iDeCo(イデコ)は非課税メリットを受けながら効率的に老後資金を準備できる便利な制度だ。一方でiDeCoの掛金には上限額が定められている。いったい掛金の上限額はいくらで、どのくらいに設定すればいいのだろうか。

確定拠出年金には「個人型」と「企業型」がある

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(画像=William Potter/Shutterstock.com)

確定拠出年金には個人で加入する「個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)」と、勤務先の会社が福利厚生・退職金制度の一環として従業員を加入させる「企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)」がある。

いずれも公的年金の上乗せとして老後に備え資産形成を図るための制度だ。掛金の運用方法を加入者自身が決定し、将来運用成果に応じた年金・一時金を受け取るという点も共通している。掛金は原則、iDeCoでは加入者自身が拠出し、企業型DCでは会社が負担する。

iDeCo(イデコ)の掛金の上限額は職業などにより違いがある

iDeCoの掛金は加入者の職業(国民年金種別)や勤務先で加入する企業年金などの有無によって上限額が決まっている(下表)。

iDeCoの拠出限度額

国民年金種別 拠出限度額(月額)
第1号被保険者
(自営業者など)
6万8,000円
(※1)
第2号被保険者
(会社員・公務員など)
勤務先に企業年金のない会社員 2万3,000円
企業型DCに加入している会社員 2万円
確定給付年金と企業型
DCに加入している会社員
確定給付年金のみに
加入する会社員
公務員など
1万2,000円
第3号被保険者
(専業主婦/夫) 
2万3,000円

※iDeCo公式サイトをもとに筆者作成、2020年1月時点
(※1)国民年金基金・国民年金付加保険料と合算した上限額

自営業者やフリーランスなどのiDeCoの上限額は、厚生年金や企業年金などのある会社員などよりも高めに設定されている。iDeCoの上限額は、公的年金の上乗せ制度である国民年金基金や国民年金の付加保険料と同じ枠内で合算されるため、国民年金基金などへの拠出があれば、iDeCoで拠出できる掛金は減るというわけだ。

会社員は他の企業年金の有無によってiDeCoの拠出限度額に差がある。企業型DCに加入していると、そもそもiDeCoに加入できないケースも多い。iDeCoへの加入を認めない会社では、「マッチング拠出」制度を採用している場合もある。「マッチング拠出」制度では、iDeCoの積立額を増やしたい従業員が希望すれば、任意で企業型DCの掛金を上乗せして拠出できる。

企業型DCの掛金にも上限がある

企業型DCの掛金は次のように上限が決まっている(カッコ内は規約でiDeCoへの加入を認めている場合の上限額)。

・確定給付型の企業年金がない場合……月額5万5,000円(3万5,000円)
・確定給付型の企業年金がある場合……月額2万7,500円(1万5,500円)

iDeCoへの加入を認めている会社では、企業型DCの拠出限度額がiDeCoの拠出限度額に相当する金額だけ減る。iDeCoに加入できる会社では、会社が拠出する掛金の上限が低くなるため、一概にどちらが有利とはいえない。

iDeCo(イデコ)に加入できない場合もある

2017年1月の制度改正により、原則60歳未満で公的年金に加入している人であればiDeCoに加入できるようになった。ただし、次に該当する人はiDeCoに加入できない。

・農業者年金の被保険者
・国民年金保険料の納付を免除されている人(障害基礎年金受給者等は除く)
・勤務先で企業型DCに加入しており、規約でiDeCoへの同時加入が認められていない人

会社員はiDeCo(イデコ)の掛金を上限額近くまで拠出している人が多い

iDeCoの掛金は月5,000円以上、1,000円単位で設定できる。iDeCoを運営する国民年金基金連合会の調査によると、2019年9月時点の掛金額の分布と平均額は次の通りだ。

iDeCo加入者の掛金額分布(毎月定額拠出)

掛金額 第1号被保険者
自営業者など
第2号被保険者
会社員・公務員
第3号被保険者
専業主婦/夫
1,000円~ 3万8,679人 20万6,228人 1万2,555人
1万円~ 3万5,523人 51万9,747人 8,242人
1万5,000円~ 5,043人 2万9,649人 1,195人
2万円~ 2万643人 38万3,675人 2万1,758人
2万5,000円~ 2,075人 - -
3万円~ 1万1,196人 - -
3万5,000円~ 1,338人 - -
4万円~ 2,962人 - -
4万5,000円~ 900人 - -
5万円~ 7,815人 - -
5万5,000円~ 641人 - -
6万円~ 2,069人 - -
6万5,000円~ 3万1,967人 - -
平均額 2万7,224円 1万4,089円 1万5,012円
(全体)1万5,691円

