい試みだったのでしょう。
他にもピエール・ボナールやパウル・クレーの絵画やマルセル・テュシャン、ゲルハルト・リヒター、ヴォルフガング・ティルマンスの現代美術の名作が登場します。作家によって異なる窓から展開する世界観と、時代による窓の捉え方の変化に注目して堪能してみましょう。
建築家の窓の捉え方にも注目
会期中の美術館の前庭には『窓に住む家/窓のない家』(2019年)を設置しています。本作は建築家・藤本壮介が2008年に大分県に設計した名作〈House N〉のコンセプトモデルです。窓ともいえる大きな孔が開いた2つの箱が入れ子の状態に重なっています。中に入ると窓を通して光と影の変化とともに空や周囲の建物、道路の感じ方の移り変わりを味わうことができます。
所蔵品ギャラリーのある2階や4階から見るのもおすすめです。会場内では、先ほど登場した年表の反対側の壁に、金沢工業大学のアーカイブから借りたという17〜18世紀の建築書5冊が展示されています。ゴシックやルネッサンス、バロックなど時代ごとの窓が精緻に描かれている様子を見ることができるでしょう。
その横では、ル・コルビュジエをはじめルイス・カーン、ジェームズ・スターリング、ピーター・アイゼンマンなど近代以降の建築家のスケッチやドローイングを展示。直筆のタッチからは各人の性格とともに、設計においてどのように窓を捉えていたかも知ることができます。人の住居において欠かすことのできない窓......この身近すぎて普段は意識を向けない窓も、捉え方によっては美となるのです。
さらに、時に窓は、芸術的な表現のモチーフにもなり得るということをこの窓展で示しているのでしょう。あなたも窓を今までと違った視点で見てみると新しい発見があるかもしれません。(提供:JPRIME)
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