澤田 朗
澤田 朗(さわだ・あきら)
日本相続士協会理事・相続士・AFP。1971年生まれ、東京都出身。日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続対策のための生命保険コンサルティングや相続財産としての土地評価のための現況調査・測量等を通じて、クライアントの遺産分割対策・税対策等のアドバイスを専門家とチームを組んで行う。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

事業承継は、中小企業にとって避けては通れない問題となっている。親族に引き継ぐのか、社内の親族外の役員等に経営を任せるのか、あるいは第三者に事業売却するのかなど、承継の方法や時期について計画を立てておくことが必要だ。このような事業承継を行うにあたり、活用できる補助金があるのをご存知だろうか。今回は「事業承継補助金」の概要や、補助金の内容についてお伝えする。

中小企業等を支援する事業承継補助金とは

事業承継補助金
(画像=PIXTA)

はじめに、今回は2018年度第2次補正予算で行われた事業承継補助金の概要についてお伝えする。従って、今後公募開始予定の2019年度補正予算「事業承継補助金」の事務局の決定や予算の執行については2019年度補正予算の成立が前提となっており、今回お伝えする内容が変更になることがある点をご了承いただきたい。

事業承継補助金は、経営者の高齢化や後継者不足などにより事業継続が困難になることが見込まれている中小企業や個人事業主が対象となる。経営者の交代や事業再編・事業統合をきっかけに経営革新などを行う場合、その取り組みにかかる経費の一部を補助することで、中小企業や個人事業主の世代交代を促進し、日本経済の活性化を図ることが目的だ。

この補助金事業は経済産業省・中小企業庁が主体となっているが、中小企業や個人事業主は事業承継補助金の交付などを行う「事務局」を通じて手続きを行う。また、補助金の申請等にあたり「認定経営革新等支援機関」への相談や確認書発行の依頼等が必要となる。

事業承継補助金の対象者は?

事業承継補助金の補助対象者は、次の要件を満たす中小企業・個人事業主・特定非営利活動法人(中小企業者等)となっている。

1.日本国内に拠点もしくは居住地を置き、日本国内で事業を営む者。
2.地域経済に貢献している中小企業者など。
3.補助対象者またはその法人の役員が、暴力団等の反社会的勢力でないこと。
4.法令順守上の 問題を抱えている中小企業者でないこと 。
5.経済産業省から補助金指定停止措置または指名停止措置が講じられていない中小企業者。
6.補助対象事業に係る情報について、匿名性を確保しつつ公表される場合があることに同意すること。
7.事務局が求める補助事業に係る調査 やアンケートに協力できること。

また、補助金の対象となる中小企業者等の要件も次のように定められている。

【対象となる中小企業者等】

業種定義(いずれかに該当)
資本金または出資総額(会社)常時使用する従業員の数
(会社および個人事業主)
ゴム製品製造業(一部除く)3億円以下900人以下
製造業その他3億円以下300人以下
ソフトウエア・情報処理サービス業3 億円以下300 人以下
卸売業1億円以下100人以下
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
旅館業5,000万円以下200 人以下

【小規模事業者の要件】
小規模事業者とは、前述した「対象となる中小企業者等」の要件を満たし、以下の定義に該当する者となっている。小規模企業活性化法に従い、宿泊業および娯楽業を営む従業員20人以下の事業者を小規模事業者として規定している。

業種定義
製造業その他従業員20人以下
サービス業(宿泊業・娯楽業)従業員20人以下
商業・サービス業従業員5人以下

このような要件を満たした中小企業者等が、事業承継補助金の対象となる。

事業承継補助金の2種類のタイプとその他の要件

事業承継補助金は、主に経営者の交代を機に経営革新等を行う中小企業者等に対して経費の一部を補助する「Ⅰ型(後継者承継支援型)」と、事業再編・事業統合を機に経営革新等を行う中小企業者等に対して経費の一部を補助する「Ⅱ型(事業再編・事業統合支援型)」の2種類がある。次に、それぞれの概要についてお伝えする。

1.Ⅰ型(後継者承継支援型)

