(本記事は、斉藤 徹氏の著書『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』翔泳社の中から一部を抜粋・編集しています)

高齢社会
(画像=PIXTA)

高齢社会の課題解決ビジネスの考え方

共通項を探すか?ニッチを狙うか?

加齢により起こるさまざまな老化現象や生活上の困難は、多かれ少なかれ、すべての高齢者に共通してやってきます。ファッションや趣味、スポーツなどの分野は、好みや志向、収入の多寡や生活レベルに応じて商品・サービスが細分化されますが、「高齢課題を解決する商品」に限れば、高齢者の多様性を超えて共通する部分も多いはずです。そこを市場規模として捉え、アプローチすることが重要です。

例えば、高齢者向けの宅配弁当で考えてみましょう。高齢期になると、疲れやすいこともあり、日々の食事作りがおっくうになります。ましてや配偶者が亡くなり、子も独立して単身になると、作りがいもない。同じものを何日も食べ続ける人も多く、栄養バランスが偏りがちになります。そのような高齢者が増加する中、比較的安価で栄養バランスにも気を配った宅配弁当があれば、作るのがおっくう」ニーズにマッチします。実際に、シニア向け宅配弁当市場は、この10年ほどで急激にマーケットが拡大しています。単身高齢者や高齢者夫婦の宅配弁当ニーズは、収入の多寡を問わず誰にも共通して生まれるニーズなのです。

一方で、ニッチを狙う手もあります。例えば、「要介護者向けの旅行」はすべての要介護者にニーズがあるわけではありません。サポートがあればぜひ旅に出たいという要介護者もいれば、もともとインドア派で旅行にもさほど興味がないという要介護者もいるからです。しかし、今後、要介護者の総数が増えれば「旅行をしたい要介護者」の数も増え、ニーズは確実に広がりを見せてきます。こうした「現時点ではニッチ領域」の課題解決を狙うというのも一つの方法でしょう。

高齢社会の課題解決ビジネスを考える際のポイント
共通ポイント
・多くの高齢者に共通するポイント
・加齢にともなう共通変化(第1次加齢)
・白髪、シミ、シワなどの変化
・体力、気力の低下
・ちょっとした物忘れ

多くの人が必要とする商品・サービス需要は高いが競合も多い
異なるポイント
・同じ高齢者でも異なるポイント
・所得や資産の多寡による違い
・健康状態・介護の有無による違い
・世代感覚による好み・志向の違い

限られた人が必要とする商品・サービス需要は低いが競合は少ない

「お仕着せの商品」から「選択される商品」に

高齢社会の課題解決ビジネスを考えるにあたって、今後一層重要になるのは「高齢者自身に選択される商品・サービスになる」ということです。今までの高齢者向け商品には、本人よりもその子どもたちや介護者が選んで提供するような、本人ニーズが考慮されないものも多くありました。これからの高齢者は戦後生まれで、消費の喜びも十分理解し、自己選択の判断を持つ人々です。彼らのニーズをきちんと理解した上での商品開発が求められます。

特に技術的解決手法で課題に取り組もうとする場合、往々にして利用者視点がなおざりにされがちです。「この技術は優れているのだから、利用者に支持されて当然」「優れた商品なのだから価格が多少高くても売れるはず」などと技術を過信していないでしょうか。

もちろん商品の性能に自信を持つことは重要です。しかし、商品やサービスは利用者に使われて初めて課題の解決につながります。商品・サービスの開発には、謙虚な心を持ってあたるべきでしょう。また、実用性を得るためには、リアルな生活現場での実証テストが欠かせません。困難を抱える生活者のリアルな使用実感の声を積み重ねていくことが大切です。

大企業よりもベンチャー企業が有利

本書で取り上げる各種課題解決事例は、どちらかといえば、大企業ではなく中小企業やベンチャー企業の取り組みケースが中心です。それは、総じて筆者が興味を感じ、お話を聞きたいと思うケースの多くが、そうした企業に集中していたからです。やはり、ユニークでオリジナリティの高いビジネス・アイデアは、「中心」ではなく「周辺領域」から生まれるということでしょうか。開発者の事業にかける強い思いがビジネスを磨き、光り輝かせる側面もあるでしょう。

もちろん、大企業の中にも優れた取り組み事例を見つけることはできます。

しかし、一般に大企業の場合は、個人の熱い思いだけで事業をスタートすることは難しく、何段階ものハードルを経る中で、当初は鋭く光っていたアイデアが次第に丸くなってしまうケースも多いでしょう。

また、事業開発には、息の長い取り組みが必要とされます。大企業ゆえに、比較的短期で成果が現れないと打ち切りになるケースも多いのでしょう。むしろ大企業は、こうしたベンチャー企業の光る種を発見し、資金供与や自社の保有するリソースを提供しながら事業拡大のための連携を図ることを積極的に考えていくべきでしょう。また、事業開発に多額の投資や人材を投入できるのは大企業です。AIやロボットなどを活用した課題解決は、主に大企業が担っていく分野になるでしょう。

高齢社会の課題解決ビジネスをどう作るか?

