2019年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比3.6%増(1)と前期の同4.4%増から低下し、Bloomberg調査の市場予想(同4.1%増)を下回った。
なお、2019年通年の成長率は前年比4.3%増(2018年:同4.7%増)と低下し、政府予測の4.7%を下回る結果となった。
10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に外需の悪化が成長率低下に繋がった(図表1)。
GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比8.1%増(前期:同7.0%増)と上昇した。食品・飲料やホテル・レストラン、輸送を中心に高めの水準を維持した。
政府消費は前年同期比1.3%増(前期:同1.0%増)と小幅に上昇した。
総固定資本形成は同0.7%減(前期:同3.7%減)とマイナス幅が縮小した。建設投資が同0.1%増(前期:同2.4%減)と2期ぶりのプラスに転じた一方、設備投資が同2.6%減(前期:同7.4%減)と低迷した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7割を占める民間部門が同4.2%増(前期:同0.3%増)と回復したものの、公共部門が同7.7%減(前期:同14.1%減)と低迷して9期連続のマイナスとなった。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲0.7%ポイントとなり、前期の+1.0%ポイントから悪化した。輸出が同3.1%減(前期:同1.4%増)と低下する一方、輸入は同2.3%減(前期:同3.3%減)とマイナス幅が縮小した。
供給側を見ると、主に農業と製造業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。
第一次産業は同5.7%減(前期:同3.7%増)と悪化した。前期まで低迷していた漁業(同0.8%増)は3期ぶりにプラスとなったものの、パーム油(同16.9%減)が大幅に減少、天然ゴム(同1.9%増)が鈍化した。
第二次産業をみると、まず鉱業が同2.5%減(前期:同4.3%減)となり、原油生産の落ち込みを受けて2期連続で減少した。また製造業は同3.0%増(前期:同3.6%増)と減速した。内訳を見ると、食品加工(同8.8%増)と輸送用機器(同4.0%増)は堅調を維持したが、主力の電気・電子、光学機器(同2.8%増)と石油製品(同2.4%増)、化学製品(同2.1%増)が伸び悩んだ。また建設業は同1.0%増(前期:同1.5%減)と上昇したが、前期に続いて低い伸びに止まった。
GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比6.1%増(前期:同5.9%増)と小幅に上昇して景気の下支え役となった。宿泊・飲食業(同10.0%増)と情報・通信(同6.7%増)、卸売・小売(同6.3%増)、不動産・ビジネスサービス(同8.0%増)が堅調に拡大した一方、政府サービス(同3.6%増)と金融・保険(同5.2%増)が相対的に低い伸びに止まった。
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(1)2020年2月12日、マレーシア中央銀行が2019年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。
10-12月期GDPの評価と先行きのポイント
マレーシア経済は2019年通年の実質GDP成長率が4.3%増と、2018年の+4.7%増から低下し、2年連続で減速した。また四半期ベースでみると、昨年は+4%台の底堅い成長が続いていたが、10-12月期に+3%台まで成長率が減速し、2009年の世界金融危機以来の低成長を記録した。
10-12月期は資源関連産業と建設業の停滞が成長鈍化に繋がった。資源関連産業はパーム油と原油の生産収縮および供給混乱の悪影響を受けており、建設業はマハティール政権下で一旦停止していた大型インフラプロジェクトが再稼動したものの、公営企業の建設活動が低迷したことが響いた(図表3、4)。
需要面からみると、民間部門は回復したことは明るい材料といえるだろう。民間消費は雇用の安定や売上・サービス税(SST)の再実施(2)の影響の一巡を受けて1年ぶりに+8%台の高成長を記録、また輸出低迷を背景に伸び悩んでいた民間投資も+4%台まで回復した。もっとも民間給与の伸びは鈍化傾向にあり、また資本財輸入も伸び悩むなど、民間部門の景気押し上げが持続的なものになるかどうかは疑問も残る。このことは輸出低迷による景気後退局面が続いていることが背景にある。マレーシアの輸出は世界経済の減速や半導体サイクルの悪化、米中貿易摩擦の激化を背景に昨年から停滞しており、10-12月期には2期連続のマイナス成長を記録した。米中貿易摩擦を背景に米国の製造業の投資は拡大しているものの、中国向けの中間財輸出低迷の影響が大きく、企業と消費者の景況感は昨年から悪化傾向にある。
先行きのマレーシア経済はどうなるだろうか。年明け以降、中国で拡大する新型コロナウイルスの影響は1-3月期の景気を下押しするものと見込まれる。マレーシア経済は、中国とのサプライチェーンが強く結ばれている電気電子産業や観光業を中心に下方リスクを抱えている。しかし、ウイルスの影響が一時的なものとなり、その後の反動増で経済成長が加速した後は、再び+4%台半ばの緩やかな成長ペースに戻ると予想する。米中貿易摩擦を巡る不確実性が残り、来年の世界経済の大幅な回復は見込めないが、足元では半導体サイクルが回復しつつある。主力の電気・電子製品の輸出が底打ちすれば、製造業部門の落ち込みは和らぐだろう。こうしたなか、雇用・所得環境が安定して、民間消費は堅調な伸びを維持し、民間投資も底堅く推移するものとみられる。またマレーシア中央銀行は1月の会合で景気の下振れリスクから前倒しの利下げ(▲0.25%)を実施しており、追加利下げの実施も予想される。さらにマレーシア政府は観光業の支援を念頭に景気刺激策を検討しており、現時点ではマレーシア政府の成長率予測(2020年:+4.8%)は実現可能な目標といえる。もっとも、このまま新型コロナウイルスの感染拡大が続いて4-6月期にも悪影響が及ぶと、2020年の+4.8%成長は一気に難しくなるだろう。
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(2)新政府は18年6月1日よりGSTの廃止(ゼロ税率化)を実施し、9月にSSTを再導入(売上税10%、サービス税6%)するまでの3ヵ月間はタックス・ホリデー(免税措置期間)となった。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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