(本記事は、斉藤 徹氏の著書『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』翔泳社の中から一部を抜粋・編集しています)
制度疲労で弱まる地域の「コミュニティ力」
地域コミュニティの再生は急務
阪神・淡路大震災や東日本大震災の発生以来、地域コミュニティの重要性が改めて認識されています。災害時に弱者となるのは、子どもや高齢者、障害者などの人々です。いざという時に、「お互いに声を掛け合い、助け合える共助社会の構築」が今後極めて重要になることは、誰しも認めるところでしょう。
しかし、このような思いとは裏腹に、地域のコミュニティ力は全般的に低下しているのが実情です。とはいえ、利害関係を超えて地域住民が支え合う構図なくして、これから次々と起こる高齢社会課題を乗り越えていくことはできません。地域コミュニティの再生は喫緊の課題です。
各地域には、コミュニティを支えるさまざまな組織が存在しています。しかし、組織によっては社会構造の変化にともない、「新しい担い手不足」に苦慮するケースも見受けられます。また、組織間の横連携が図られていないことも多く、それがコミュニティ力低下の一因となっています。
高齢者組織への参加減少が止まらない
現在、地域コミュニティでどのようなことが起きているのでしょうか。その端的な例として挙げられるのが、既存のコミュニティや高齢者支援組織の制度疲労という現象です。
例えば地域の自治会、町内会組織は、地域自治を支える重要な組織活動の一つですが、加入率の減少が課題になっています。東京都では、2003〜2013年の11年間で加入率は61%から54%にまで低下しています(把握できた33市町村の数値の平均)。
高齢者組織においても、同様の現象が起きています。老人クラブ(老人会)とシルバー人材センターは、地域のリタイア高齢者が元気に活動するためのリソース提供を目的に生まれたものです。しかし、高齢化の進展とは反対に、組織数や参加人員の減少が顕著となっています。2010年に718万人いた全国老人クラブ会員数は、2015年には606万人と約100万人減少(全国老人クラブ連合会資料)、シルバー人材センターの会員加入者数も2009年の79万人から2014年の72万人と5年間で7万人減少しています(全国シルバー人材センター事業協会統計資料)。
共通するのは、かつてはうまく機能していた組織が、団塊世代に代表される戦後生まれの高齢者の登場や時代変化の流れとともに、支持を得づらくなっているという事実です。
新しい高齢者に「老人クラブ」はミスマッチ?
老人クラブ会員減少の最も大きな要因は、新規会員加入率の低迷です。クラブの会員組織自体が高齢化し、“若手”による事業運営の移行がスムーズに進まず、組織継続が困難になるという悪循環を生み出しています。
そして、新規会員獲得がうまくいかないのは、新しい高齢者ニーズとのミスマッチが起きているためです。活動内容の多くは、カラオケ、囲碁、将棋、健康体操、ゲートボールなど、現在の中心メンバー(70代以上)のニーズに合わせたものが中心。若い人(60代)が、自分と価値観の異なる組織に進んで入会しようという気持ちになれないのは仕方ないでしょう。戦後生まれの世代にとっては、「老人クラブ」という名称からして、自身が参加すべきサークルとして共感されません。老人クラブという名称に潜むネガティブ・イメージは、早々に払拭する必要があるでしょう。
また、「60歳以上」を加入条件とするクラブが多いですが、現在は、多くの人がまだ働き続けている年齢です。定年で完全にリタイア可能なのは、むしろ金銭的にゆとりのある一部の人で、そうした人は老人クラブとは別の場所で楽しみや生きがいを見出しているかもしれません。
地域コミュニティ組織の継続は重要
同様の事象はシルバー人材センターにもいえます。シルバー人材センターは、高年齢者が働くことを通じて生きがいを得るとともに、地域社会の活性化に貢献する組織として設けられました。主な業務内容は、庭木などの剪定・除草・草刈り、障子・ふすま・網戸の張替えなど、どちらかといえば一定の技術や体力を要するものです。また、庭木や家屋の手入れなどを自分たちでするのではなく、専門の業者に依頼するケースも増えており、いざ手伝おうと思っても、そうした作業をやりなれていないという可能性もあります。団塊世代以降の高齢者が増加する中、彼らの定年後の就労ニーズと提供業務のミスマッチが生じていることは否めません。
ただし、制度疲労を起こしつつあるとはいえ、これらの組織は、国内最大の規模を持つ高齢者団体です。人口減少社会の中で、極めて重要な地域の高齢者をつなぐネットワーク組織をうまく活用しながら、高齢者の生きがい提供、就労支援など、高齢社会課題を解決するための方策を見出していかなければなりません。
必要なのは、新たな「地域コミュニティ力」の担い手
既存コミュニティ力+新しいコミュニティ力
コミュニティをつなぐ組織力は、重要な社会関係資本です。米国の社会学者ロバート・パットナムは、著書『孤独なボウリング』(柏書房)で、米国における社会関係資本の衰退をもたらした原因として、共稼ぎ世帯の増加、郊外化、テレビによる余暇時間の私事化、世代的変化などを指摘しています。これらは、多かれ少なかれ日本においても同様でしょう。
こうしたことからも、期待されるのが新しいコミュニティの支えとなる地域NPOの力です。
特定非営利活動促進法(NPO法)が制定されたのは1998年のこと。それ以降、NPOの数は着実に増加し、認証NPO数は約5万、認定NPO数は約1000に達しています(2018年1月末現在)。これからの時代は、既存のコミュニティ組織ではなく、NPOやボランティアなどが地域を支えるという意見もあります。
一方で、既存コミュニティの力を重視する意見もあります。稲葉陽二著『ソーシャル・キャピタル入門 孤立から絆へ』(中公新書)では、既存型の自治会や町内会コミュニティを「ボンディング(結束)型社会関係資本」、NPO法人などを異質なもの同士を結びつける「ブリッジング(橋渡し)型社会関係資本」として分類し、前者は社会全般に対する信頼や互酬性を高める効果を果たし、後者は特定の人や組織に対する信頼や互酬性を高める効果を示すと語っています。
一般に、社会関係資本の可能性は、ボンディング型ではなくブリッジング型を中心に語られる場合が多いです。しかし、本書によると「治安、健康、教育の面では、地縁団体(自治会、町内会、老人会、自主防災組織、消防団員、民生委員、社会福祉協議会、ボランティア)のほうが、NPOよりもプラス効果を持つ」という説が紹介されています。今後の地域社会における社会関係資本のあり方を考える上で、既存組織の再活性化も極めて重要であることに改めて気づかされます。
すなわち、社会関係資本の再生には、「どちらか」ではなく「どちらも」重要だということです。「シェア金沢」はまさにその典型で、地域住民、障害者、高齢者、若者、子どもたちが、「ごちゃまぜ」になって暮らすためのまちづくりが志向されています。
ダイバーシティのまちづくり
地域コミュニティの再生を考えるにあたって重要な点は、社会的弱者との共生が図れるかどうかです。困りごとを抱える高齢者をはじめ、子ども・子育て世代、障害者の人々が困難や不安を抱えることなく暮らせる、多様性を持ったコミュニティをいかにして築き上げるか。従来のように自治体予算に頼ることが難しい昨今、地域住民同士の工夫で、社会共生が実現するコミュニティモデルを作らねばなりません。そのためにも、地域社会の課題解決に関心を持つ人々の育成と巻き込みが重要です。その中には、元気高齢者ももちろん含まれます。
自治体やNPOに頼るだけではなく、コミュニティ再生を通じたビジネス開発視点の検討も重要です。