(本記事は、矢田 祐二氏の著書『年商10億円ビジネスを実現する、最速成長サイクルのつくり方』セルバ出版の中から一部を抜粋・編集しています)

方針発表会に外部の方をお招きしないほうがよい理由

仕組みとは「その瞬間に最適化されたもの」、組織とは「その仕組みをある方向に変化させるもの」、そして、事業設計書が「組織の成長サイクルを支える仕組み」になります。

M社長は、事業設計書を使って全社員に説明することを考えていました。「そのための会を、開いたほうがいいでしょうか」。私は「ぜひ」とお答えして、すぐに2つの条件を付け加えさせていただきました。

1つが、「外部の方をお招きしないこと」。そして、もう1つは、「管理者と主要な社員向けに、別の会を設けること」をお願いしました。

このような発表会に、外部の方をお招きするメリットは、もちろんあります。会に緊張感を持たせることができます。また、銀行や専門家の方に、今後の協力を依頼する場とすることができます。

しかし、デメリットも少なからずあります。それは、本来の会社の雰囲気ではなくなることです。発表者は固くなり、言葉数も熱量も減ることになります。そして、社員は、疑問があっても質問をしなくなります。

また、「外部に漏れてはいけない」、「銀行に本当のことは知られたくない」と、実際の状況や数字の説明をしないという本末転倒なことも起こります。

ただでさえ1回目は、大変です。依頼すなわち事業設計書の内容を落とし込むことに注力されることをおすすめしています。

もう1つの、「管理者と主要な社員向けの会」が、本当の会になります。現場スタッフまでを集めた会は、どうしても「決起大会的」な会になります。趣旨は、「皆さんわかりましたよね」という全員周知の認識づくりと、「今期もがんばろう」という意欲向上になります。

そのため、管理者や主要な社員へしっかりと『依頼(巻き込む)』する場が必要になります。方針を理解してもらい、スピードと精度のある実行に繋げることだけが趣旨の会です。意識の高いメンバー限定だからこそ、率直な質問と忌憚のない意見を出し合うことができます。

ここでは、実行のイメージを持てるまで、とことん行うことが必要です。また、事業設計書には書ききらない社長の狙いや経緯も話すことができます。

この場を設けることで、参加したメンバーに、一体感を持たせることができます。実行段階では、このメンバーが自主的に協力し合い、力強く進めてくれることになります。将来の幹部もこの中から育つことになります。

社長にとっては、後者の会のほうが断然重要になります。実際にほとんどの大手企業では、幹部だけにしか開催していません。全社的に開催しているところは、一部の新興企業ぐらいです。

全社員向けに行う会も、士気向上と帰属意識を高めることに有効なことには変わりがありません。特に、知的労働型業務に従事するスタッフに有効です。また、その会の写真は、広報や採用のためのイメージアップの素材としても使えます。

多くの中小企業が全社員向けの会は開き、「依頼」のための主要メンバーの会を行わないという、勿体ないことをやっています。来期に向けた発表会についても、会社としての明確な方針を持った上で、開催をしていくことが必要となります。

社員の成長の芽を潰す、M社長の「即答する」という習慣

期首から半年を過ぎた頃、M社長から社内の状況について、ご報告をいただきました。「以前とは違い、深いレベルで社員とコミュニケーションが取れていることを感じます」。方針や仕組みについて、管理者や社員と活発な意見交換ができるようになりました。

M社長は、いままでの社員との会話は、自分が一方的に話してばかりだったと反省をしました。起きた問題の解決策を決める場合、M社長が独り言のように原因の分析から立案をし、それをその場で決定してきました。その横で社員は、頷きや賛同の相槌を入れているだけでした。

彼らの聞く姿勢は、社長からの指示を理解しようとするレベルのものです。自分で解決の糸口を見つけるという意識はありません。ここでも考える機会を奪っていたのです。

それから、М社長は、社員とのコミュニケーションの取り方を変えるようにしました。社員が何かを訊いてきても、緊急時以外は、すぐには答えないようにします。そのときには、「君の考えを聞かせてほしい」と返します。

習慣とは恐ろしいものです。この社長の返しに、ほとんどの社員が、ぽかんと口を開けたままフリーズをするのです。それでも辛抱づよく、この「質問返し」を続けていると、社員にも「自分の考えを述べなければ」という意識が芽生えだしたのです。

その社員の意見を聴けば、その業務の趣旨や方針をしっかり理解しているかどうかがわかります。また、優秀さを測ることもできます。

同じ意見であれば、「さすが!」と言って、彼らの手柄とすることができます。また、その意見の中には、社長でも思い浮かばないものが沢山出てくるようになりました。現場で働く者、それを専門とする者しか、出せないアイデアが得られるのです。

社長が即答することで、彼らの考える力どころか、彼らの手柄とやる気まで奪っていました。そして、組織の分業の力を貶めていたのです。新商品のアイデアや製造の効率化など、儲けの機会を潰していたと反省したのです。М社長に、「社長という役割には、しゃべらないという強い自制が常に必要です」とお教えいただきました。

年商10億円ビジネスを実現する、最速成長サイクルのつくり方
矢田 祐二
株式会社ワイズサービス・コンサルティング代表取締役。年商10億円事業構築コンサルタント。儲かる10億円ビジネス構築のノウハウを提供する、経営実務コンサルタント。大学卒業後、大手ゼネコンで施工管理に従事。組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。停滞する企業と飛躍する企業の差を解明することで、明確で再現性のある理論体系を獲得する。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます