(本記事は、細入 徹氏の著書『将来の年金不安を解消したいなら今すぐiDeCo・つみたてNISAをはじめなさい』自由国民社の中から一部を抜粋・編集しています)
あのバブルのピークで投資していてもいまはプラス?!
■ スポットならいまだに40%も元本割れ
図表3-2は日本の株式市場の推移を示しています。1989年末のバブルのピークがはじけて以来、日本経済が低迷しつづけ25年以上たった今でも、株価はいまだ元本割れの状態です。
若い人にとってはバブルなんて言われてもピンとこないと思いますが1980年代の後半にかけて、消費者物価が比較的安定していた中で、株式や不動産、果てはゴルフの会員権などの資産価格だけが異常に高騰し、図中で見るように1985年からの5年間に株価が3倍にも跳ね上がってしまいました。
このピーク時にスポットで100万円投資していたら、一時は30万円位まで暴落し、今でもまだ60万円程度。この間、毎年マイナス2%で資産が減り続けた計算になります。
■ 積立なら同期間で40%のプラスに!
この推移を積立投資で置き換えてみると、毎月1万円、延べ302万円積み立てた結果、現在の残高は421万円で4割増。毎月投入した1万円が年利2.5%で増え続けたことになります。たまたまですが、スポットと積立てでプラスマイナスが真逆だったので、事例として採りあげてみました。
途中の経過を見てわかるように積立も落ちるときはドーンと落ちます。でも下落しているときは口数を稼げますので、市場が回復しだすと価格が跳ね上がります。やめる人にとっては相場が高い時が有利、続けていく人にとっては高い時は口数が増やせない我慢の時で相場が低迷している時こそが口数の稼ぎ時ということになります。
このように「積立だから有利」という訳では決してありませんが、スポットの場合は相場が急落したらガッカリしますし気を揉みます。でも積立の場合は「よし、口数が稼げるいいチャンス!」と納得できます。逆に、運用のレポートを見て残高がドーンと増えていると、頭では口数を稼げない我慢の時期だと分かっていても、何か悪い気がしないものです。要は、「積立は気が楽、ストレスがたまりにくい」。このことは今後も折に触れ、いろいろな角度から話題に取り上げますが、これが積立投資の本質ではないでしょうか。
リーマンショックの直前に投資を始めたMさんの運用成績は?
■ リーマンショックで残高が5分の1に!
2012年の2月、安倍政権がスタートする10ケ月ほど前のことですが、Mさん(当時50台前半の女性)からアドバイスを求められました。Mさんは4年前の2008年5月に証券会社と相談し、新興国を中心に内外の株の投資信託を7本を買って投資を始め出しましたが、4ケ月後にリーマンショックに遭遇。その後もずっと運用し続けてはいましたが、購入した証券会社が大手ネット証券に吸収合併され、相談相手がいなくなってしまったということで筆者に助言を求めてきました。
図表3-3はMさんが購入した商品の推移です。運用の良いものでもまだ8割、悪いものは5割前後までしか回復していません。
でも、Mさんは各商品を毎月1万円、計7万円ずつ積立で購入しています。その結果、1年後(縦の点線)にはほとんど全商品がプラスになっていました。ロシア・東欧株などは一時は5分の1位まで急落し1年後でも37%位までしか回復していないのに積立では既にプラスに転じています。その後、一時、相場が下がった時は積立ても元本を割っていますが、下がったことで口数を余計に買い込めているので、市場が回復しだした途端に価格が急上昇。全体で約5%の年利回りを確保していました。
■ 目的は短期のお金儲け?それとも老後の備え?
Mさんは幸いにも、そこそこの利回りを確保してはいましたが、Mさんに「あなたは短期間での収益の確保を目指しているのですか、それとも老後に備えるために運用しているのですか」と確認しました。Mさんは「毎月少額ずつ積み立てているぐらいですから、当然、老後の備えです」とのこと。
「たまたま将来のために積み立てている時期だったから幸運でしたが、老後が近づいたり、老後に入ってこのように急落したらどうしましょう?老後はもう買い付けていないのでスポットの場合と同じですから、市場の騰落がそのまま自分の資産の増減になりますよね。しかも残高から定期的に生活費を取り崩していますから運用が低迷すると老後の貯えがドンドン目減りしてしまいます。それと……、第7章5項で説明しますが、特に積立投資の場合は運用の良かった商品、悪かった商品の差が出にくいんです。ですから“どの商品を選んだらいいか”なんていうことよりも“内外の株・債券をどのように組み合わせるか”ということの方がはるかに影響が大きいんです」。
例えば、「今は、こういう組み合わせにしよう。でも老後が近づいたら債券の割合を増やす等で騰落のバラツキを抑えよう。そして老後生活に入ったら、増やすことよりも減らさないことが大切だから債券の割合を更に増やしたり、人によっては当面の生活費の分は定期預金性の商品に置き換えたり……。そして将来に備えるうえで一番大事なことは、相場を気にして組み合せをコロコロ変えたりせず、自分の組み合わせをしっかり守っていくことなんじゃないでしょうか」と、こんなことを話し合いました。
ちなみに、Mさんは「ひたすら右下がりを続けている日本株式は魅力を感じない。日本債券が安定的なことは良く分かったが2%では物足りない」とのことで、当面は外国債券を3分の2、外国株式を3分の1の割合で4%強の利回りを期待しながら将来に備えたいとのことでした。
■ その1年後、どれもまだ元本割れなのに積立は年利10%に
図表3-4は、参考までにMさんがそれまで投資してきた7本の株式投資信託が、その1年後の2013年1月にはどんな状況になっていたかを示したものです。
安倍政権に代わって日銀はまだ金融緩和の意向を示しているだけの段階で、良いものはやっとトントンに、悪いものはまだ5割位までしか回復していませんが、積立投資の結果は年利約10%になっています。運用が低迷することで口数を沢山買え続けられたあとでポーンと株価が上がったため、積立投資の場合は残高が急騰しています。この辺りの理屈は、もう皆さんは十分に理解できたことと思います。
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