使命感はいらない――「消極的な職業選択」
楠木 例えば、組織の中で働きたくない。理由は2つあります。自分の具体的な経験でつくづく思い知らされたことがありました。
1つは、チームワークっていうのが、ことごとくダメ。子どもの頃からの学生生活で、なんとなくわかっていました。2つ目は、自分の仕事の評価主体が組織の中にあって欲しくないということです。会社に入ると、直接評価する人が上司になったりしますでしょう。そうではなくて、できたら外部の顧客からの直接評価にさらされるような仕事をしたいと考えていました。
この2つが重なったところに、あまり「会社」には入らないほうがいいんじゃないかという結論が出たわけです。
だからといって、当時は、もう本当に子どもなんで、「じゃあ、どうするんだ」というとですね、個人商店とかぐらいしか思いつかないわけです。具体的な解として。今の若い人みたいに起業するなんていう発想は、まったくありませんでした。また、そういうタイプでもないので。とにかく根性がない。これはもう、子どもの頃から繰り返し、嫌というほど思い知らされた。
ということで、やりたくないことはなんとなくわかったと。じゃあ、どうするんだというと、何もしない。卒業しても、何もしてなかった。就職もせずに。
ある方から「学者になれば、まあまあ、君が言ってるような、嫌なことは回避できるのではないか」とアドバイスをいただきました。ただし、それが好きかどうかは別として、です。「思いもよらなかった人生のオプション」として大学院に行きました。
つまりですね、ものすごく「形から入っている」んですよ。学問的な使命感とかそういうのは一切ありませんでした。「こういうことを研究したい」っていうのがなかったのです。
今の私の仕事ですと、一応大学という組織の中にはいます。とはいえ、上司から評価されるような仕事ではなくて。授業をやったり本を書いたりして、それを受講したり読んだりしていただいた方から、良いだの悪いだの評価をいただく。会社のお手伝いをするにしてもそうです。加えて、子どもの頃から読んだり考えたりするのが結構好きだったんですね。さらに言えば、発表するっていうのが好きなんですよ。
伊藤 それはあれですか、バンドやっていた経験とか?
楠木 それもそうですよ。バンドもそうです。もっと前だと、本みたいのを自分で書いたりして。誰も読まないんですけど(笑)。
伊藤 それは、今のお仕事につながってますね。
楠木 思考の一つの本質は言語化ですよね。人に伝えるような形で言語化するっていうことが好きなんです。ですから、もちろんそれが具体的にどういう研究をするかということではありませんでしたが、「まあ、いいのかな」というふうに思って。よく「おまえには使命感がない!」とか言われながら、大学院に行ってました。でも、本当にないんで、ないものは仕方がない。
――それを包み隠さず……。
楠木 ええ。それで、何年か経ったらですね、大学に職を得ることができて。そのときは、「シメシメ……」と。まさに嫌なことを回避し、まあまあ好きな、ゆっくり勉強でもして、何か考えて、何か書いたりっていうことを始めたんですけれども。もちろん、そんなにうまい話はなくてですね。気づいてみると、非常によくない状態になっていました……。
楠木 建(くすのき・けん)
一橋大学大学院教授
1964年、東京都生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学商学部卒、同大学院商学研究科修士課程修了。専門は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社)などがある。
伊藤羊一(いとう・よういち)
ヤフー〔株〕 コーポレートエバンジェリストYahoo! アカデミア学長
〔株〕ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に〔株〕日本興業銀行入行、2003年プラス〔株〕に転じ、201年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEO コースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。2015年4月にヤフー〔株〕に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。著書に、『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSB クリエイティブ)がある。(『THE21オンライン』2019年12月18日 公開)
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