(本記事は、三木 雄信氏の著書『孫社長のYESを10秒で連発した 瞬速プレゼン』すばる舎の中から一部を抜粋・編集しています)
「横のコミュニケーション」を高速化する
孫社長の秘書を経て、社長室長になった私は、いくつもの大型案件でプロジェクトマネジャーを任されました。
マイクロソフトとのジョイントベンチャーである「カーポイント(現・カービュー)」の立ち上げ、証券取引所の「ナスダック・ジャパン」の開設、日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)の買収など、いずれも困難ながらやりがいのある仕事でした。
なかでもADSL事業「Yahoo! BB」のプロジェクトは、私が社長室を離れて事業そのものに専念した(させられた)思い入れの深い案件です。
ADSL事業は、孫社長がソフトバンクの命運をかけて勝負に打って出た大型事業だっただけに、プロジェクトに関わった人間の数も膨大でした。
コールセンターで働く派遣社員やアルバイト、協力会社である代理店のスタッフなども含めれば、私の部下は1万人近くいたことになります。
これだけ多くの人間を動かし、孫社長が目指すゴールを達成できたのはなぜか。
それは、私が「瞬速プレゼン」の技術を駆使したからです。
そもそもプロジェクトマネジャーの役割は何かと言えば、「コミュニケーションの調整役」に尽きます。
ひと昔前までは、社内の一部門だけで完結する仕事も多く、組織のピラミッドの中で上下関係に従っていれば意思決定ができました。
しかし現在は、ITの進化やコンプライアンスの強化によって、どんな仕事でも専門スキルを持った人の協力が不可欠となりました。
その結果、ひとつの仕事に社内のさまざまな部門やグループが関わるようになり、さらには外部の会社や個人と共同でおこなう事業や案件も増えました。
つまり、昔に比べて「横のコミュニケーション」が増えているのです。
しかも、所属する組織が違えば、使う言葉の定義も違います。
同じ会社の同じ部署にいる者同士なら、あうんの呼吸で理解できることも、外部の人間には何度説明してもわかってもらえなかったり、誤解が生じたりしがちです。
コミュニケーションに時間がかかれば、当然プロジェクトもどんどん遅れます。
時代の変化とともにコミュニケーションが複雑化する中、短期間で成果を上げるには、誰かが情報を円滑に回すための仕組みを作り出す必要があります。
それこそが、プロジェクトマネジャーの役割なのです。
「共通言語」のフォーマットを作る
「Yahoo! BB」のプロジェクトが始まった当初も、やはり組織の違いによるコミュニケーションの問題が発生しました。
このプロジェクトは、複数の関連会社から出向してきたスタッフで構成されていたので、普段使っている用語や書式もみんなバラバラでした。
ADSL事業に新規参入するには、NTTの回線を借りてネットワークを構築する必要があります。
その作業を、シスコシステムズときんでんの2社から出向中のスタッフが担当したのですが、ここでもすぐに〝言葉の違い〟が問題になりました。
たとえばネットワーク図を作るのに、シスコはNTTの局舎を「◎」のマークで表し、きんでんは「■」で表す。あるいは、シスコは機器の名前を英語の略称で書き込み、きんでんは日本語で書き込む。
このように、それぞれが元いた会社で使っていた用語や記号を使ったため、お互いの図面が何を示すのかわからず作業が進まないという事態が起こっていました。
それに気づいた私は、両社のスタッフを一堂に集めました。
そして「局舎のマークは『■』で統一する」「機器の名前は英語で揃える」といった、言葉の定義づけと記号の共通化をしたのです。
そこからはスタッフ同士のコミュニケーションが一気にスピードアップし、ネットワーク図の作成も円滑に進みました。
このように、プロジェクトマネジャーがチーム内のコミュニケーションを高速化する仕組みやフォーマットを作ってしまえば、あとは個々のメンバーで「瞬速プレゼン」を実行できるようになります。
たとえプロジェクトマネジャーの肩書きを持たなくても、仕事で横のコミュニケーションが不可欠な今の時代は、どの職場でも「プロマネ的な人材」が求められています。
組織内のコミュニケーションを速くするためにも、やはり「瞬速プレゼン」の技術が欠かせないのです。
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