ノート,問題解決
(画像=THE21オンラインより)

ヒントは新聞の「社会面」と「生活面」

社会課題解決ビジネスを考える際の留意点とポイントを、本書で取り上げた事例を参考に、ステップで考えてみたいと思います。

最初に行うべき作業は、「課題の発見」です。課題が発生する場所には、必ず解決すべきテーマが存在し、それが新しいビジネスの芽につながります。課題の発生源は多種多様です。加齢にともなって生じる疾病などに付随する生活上の困難といった課題もあれば、高齢化や過疎化にともない地域コミュニティを維持する上での課題もあります。特殊詐欺被害や、認知症に起因する社会問題なども課題の一つでしょう。

本書で取り上げた項目の他にも、さまざまな課題が存在します。テレビや新聞で報道されるニュースを目にするだけでも、新たな課題テーマの気づきがあります。特にテレビや新聞の社会面や生活面には注目すべきです。社会面はすでに顕在化している事象や記事が中心ですが、生活面は地域コミュニティや福祉に視点を置いた記事が比較的多く、潜在的なニーズが見えてきます。テレビのニュースやドキュメンタリー番組にも、思わぬ発見が潜んでいる可能性があります。記者の鋭敏な社会課題意識は非常に参考になります。

社会課題の発見ポイント
具体例

【社会問題】
・ゴミ屋敷・空き家
・認知症者の行方不明
・高齢者による交通事故

【日常の地域課題・生活課題】
・両親や親類・知人の悩み
・地域特有の課題・問題
情報源

【社会問題】
・テレビ・新聞などの報道

【日常の地域課題・生活課題】
・両親や家族・親戚、コミュニティからの情報

個人体験が原点のビジネスには継続性がある?

また、本書で取り上げた人々に、なぜそのテーマに取り組み始めたのかをうかがうと、個人体験に基づく出来事がきっかけになっているケースが多いです。例えば「ミライスピーカー」を開発した佐藤和則さんは、難聴の父親がスピーカー発想の原点、高齢者向け賃貸住宅仲介事業「R65不動産」に取り組む山本遼さんは、自身が不動産会社のサラリーマン時代に体験した「高齢者お断り」の業界慣行への疑念が起業のきっかけとなっています。杉山公章さんによる「歌声コンサート」は、彼自身がかつて行っていた「うたごえ教室」でのシニアの喜ぶ姿がコンサートを拡大していく起点となりました。

そのように考えると、これから社会課題テーマをベースに起業しようと考える人にとっては、自分自身が体験、体感した身近なテーマこそが強い発想の原点になるということに気づかされます。本人が身近に感じる課題であれば、その解決に向ける思いも強いものになるでしょう。本書で出会った人々の思いは皆一様に熱く、とかく理屈や理論でビジネスを発想しようとする大企業発の新規事業と、そこが大きく異なるポイントです。

もちろん、個人的体験に基づかなくとも課題発見は可能です。しかし、その場合は自社の保有する技術やリソース、過去の経営資源やネットワークとあまりかけ離れていないテーマのほうがよいでしょう。

もう一つ、個人の思いを起点とする事業と大企業発事業の違いは継続の力にあります。課題解決に向けて不退転の決意で事業に取り組む人々と、短期的事業成果が求められる企業に属する人々とでは、おのずと事業の継続性に差が生じます。これは、高齢者向けビジネスに限らず、Apple、Amazon、Facebookなどベンチャー事業の成功ケースについても同様でしょう。

課題解決の方法を構想する

課題を発見したら、次は解決方法の構想です。当初から課題認識と解決方法がセットで発案される場合もあれば、課題認識の後に改めて解決手法の方法論が検討される場合もあります。

課題解決方法の発案は、①新しい技術やテクノロジーで解決、②ビジネスモデルで解決、③社会的ネットワークや人的資源で解決の3つに大別できます(他にも、制度や政策を新しく立案して制度改善を図る方法もありますが、ここでは除外)。

「ミライスピーカー」や「AI自動車運転評価システム」、「介護コミュニケーション・ロボットPALRO」「マッスルスーツ」などは、①の新しい技術やテクノロジー主導型解決方法です。

