九州の近代化産業遺産といえば、かつて石炭採掘でにぎわった長崎県の軍艦島が有名ですが、まだまだ魅力的な場所がたくさんあります。大分県の旧豊後森機関庫や福岡県の三池炭鉱、ダム湖に水没したものの渇水期のみに現れる鹿児島県の曽木発電所遺構など、思わず訪れてみたくなる場所を紹介します。

旧豊後森機関区の関連遺産 九州唯一の扇形庫と枯れた味わいの転車台

九州,産業遺産
(画像=PIXTA)

大分県玖珠町には「旧豊後森機関区の関連遺産」として指定された扇形機関庫と転車台があります。玖珠町の公式サイトによれば、扇形機関庫は久留米と大分を結ぶ主要鉄道路線の開業時から車庫として使われました。豊後森駅は久大本線が全線開通した1934(昭和9)年以降、中継拠点として大いに繁栄したそうです。1948(昭和23)年ごろには25両の蒸気機関車を擁する機関区となるなど、ますますの発展を遂げました。

その後、鉄道のディーゼル化にともない蒸気機関車が活躍する場もだんだんと少なくなり、1970(昭和45)年の久大本線無煙化によって蒸気機関車がその役割を終えると、翌年に豊後森機関区は廃止となりました。旧豊後森機関庫は直径約18メートルの転車台を中心に放射状に広がっています。かつては全国各地にあった扇形機関庫ですが、機関庫の廃止や老朽化などで数が減っており、ここに残されている扇形機関庫は九州では唯一のものだそうです。さび色に染まった枯れた味わいの転車台から機関庫を眺めれば、大分の青空に響いた蒸気の音が聞こえてきそうです。

三池炭鉱関連遺産 産業近代化を支えたエネルギー源

福岡県大牟田市には「三池炭鉱関連遺産」が数多く残されています。指定されているのは炭鉱跡をはじめ、石炭の運搬や出荷に使われた鉄道や港などの建造物です。炭鉱の専用鉄道は、官営時代の1878(明治11)年に馬車鉄道として使われ始めたそうです。その後は蒸気機関車も登場して路線は拡張され、1905(明治38)年には三池港にまで線路が敷設されました。三池港の完成にあわせて倉庫や貯炭場、税関支署が設けられるなど関連施設の整備も進みました。

日本は幕末から明治にかけて産業の急速な近代化を推し進める中、主要なエネルギー源として「石炭」に目を向けました。三池炭鉱の関連施設では積極的に西洋式の採掘技術を取り入れて増産体制を確立。1880年代には日本一の出炭量を誇ったそうです。ご存じのとおり、石炭はその後、主要なエネルギー源としての立場を石油に譲ることになるのですが、三池炭鉱の遺構に足を運ぶことで、炭鉱で採掘された石炭が専用列車で港まで運ばれ、さらに港から日本の近代化を支えるエネルギーとして出荷されて行くという一連の流れを追体験することができるでしょう。

曽木発電所遺構 夏季にだけ現れる幻の発電所跡

鹿児島県伊佐市にある「曽木発電所遺構」は夏から秋にかけての一時期にしか姿を現さない「幻の遺構」として知る人ぞ知る存在です。鶴田ダムの上流約9キロメートルに位置する曽木発電所遺構はもともと1909(明治42)年に完成した水力発電所でした。日本窒素肥料(現チッソ)などを手掛けた実業家の野口遵が設立した曽木電気の発電所として建設され、電力供給の面で産業の近代化に貢献しました。1966(昭和41)年に鶴田ダムの完成によって湖底に沈むことになりますが、2000年ごろから保存を呼びかける運動が始まり、補修工事などが行われるなどして、今では見学ツアーも行われる観光名所となっています。夏場の一時期だけ緑なす山肌に現れる巨大な遺構は一見の価値ありといえるでしょう。

近代化産業遺産 産業の近代化を伝える建築物や機械類

今回紹介した建造物などは、経済産業省によって認定された近代化産業遺産です。経済産業省は、日本の産業が近代化を遂げる過程を今に伝える建築物や機械、文書などについて、歴史的な価値を明確にし、地域活性化の新たな「種」として活用することを目指して、近代化産業遺産を認定しました。地域史や産業史の観点から、それぞれ33の物語としてまとめた「近代化産業遺産群33」と「近代化産業遺産群 続33」が公表されています。

美しい自然に溶け込む産業遺産を眺めながら、先人たちが歩いてきた近代化の道のりを感じるのも一興といえるでしょう。(提供:JPRIME


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