クライアントへ商品や役務を提供した場合、納品書を送付することがある。納品書は、商品や役務の提供側にとっても、受領側にとっても、取引の内容や状況を示す書類となる。納品書の発行や保管期間、ルールの有無などを、納品書の発行側・受領側、両方の視点から見ていこう。

納品書の基礎についておさらい

保管期間
(画像=PIXTA)

納品書の目的は、商品や役務を納品した事実と、その納品内容を明示することである。納品した物品や単価、数量、納品日などを記載しておくことで、何がいつ納品されたかの双方の認識を合わせることができる。しかし、発行自体は決して必要なものではなく、特に有形の物品がない場合は納品書がないこともよくある。

経理の観点からは、納品書を売上・仕入・経費の根拠資料として使用するケースがある。ただし、請求書やその他資料を用いている可能性もあり、必ずしも納品書を必要としているとは限らない。ちなみに納品書や請求書などの書類は、法律により保存期間が設けられているので、注意が必要だ。

法務の観点からは、納品書をもって契約上の義務を履行した事実や、物品の所有権が移転した日の根拠とするケースがある。あとで代金未回収や商品の破損などのトラブルになった際、事実を明確にして相手方に主張することができる。

納品書の保管期間はいつまで?会社法による保管期間が決まっている

会社法においては、重要な会計処理の根拠となっている納品書は、10年間の保存が必要である。まず、会社法の条文を見てみよう。

「株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない」(第432条)
「株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない」(第435条)

計算書類は決算書と同じと考えてよい。保管期間については、以下のように定められている。

「株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない」(第432条)

会計帳簿の中身については会社法で定めていないが、日々の会計処理を記載した仕訳帳や現金出納帳、それらを集約した総勘定元帳などを指すとされる。これらは会計ソフトなどのシステムから出力することもできるし、決算後に顧問税理士などから送付されるケースもある。納品書がこれらの帳簿作成時の重要な資料となっている場合、例えば多額の売上高の証拠資料になっている場合などは、会社法の求めに応じて保管が必要となると考えられる。

なお、「会計帳簿の閉鎖の時」とは一般的に期末を指すとされているので、期末から10年間保存が必要ということになる。

法人税法および関連法令による保管期間

法人税法においては、会計処理の根拠資料としている納品書は、7年から10年間保存が必要である。

法人税法施行規則においては、「現金出納帳その他必要な帳簿を備え、その取引に影響を及ぼす取引に関する事項を整然と、かつ、明瞭に記録し、その記録に基づいて決算を行わなければならない」(第66条)と規定されている。

法人税法で「当該帳簿(当該取引に関して作成し、又は受領した書類及び決算に関して作成した書類で財務省令で定めるものを含む)を保存しなければならない」(第150条の2)とされ、法人税法施行規則にて書類の内容を次のように規定している。

「相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し」(第67条)

つまり、相手から受け取った納品書を仕入、経費の根拠にしている場合や、自社で作成した納品書を売上の根拠にしている場合は、保存が必要となる。

保存期間については、法人税法施行規則において「起算日から七年間、これを納税地に保存しなければならない」(第67条)となっている。起算日とは「作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日」(第59条)となっている。会計処理をした年度に納品書を作成または受領しているケースが大半と考えられるので、会計処理をした年度末から2ヵ月を経過した日より7年間となる。

なお、会社が出した損失(欠損金の繰越控除)と翌年以降の利益を相殺して税金を減らせる仕組みがあるが、これを適用する場合は、保存期間が9年または10年間となる。

もともと欠損金の繰り越しは5年間であったが、税制改正によって徐々に延長された。2008年4月1日以後に終了した事業年度に損失を計上した場合は9年、2018年4月1日以後に開始する事業年度に損失を計上した場合は、10年になった。損失額の正しさを証明するためには、各資料を残しておく必要がある。よって、損失計上時の年度の会計処理の根拠としている納品書は、最大で10年間の保存が必要だ。

仮に法人税法の要請通り保存していなかった場合は、経費が認められなかったり、繰越欠損を利益と相殺できなかったりして、保存していた場合より多額の納税が必要になる可能性がある。

消費税および関連法令による保管期間

消費税法においては、設立したばかりの法人や事業を開始したばかりの個人事業主など、消費税を税務署へ申告していない場合は保管は義務ではない。消費税申告をしている場合は、原則、会計処理の根拠資料としている納品書は7年間保存が必要である。

そもそも消費税の申告と納税の仕組みは、売上高に含めて受け取った消費税と、仕入や経費に含まれて支払った消費税の差額を申告し、国へ納付または国から還付を受けるものである。納品書に代金や消費税が記載され、これを根拠として会計処理を行い、それに基づいて消費税申告をしているのであれば、税務調査などのときに消費税の申告の正しさを証明する書類の一つとして納品書が必要になる。