事業承継(事業再生を伴うものを含む)を行う個人および中小企業・小規模事業者等であり、以下の要件を満たすこと。

・経営者の交代 を契機として、経営革新等に取り組む者であること。
・産業競争力強化法に基づく認定市区町村または認定連携創業支援等事業者により特定創業支援等事業を受ける者など、一定の実績や知識などを有している者であること。
・地域の需要や雇用を支える者であり、地域の需要や雇用を支えることに寄与する事業を行う者であること。

引用:平成30年度第2次補正予算「事業承継補助金」

2.Ⅱ型(事業再編・事業統合支援型)

事業再編・事業統合等を行う中小企業・小規模事業者等であり、以下の要件を満たすこと。
・事業再編・事業統合等を契機として、経営革新等に取り組む者であること。
・産業競争力強化法に基づく認定市区町村または認定連携創業支援等、事業者により特定創業支援等事業を受ける者など、一定の実績や知識などを有している者であること。
・地域の需要や雇用を支える者であり、地域の需要や雇用を支えることに寄与する事業を行う者であること。

事業承継補助金の事業承継の要件

事業承継補助金は前述の中小企業等に該当する必要がある他、事業承継の要件も定められている。事業を引き継がせる者(被承継者)と事業を引き継ぐ者(承継者)が、それぞれ法人・個人事業主なのかによって上記Ⅰ型・Ⅱ型のどちらを申請できるかが変わってくる。事業承継の形態による申請の種類は、下記の通りに分類されている。

1.承継者が個人事業主の場合

承継者判断の基準事業承継の形態被承継者条件申請の類型
個人事業主事業承継をする(した)
事業以外の経営を行っている
事業譲渡法人Ⅱ型・Ⅰ型
個人事業主Ⅱ型・Ⅰ型
株式譲渡法人Ⅱ型
事業承継をする(した)
事業以外の経営を行っていない
事業譲渡法人Ⅰ型
個人事業主Ⅰ型

2.承継者が法人かつ被承継者が法人の場合

承継者判断の基準事業承継の形態被承継者条件申請の類型
法人代表者が交代する(した)同一法人法人Ⅰ型
法人間で右のいずれかに
該当する行為をした
※予定も含む
吸収合併法人Ⅱ型
吸収分割法人Ⅱ型
事業譲渡法人Ⅱ型
株式交換法人Ⅱ型
株式譲渡法人Ⅱ型
株式移転法人Ⅱ型
新設合併法人Ⅱ型

3.承継者が法人かつ被承継者が個人事業主の場合

承継者判断の基準事業承継の形態被承継者条件申請の類型
法人申請者である法人の総議決権数の過半数を有する者と、被承継者である個人事業者が同一事業譲渡個人事業主原則 申請できない
申請者である法人の総議決権数の過半数を有する者と、被承継者である個人事業者が同一でない個人事業主Ⅱ型

4.承継者の代表者が承継以前に代表権を有していない場合における資格要件

また、Ⅰ型に申請をする場合もしくはⅡ型の申請時点で事業承継が完了していない場合には、承継者の代表者は次のいずれかを満たす必要がある。

【経営経験を有している(事業)者】
・対象企業の役員として3年以上の経験を有する者
・他の企業の役員として3年以上の経験を有する者
・個人事業主として3年以上の経験を有する者

【同業種での実務経験等を有している(事業)者】
・対象企業、個人事業に継続して6年以上雇用され業務に従事した経験を有する者
・対象企業、個人事業と同じ業種において通算して6年以上業務に従事した経験を有する者

【創業・承継に関する下記の研修等を受講した(事業)者】
・産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けた者
・潜在的創業者掘り起こし事業を受けた者
・中小企業大学校の実施する経営者・後継者向けの研修等を履修した者

このように、前述した中小企業者等の要件の他、事業承継の形態や承継者についても要件を満たす必要がある。

どのような補助が受けられる?

