新しいビジネスを考える際、「どのようなアイデアでビジネスを興すか」と考える人が多いのではないだろうか。しかしながら、ビジネスはアイデアだけではうまくいかない。アイデアが「ビジネスモデル」になってないケースがほとんどだからだ。
他の人が思いつくようなアイデアであっても、ビジネスモデルが優れていれば、差別化を図ることができ、勝ち続けることができるだろう。では、勝ち続けるための「ビジネスモデル」とは、どのようなものなのだろうか。
優れたアイデアがあればビジネスがうまくいくわけではない
起業や新規事業に必要なものと言えば、何を思い浮かべるだろうか。多くの人は、「優れたアイデア」を挙げるかもしれない。では、優れたアイデアがあればビジネスはうまくいくのだろうか。残念ながら、答えはNOだ。
実際、優れたアイデアを先に世に出した人が、全員成功しているわけではない。
世界的に有名なスポーツ用品メーカーであるナイキは、もともとオニツカタイガー(アシックス)の代理店だった。しかしマーケティングや製品開発力に優れていたため、今やナイキの売上はアシックスの数倍になっている。
さらに有名なところでは、検索エンジンのGoogleがある。今や検索エンジンと言えばGoogleだが、1990年代はインフォシークやライコスなど、様々な検索エンジンが乱立していた。そこで、Googleは検索連動型広告いうビジネスモデル(アドワーズ)で他社との差別化を図り、Google一強体制を作り上げたのだ。
このように、アイデアが優れていてもビジネスがうまくいくとは限らず、後発がそのアイデアを応用してビジネスを成長させた例は枚挙に暇がない。ビジネスアイデアを形にするプロセスや仕組み、つまり「ビジネスモデル」こそが、新規事業ではアイデアと同じくらい重要なのだ。
アイデアを利益に変えるビジネスモデルのフレームワークとは?
「ビジネスモデルが重要」と言われても、「どのようにビジネスモデルを構築すればいいか、見当がつかない」という人も多いだろう。そこで重要になるのが、フレームワークだ。
フレームワークとは思考の整理法の1つで、定型の型に沿って物事を整理することで結論を導きやすくする手法だ。ビジネスモデルの構築においても、いくつかのフレームワークのパターンが存在する。
そのフレームワークに沿ってビジネスを整理することで、改善すべきポイントや事業化の是非を判断することができる。有名なフレームワークに、「Customer(顧客)」「Company(自社)」「Competitor(競合)」の3つの視点で考える「3C分析」などがある。
フレームワークはなぜ重要か?
なぜ、フレームワークが重要なのだろうか。その必要性から説明しよう。ビジネスは、実に様々な要素から成り立っている。たとえば「ラーメン屋の売上が落ちたから、売上を回復させたい」と言われても、すぐに必要な打ち手がわかる人は少ないだろう。
一般的に、客数が減ったのか、客単価が落ちたのか、どのメニューの売上が落ちたのか、どの時間帯の売上が落ちたのかなど、いくつかの要素に分けて考えるだろう。この「分解」こそが、複雑なビジネスをシンプルにするためのカギだ。
この「分解」を、より分かりやすく、経験がない人でもできるようにしたものが、フレームワークである。まったく見たことがない問題を解くことは誰にとっても難しいことだが、フレームワークを使えば、今まで対峙したことがない課題でも、共通のフォーマットに乗せて考えることができる。
客観性があり、漏れが少なく、わかりやすく事業を分解するツールがフレームワークであり、それゆえに重要なのだ。
シンプルにビジネスを考えるための「9フレームワーク」とは?
ここで、新規ビジネスを考える際に使えるフレームワークの中から、代表的なものを3つ紹介しよう。
1つ目は、9フレームワークだ。9フレームワークは、その名の通り3×3の9つのセルを埋めていくことで、そのビジネスにどのような価値・強みがあるかを確認するためのツールだ。
縦の3つのセルは、それぞれ「提供価値」「利益」「プロセス」を表し、横のセルは「誰に」「何を」「どのように」を表す。9つのセルの質問は、以下のようになる
・提供価値
1. 誰に対して価値を提供するか(ユーザーはだれか)
2. 提供する価値は何か(商材は何か)
3. どのように価値を提供するか(価値をどのように実現するか)
・利益
1. 誰から利益を得るか
2. 何で利益を得るか
3. どのように利益を得るか
・プロセス
1. 誰がビジネスを実行するか、誰と組むか
2. 役割分担は何か
3. どのように実現するか
9フレームワークを使うメリットは、わかりやすさだ。シンプルな構造なので、質問が明確でありながら、ビジネスにおける必要な要素すべて網羅されている。まったく新しくビジネスモデルを考える際は、まず9フレームワークを使ってみるといいだろう。
ビジネスを図解で理解する「キャンパスモデル」とは?