②のビジネスモデルでの解決の事例としては、「荻窪家族レジデンス」「シェア金沢」、「クッキング・デイサービス」、「学研 大人の教室」などがそれにあたります。これらは既存の介護施設や福祉施設にアイデアを付け加え、新しいビジネスモデルに変換したケースといえます。

③の社会的ネットワークや人的資源で解決にあたるケースとしては、「株式会社御用聞き」や「歌声コンサート」、「プチモンドさくら」などがそれにあたるでしょう。

このように、現在世の中に広く流布されている方法や手法だけではなく、新たな解決方法を模索・発見していくことが社会課題解決の道につながります。

超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方
(画像=超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方)

当然のことながら、事業をスタートさせた後で軌道修正を余儀なくされる可能性も十分あります。例えば、「株式会社御用聞き」の古市さんが起業した当初の構想は、「インターネットを活用し、困難を抱える高齢者と子育てママをつなぎ、解決するビジネスモデル」でした。しかし、起業してみると全くくいかない。ネットだけで課題解決しようという発想そのものが、地域コミュニティのビジネスモデルとして相性が悪かったのです。頭でっかちのアイデアであったことに気づいた彼は、より人的関係を重視した現在のビジネスモデルに軌道修正を行いました。課題解決手法は、「これしかない!」ではなく、より柔軟なスタンスで向かうことが大切です。

ビジネスモデルを検討する

課題解決方法が、経済メカニズムに乗らなければ、それはボランティアや社会貢献の範疇であり、「ビジネス」ではありません。したがって、提供する商品やサービスを、いかに顧客から支持され、利益を生み出す商品として市場メカニズムに乗せるかが問われるわけです。

最初に検証すべきは、「それは受益者が対価として払える価格になっているか?」「その商品サービスの受益者は誰か?」というポイントです。

実際の高齢者は、おそらく若い世代の人が一般的に想像するほど裕福ではありません。その商品・サービスが平均的な高齢者の自費購入を想定しているなら、月々の年金額から支払い可能な価格になっている、もしくは一時的に蓄えを切り崩してでも購入したいと感じられる商品であることが求められるでしょう。B to Cモデルで課題解決商品を提供したいと考える場合、価格の問題は非常に重要です。

一時的な購入負担には対応できても、月々のランニングコストがかさむ商品なども、高齢者に支持されません。高年齢層にスマートフォンがいまひとつ浸透しないのは、機器操作に関するリテラシーよりも月々の負担額が要因であることが大きいのです(基本的に、高齢者本人負担の商品・サービスの場合、価格は安価であることが重要)。

また、高齢者を対象とする商品・サービスの場合、受益者と価格負担者が異なるケースもあります。息子や娘が高齢の親のための商品を購入するというケースです。例えば「親の雑誌」は、親の古希などの長寿祝い、敬老の日のプレゼントなどに焦点を絞った両親ギフト対応商品です。「ミライスピーカー」も価格が比較的高額なので、一般家庭で購入されるのは難聴の親に息子や娘がプレゼントするというケースが多いといいます。

直接自社で商品・サービスを提供すB to Cモデルでは、自社に強力な組織網がなければ、おのずと販売エリアや販売力に限界が生じます。その場合、他社とうまく提携を組むB to B to Cモデルが有効となるでしょう。

ジャンルによっては、行政や自治体を通じて商品・サービスを提供するB to G to Cというモデルも有効に思えます。ただし、自治体の場合は、公示・相見積もり・選定というプロセスがほぼ入るため、確実性に欠けるところが難点です。

また、本来は個人向けを狙っている商品・サービスだけれども価格面で課題があるというケースでは、まず業務用需要を狙うという選択肢もあるでしょう。

インターネットを通じた直接販売という選択肢も、もちろんあります。ただし、現在の後期高齢者層をターゲットとした場合、ネット販売のみではなかなか難しいでしょう(もう少し時間がたてば、「ネット購入に馴染みのある後期高齢者」も増えてくるはずです)。現時点では、ネット以外のメディアの活用、アプローチ方法も視野に入れるべきでしょう。

超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方
(画像=超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方)
超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方
斉藤 徹
西武百貨店、流通産業研究所、パルコを経て、株式会社電通入社。現在、電通ソリューション開発センター電通シニアプロジェクト代表。長年、シニア・マーケットのビジネス開発に従事する。社会福祉士。吉祥寺グランドデザイン改定委員会幹事、一般財団法人長寿社会開発センター客員研究員も兼ねる。

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