要件を満たした場合には、下記のような補助を受けることができる。なお、補助率は補助対象経費の2/3以内または1/2以内となっており、補助金の交付は事業完了後に精算されるため、必要な資金は事前に調達をしておくことが必要だ。

タイプ申請の内容補助率補助金額の範囲上乗せ額 ※1
Ⅰ型 ・ 小規模事業者
・ 従業員数が小規模事業者と同じ規模の個人事業主
2/3以内100万円以上~ 200万円以内+300万円以内 ※2 (補助上限額の合計は500万円)
小規模事業者以外1/2以内100万円以上~ 150万円以内+225万円以内 ※2 (補助上限額の合計は375万円)
Ⅱ型審査結果上位2/3以内100万円以上~ 600万円以内+600万円以内 ※2 (補助上限額の合計は1,200万円)
審査結果上位以外1/2以内100万円以上~ 450万円以内+450万円以内 ※2 (補助上限額の合計は900万円)

※1事業転換により廃業登記費、在庫処分費、解体・処分費、原状回復費および移転・移設費(Ⅱ型のみ)がある場合のみ認められる補助金額。なお、上乗せ額の対象となる廃業登記費、在庫処分費、解体・処分費、原状回復費および移転・移設費(Ⅱ型のみ)のみの交付申請はできない。

※2:廃業登記費、在庫処分費、解体・処分費、原状回復費および移転・移設費(Ⅱ型のみ)として計上できる額の上限額。

補助対象経費

補助対象となる経費は、事業を実施するために必要な経費だ。事務局が必要かつ適切と認めたものが対象となり、以下の条件をすべて満たすことが求められる。

1.使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
2.承継者が交付決定日以降、補助事業期間内に契約・発注を行い支払った経費
3.補助事業期間完了後の実績報告で提出する証拠書類等によって金額・支払等が確認できる経費

また、補助対象経費は以下の通りとなる。

費目名概要
Ⅰ事業費
人件費本補助事業に直接従事する従業員に対する賃金および法定福利費
店舗等借入費 国内の店舗・事務所・駐車場の賃借料・共益費・仲介手数料
設備費 国内の店舗・事務所の工事、国内で使用する機械器具等調達費用
原材料費 試供品・サンプル品の製作に係る経費(原材料費)
知的財産権等関連経費 本補助事業実施における特許権等取得に要する弁理士費用
謝金 本補助事業実施のために謝金として依頼した専門家等に支払う経費
旅費 販路開拓を目的とした国内外出張に係る交通費、宿泊費
マーケティング調査費 自社で行うマーケティング調査に係る費用
広報費 自社で行う広報に係る費用
会場借料費 販路開拓や広報活動に係る説明会等での一時的な会場借料費
外注費 業務の一部を第三者に外注(請負)するために支払われる経費
委託費 業務の一部を第三者に委託(委任)するために支払われる経費
Ⅱ廃業費
廃業登記費 廃業に関する登記申請手続きに伴う司法書士等に支払う作成経費
在庫処分費 既存の事業商品在庫を専門業者に依頼して処分した際の経費
解体・処分費 既存事業の廃止に伴う設備の解体・処分費
原状回復費 借りていた設備等を返却する際に義務となっていた原状回復費用
移転・移設費用(Ⅱ型のみ) 効率化のため設備等を移転・移設するために支払われる経費

申請の方法や手続きの流れ

申請や手続きには前述した認定経営革新等支援機関のサポートが必要となるため、相談をした上でアドバイスを仰ぐ必要がある。手続きの概要は下記の通りだ。

STEP1:事業承継補助金事業への理解
事務局のHP等で公募要領の内容を確認し、補助事業についての理解を深める。

STEP2:認定経営革新等支援機関へ相談
中小事業庁のHP等で認定経営革新等支援機関を検索し、事業計画の内容について相談を行う。申請には認定経営革新等支援機関が作成する確認書が必要となる。

STEP3:交付申請
申請要件を満たすことを証明する添付書類を揃えて、交付申請を行う。2019年度補正予算の公募期間はまだ決定していない。

STEP4:補助事業実施
交付決定後、速やかに補助事業を開始する。

STEP5:実績報告
補助事業を完了した事業者は定められた日までに実績報告を行う必要がある。

STEP6:補助金交付手続き
実績報告を提出後事務局の確定検査が完了次第、補助金交付手続きを行う。

STEP7:事業化状況報告等
補助金交付後、5年間は事業化状況報告等を行う必要がある。

以上が事業承継補助金概要や利用する際の要件となるが、2019年度の補正予算成立後に正式な内容が公表されるため、実際の補助内容は中小企業庁の公表内容を確認していただきたい。(提供:THE OWNER

文・澤田朗(ファイナンシャル・プランナー、相続士)