キャンパスモデルは、アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールが提唱したもので、ビジネスモデルを1枚の表で表現することで、アイデアを「見える化」するツールだ。こちらも、9つの項目を埋める必要がある。キャンパスモデルは、9つの項目のうち、真ん中に「顧客への提供価値」を置きながら、以下のように分類している。
自社サイド:
・パートナー・協力先・仕入れ先は誰か
・主となる業務は何か
・主となるリソース・強みは何か
・コスト構造
両サイド:
・顧客への提供価値は何か
顧客サイド:
・顧客は誰か、どういうセグメントか
・収入を得る方法は何か
・どのような販路・流通構造か
・資金の提供先は誰か
キャンパスモデルは、自社サイドと顧客サイドの両方から強み・弱みを分析できるという点で、バランスが良いツールと言えるだろう。
ビジネスを大きくするための「フライホイール」の考え方とは?
最後に紹介するのは、フライホイールのフレームワークだ。これは、顧客との関係性を表すフレームワークである。
顧客のステージを
・Attract (顧客の関心を集める)
・Engage(信頼関係を築く)
・Delight(満足させて、他者への推奨を促す)
の3つに分類し、それぞれのフェーズで取り組むべきアクションを決める、というフレームワークだ。
フライホイールのフレームワークの優れている点は、動的であることだ。他の2つがある時点での強み・弱みや今後のアクションを整理するものに対し、フライホイールは「Delightの顧客を増やすことが、次のAttractにつながる」というように、ビジネスが成長するにつれてホイールそのものが大きくなっていく。成長するための方法を考える際に適したフレームワークと言えるだろう。
具体的に、成功したビジネスをモデル化すると?
それでは、これまでに成功した2つのビジネスモデルを上記に当てはめて考えてみよう。
メルカリの事業をキャンパスモデルで図解すると?
まずは、CtoCで日本一の流通総額を誇るメルカリの事例を見てみよう。メルカリをキャンパスモデルで図解すると、以下のようになる
自社サイド:
・パートナー・協力先・仕入れ先は誰か:物流業者、決済業者
・主となる業務は何か:個人売買プラットフォームの整備(システム)
・主となるリソース・強みは何か:ユーザー数の多さ、システム
・コスト構造:システム開発費用、宣伝費用
両サイド:
・顧客への提供価値は何か:手軽で簡単に個人売買ができる
顧客サイド:
・顧客は誰か、どういうセグメントか:一般ユーザー
・収入を得る方法は何か:決済手数料
・どのような販路・流通構造か:CMやキャンペーンによる拡販
・資金の提供先は誰か:VCなど
「手軽に簡単に個人売買ができる」という提供価値を与えるために、顧客にはどのようなアプローチをして、自社サイドには何が必要か明確に整理されている。
アマゾンのビジネスをフライホイールで図解する
世界一のEC事業者、アマゾンのビジネスモデルについて解説しよう。アマゾンのビジネスモデルは、フライホイールを応用したものになっている。
アマゾンのビジネスの根幹は、「顧客満足の最大化」だ。顧客満足を最大化することで、カスタマー数が増える。カスタマー数が増えると、それを求めて出品者も増える。出品者が増えると、品ぞろえが増える。品ぞろえが増えることで、顧客満足が最大化する。このサイクルを繰り返すことで、成長が加速する仕組みなのだ。
アマゾンのフライホイールは、創業者のジェフベゾスがレストランでナプキンに書いたことで知られており、今もなおアマゾンのDNAとして息づいている。
最も重要なのは、「顧客への提供価値」
事例を見て気づいたかもしれないが、メルカリもアマゾンも、最も重視しているのは「顧客価値の最大化」だ。どれだけ他の要素が優れていても、顧客に支持されなければビジネスは成功しない。
フレームワークで考えることはとても大切だが、フレームワークの中であえて優劣をつけるとすれば、まずは「顧客への提供価値」を考えることをおすすめしたい。顧客への提供価値がしっかりしているからこそ、他の部分を整理する際にフレームワークが役立つとも言える。
フレームワークを活用して、ビジネスモデルを整理しよう
新規ビジネスを考える際、必要なものや強みを整理するのにフレームワークは非常に役に立つ。主なフレームワークをいくつか知っていれば、新規ビジネスをスムーズに考えることができるだろう。
フレームワークをうまく使うことができても、「顧客への提供価値」が明確でないとビジネスの成功はおぼつかない。新規ビジネスを考える際は、顧客への提供価値を明確にした上でその他の要素を整理していくと、うまく進められるだろう。
すでに提供価値が明確になっており、その他のことを整理するフェーズであれば、フレームワークを活用してみることをおすすめしたい。(提供:THE OWNER)
文・THE OWNER編集部