※国民年金基金連合会「iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入等の概況(2019年9月時点)を基に筆者作成
※年単位拠出の届出をしている加入者を除く

自営業者など第1号被保険者の上限額は6万8,000円であるが、掛金1万円以下の加入者も多く、平均額は2万7,244円となっている。一方で上限額近くまで拠出している人も多く、二極化がみられる。

第2号被保険者(会社員など)や第3号被保険者(専業主婦/夫)は、上限額は低いものの、上限に近い掛金を拠出している人が多い印象だ。

iDeCo(イデコ)の掛金は上限額よりも積み立てたい老後資金額を考慮して設定するのも手

iDeCoの掛金をいくらに設定するかは人それぞれだ。掛金は所得から控除され、運用益も非課税となるため、掛金を増やせばより大きな非課税メリットが期待できる。

一方でiDeCoに拠出したお金は原則60歳まで引き出せないことには注意したい。急な出費に備え、手元に緊急予備資金(生活費の6ヵ月~1年分)は残しておいたほうが良い。そのうえで教育資金や住宅資金など60歳までに必要な分と、老後に残したいお金のバランスを考慮して掛金を設定することが重要だ。

60歳までに準備したい金額もiDeCoの掛金を決める目安になる

積み立てたお金を受け取れる60歳までに、用意したい金額も掛金を決める目安になる。

現在40歳の人が今から20年間でiDeCoによる積立・運用を行うケースにおける、掛金額と複利運用による運用成果に応じた60歳時点の積立金額は次の通り。

掛金額・運用成果に応じた60歳時点の積立金額(積立期間20年)

掛金額(月額) 積立元本 積立元本+運用益
1%(複利) 3%(複利) 5%(複利)
5,000円 120 万円 133万円 164万円 206万円
1万円 240万円 266万円 328万円 411万円
1万2,000円 288万円 319万円 394万円 493万円
2万円 480万円 531万円 657万円 822万円
2万3,000円 552万円 611万円 755万円 945万円
3万円 720万円 797万円 985万円 1,233万円
5万円 1,200万円 1,328万円 1,642万円 2,055万円
6万8,000円 1,632万円 1,806万円 2,232万円 2,795万円

※楽天証券・積立かんたんシミュレーションを用いて筆者が試算

老後資金など必要となる時期が先になるほど必要額を正確に見積もることは難しいかもしれない。iDeCoの掛金は、まず教育資金などより近い時期に必要となる資金を確保したうえで、家計に無理のない金額で設定すればよい。

iDeCo(イデコ)の上限額は変更できないが掛金額は変更できる

iDeCoの掛金の下限と上限は決まっているが、拠出額は途中で変更することができる。40代なら、子供の教育費の負担が大きい時期は掛金を少なめに設定し、子供が独り立ちしたら上限額まで拠出する、という方法もあるのだ。

iDeCo(イデコ)の掛金額を変更する方法

iDeCoの掛金額は12月から翌年11月(納付月は1月から12月)の間に1回だけ変更ができる。掛金額を変更するには、運営管理機関(iDeCoの口座を開設している銀行・証券会社・保険会社などの金融機関)に「加入者掛金額変更届」を提出する必要がある。

iDeCo(イデコ)の掛金拠出を停止する方法

運営管理機関に「加入者資格喪失届」を提出することにより、掛金額の拠出を停止することもできる。ただし解約して積立金の払い戻しを受けることは基本的にできない。それまで拠出した掛金の運用を、受け取りが可能になる60才以降まで続けることになる。

掛金の拠出を再開したい場合は、iDeCoに新規加入するときと同じ手続きが必要となる。

iDeCo(イデコ)を含めた様々な商品・方法を組み合わせて老後資金の準備を

非課税メリットを受けながら資産形成を図れる制度にはiDeCoのほかにNISAやつみたてNISAがある。これらの制度では運用資産をいつでも売却して現金化できるため、iDeCoに比べ流動性が高い。そのほか個人事業主の人などが利用できる小規模企業共済や、民間の生命保険など、老後資金を準備するための商品・方法は多くある。

東吾資金は流動性・安全性・収益性のバランスも考えながら、iDeCoを含めた様々な商品・方法をうまく組み合わせ、活用して準備していくことが大切だ。

文・竹国弘城(ファイナンシャル・プランナー)/MONEY TIMES

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