怠慢や不手際で法令に基づく書類を保存していない場合、支払った消費税が認められず、その分消費税の納税額が増えてしまう可能性がある。災害に遭った場合など、やむを得ず保存ができなかった場合は税務署に相談すれば対応してくれることもある。

個人事業主の納品書保管期間

個人事業主の場合には、会社法は関係せず、法人税法ではなく所得税法が関係する。取引について証明する書類であれば、納品書の保存期間は5年間となる。

「取引に関して相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し」は5年間となっている(所得税法施行規則第63条)。

納品書という明示はないが、これらに準ずる書類として会計処理の根拠としているのであれば、保存すると考えるのが自然である。なお、消費税を申告する個人事業主については、法人と同じ消費税法が適用されるため、上記のとおり7年間の保存が必要である。

納品書はどうやって保管する?原則は紙媒体で保管

上記の理由で納品書を保管する場合、原則は紙での保管が必要となる。パソコンを用いて作成や受領をしたものであっても、印刷して紙で保存することになる。

国税庁タックスアンサー「No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法」

電磁的記録でも大丈夫?

自社がパソコンで作成した納品書や、メールで届いた納品書も、すべて紙で出力して保管しなければいけないのだろうか。また、紙で届いた納品書はスキャンして保管しておくことで、紙での保管が不要になるのだろうか。

その答えは「場合による」である。

国税庁が特例として、さまざまな要件を満たした場合に紙以外での保管を認めている。いわゆる「電子帳簿保存法」である。納品書だけでなく、請求書や、会計帳簿なども含めて広く場合分けしているので、興味がある方は詳しく調べてみてほしい。ここでは納品書の扱いに絞って記載していく。マイクロフィルムによる保管の規定は割愛する。

まず、当社がパソコンで作成し、出力した納品書を手渡しや郵送する場合である。控えを紙ではなくデータのまま保管したい場合は、例えば以下の要件を満たすことが必要である。

・事前の税務署長の承認
・データにアクセスできるPCとディスプレーと操作説明書を事務所に用意しておくこと
・取引年月日や取引金額などを検索の条件として設定することができること
・日付や金額の範囲指定や、2つ以上の項目を組み合わせた検索ができること

次に、電子取引といって、送信側も受信側もEメールやその他インターネットのシステムなどの電磁的方法を通じて納品書をやりとりした場合は、紙での出力がいらないとされている。電子取引の場合、事前の税務署の承認は不要である。ただし、その真実性と可視性を担保するために、例えば以下のような要件がある。

・データにアクセスできるPCとディスプレーと操作説明書を事務所に用意しておくこと
・取引年月日や取引金額などをデータ検索の条件として設定することができること
・日付や金額の範囲指定や、2つ以上の項目を組み合わせた検索ができること
・タイムスタンプの付与や、訂正と削除が容易にできない体制の構築

最後に、取引先が作成した納品書を紙で受領した場合である。これをスキャンやスマートフォンで撮影して保管するには、例えば以下の要件を満たすことが必要である。

・事前の税務署長の承認
・受領後速やかなスキャンまたは撮影
・タイムスタンプの付与
・訂正時のバージョン管理
・紙と同等水準で表示できるディスプレーやパソコン
・操作説明書や事務手続きの書面の備え付け

それぞれの要件を満たさない場合は紙での保管となる。

納品書の電子化申請方法

電磁的記録の場合に税務署長の承認はどのように得るかというと、国税庁ホームページにある申請書を利用し、税務署に送付することで申請が完了する。ただし、電磁的方法による保管を希望する日の3ヵ月以上前に提出する必要がある。3月31日が期末の会社の場合で、4月1日から保管方法変更を希望するならば12月31日までに提出が必要だ。

このとき「提出」が指す意味であるが、この申請書は提出期限の定めがある書類であるため、発信主義といって、簡易書留などの発信日が明確なものはその日、普通郵便なら通常要する送付日時を基準として判断される。

電子帳簿保存法第6条において、承認または却下は、税務署から書面にて通知されることになっている。もし3ヵ月以内に通知がない場合は、承認があったとみなされる。

国税庁HP「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等の承認申請」

保管期間はしっかり納品書を管理しておこう

納品書はその作成者や使われ方に応じて、保管がいるもの、いらないものがあり、最大10年保管がいること、原則は紙だが電子データでも保管できる。いつでも納品書が確認できるよう、保管期間を理解したうえで、紙や電子データのファイル名などで保管のルールを適切に定め、管理しておくことをおすすめする。(提供:THE OWNER

文・新井良平(スタートアップ企業経理・内部監査責任者)